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第2話

 それからしばらくして…-- 「…まだ…、だいじょうぶですよ……」  呂律の回らぬ口調で大和は、最早何本目か分からぬビールを開けようとする。 「…全然大丈夫そうには見えないんだけどね?ほらほら…、気分悪くなる前にお水飲んで」  大和からビールを取り上げて、子供をあやすようにそっと水を飲ます。万理も大和と同じくらい飲んでいたはずだが、顔色一つ変わっていない。 「…かに……、誰かに…甘やかされるのって…くすぐったいっすね…」  水を飲んで、少し落ち着きを取り戻したらしい大和がポツリと零す。  『自分は今まで一人で生きてきた』とは思わないけれど、人を信じることが出来なくて、いつでも”いなくなる”準備をして生きて来た。当たり障りなく人間関係を築いて、不要になればいつでも切り捨てる。世渡りのため相手の心に入り込んで、信頼を勝ち取る。けれど、絶対に自分の心は許さない。それが自分の生き方だった。だから…相手を甘やかすことはあっても、自分が甘えることなど今までなかったのだ。 「…そう?俺には分からないけど、大和くんがそう思うのなら…。大和くん、貴方を甘やかしてみるのも悪くないかもしれないですね」  今まで聞いたこともない優しい声音。 「……っ」 (…どんな口説き文句です、か……それ…!)  仕事モードをオフにした人間の不意に見せる敬語が、ここまで計り知れない破壊力を持つものとは考えもしなかった。こんなものは全部アルコールのせいだ、と必死に言い聞かせる。万理と目が合った瞬間…胸が高鳴ったのも、無性に誰かに甘えたいこの衝動も…全部……。明日になったら忘れる、儚い夢だ。 「…俺、誰かに甘やかしてもらうような歳じゃないですよ…」  万理に肩を引き寄せられて、子供のように頭を撫でられている。自分とそこまで歳も違わないはずなのに、自分の頭を撫でているこの人は年齢以上に大人びて見えた。 「…万理さん…、酔ってます?」 「…うん、大和くん程じゃないと思うけど」  ふと顔を上げると、万理の顔が目の前にあった。それこそ唇が触れられそうな距離だ。 (…あ…なんか……)  その時万理の口元がふっと緩む。 「…吊橋効果ってやつ、かな…。でもキスはダメだよ、大和くん」  万理の大きな手で口を塞がれて、そのまま視界が反転する。万理の長い髪が、大和の頬を優しくくすぐる。 「……こっちはOK、なんですか…?」  万理がこの後自分にしようとしていることを理解した上で、そう聞き返す。 「『キスは恋人にしかしない』って、決めてるんだ。俺にとってSEXは…例えるなら、ストレス発散と似たようなものだからね」 「…なるほど。確かにLIVEの後とか、テンション上がりすぎて、どうしようもない時ありますね……」 「へえ…、大和くんにも”そういう時”あるんだ?意外だなぁ。……ねえ、拒まないってことは肯定と受け取っていいのかな?」 「…拒むなら、最初から拒んでますよ」

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