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第3話

 あの晩から早くも半年が経った。 「万理さん、この後どうですか?」  あの日、『目が覚めたら、全部夢だったらよかったのに』とも思ったが、こういう時に限ってしっかり覚えているもので、本気で行方を眩まそうかとも考えたが、その後の万理があまりにも普段通りだったので今でもこうして自分はここにいる。  あの日から変わった事といえば、お互いの休みが被った時や大和の仕事の入りが遅い日の前日、どちらからともなく声をかけては万理の家に行くようになったことだ。 (…相変わらず、キスはお預けだけどな) 「いいですよ〜。俺の方ももう少しで片付くので、先に行っててもらえますか?」 「…了解っす」 (…セフレってのも少し違う気がするんだよな〜、俺たちの関係って)  そんなことを考えながら慣れた手付きで部屋へと上がりこんで、一人で寝るには広すぎるクイーンサイズのベッドに寝転がる。 「…相変わらず、デカいベッド……」 (…一人で寝転ぶには…広すぎますって…。万理さん…) *** 「……遅くなってすみません…急遽、仕事が入ってしまって……おや?」  2時間後――  玄関を開けながら先に来ているだろう大和に声をかけるが、部屋の明かりが付いていない事に気付く。 (おやおや……)  自分を待っている間に寝てしまったのだろう。大和は枕を抱き枕代わりにして、子供のように眠っている。 「…ははっ…可愛いことしてくれるじゃないか…、君って子は…」  寝ている大和を起こさないようにしながら寝る支度を済ませ、大和の隣に横になる。見ていない間に寝返りでも打ったのか、先程までしっかり抱きしめられていた枕はベッドの端に転がっていた。抱きしめるものがなくなって、どこか寂しげに身体にぴったりと寄せられた手をそっと握ってやる。 (…俺は…もう大切なものを増やさない、って決めたはずだったのにな…)  寝ている大和の頬に優しく口付ける。 「…ねぇ、大和くん。俺の恋人になってくれませんか?」  寝ている相手に返事など聞けるはずがない、そう思った。 「…それ…寝てる相手に言います?普通…」 「……っ、や…大和…くん、起きてたの…!?」  大和の狸寝入りに『すっかり騙された!』と、驚いて身体半分飛び起きる。 「…いや…万理さんが風呂入ったりしてる間に…」 「…起きてるなら…言ってくれればよかったのに……」 「少しびっくりさせようと思って。まぁ、結果的にびっくりさせられたのは俺の方でしたけど…」  万理と目線を合わせた大和が、恥ずかしそうに頭を掻きながら視線を彷徨わせ口を開く。 「…もう…キス、してもいいんですよね…俺…」 「…いくらでも」

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