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「……ぇ、今…なんて………?」 静かな診察室で、ぽつりと声を漏らす。 「君の進路を、研究センターにしたいそうだ」 Ωからβになる薬を飲んだことで味覚を失った。 そんな後遺症を起こしたのは、これまでで僕1人。 だから、その体を調べたい。この先誰かが同じような症状を起こさないためにも。そしてより良い薬の開発改良のためにも。 「研究センターが君の両親へコンタクトを取ったそうで、それに両親が賛成したと」 即ちそれは、一族も賛成したということ。 僕の卒業後の進路は、研究センターになる。 「………っ、」 研究センターなんて、遠すぎる。 此処からじゃ飛行機に乗らないといけない。 「柚紀くん、今こそ反発するべきだ。 今までずっと耐えてきたじゃないか。この選択は君の将来に大きく関わる。研究センターへ行ったら、もう外に出ることも難しくnーー」 「先生」 「ん、なんだい?」 「僕が協力したら、もう僕のような人は出てこなくなりますか?」 「そう…だね。今飲んでいる人たちも大丈夫だろう」 「それは、他の薬にも反映される……?」 「うん? あぁ、同じメーカーのものだったらきっと反映されるはずだ。活用できるものは絞りとってでも活用するだろうさ」 「ーーなら、行きます」 「え………?」 ビックリしてこちらを見る顔に、笑いかけた。 もし もしこの先、あの薬を飲み続けている堤さんの味覚に影響が出てくるとしたら あのケーキを、マカロンを、焼き菓子を、作れなくなってしまったとしたら こんなに悲しいことはない。 だって、あの店には堤さんの誇りがいっぱい詰まっているから。 「ねぇ、先生」 「ん…?」 「僕の体調が落ち着いてきた時期があったでしょう? ーーその時ね、僕、魔法使いに出会ったんです」 「魔法…使い……?」 「はいっ」 その人の手が作るものは、全部味がした。 その人の発する声は、すごく優しかった。 その人の作る表情はどれも甘くて、本当に素敵で、大好きだった。 今、僕の体を作っているのは確実にその人の魔法で。 そのおかげで、僕はここまで生きている。 だから、その 恩返しがしたいんです。 「ーーっ、柚紀、くん…まさか……その人は……」 「ふふふ、秘密です」 絶対絶対、誰にも言わない。 僕だけの秘密。 「先生、今まで本当にお世話になりました。 後数ヶ月ですけど、最後までよろしくお願いします」 これまで何の抵抗もせず全てを受け入れてきた自分が、まさか自ら進んでいくような未来が来るなんて想像もしてなかった。 でも、別にいい。 あの人の為になれるのなら、喜んで行く。 それに、あの人はβでありたいと思ってる。 ーーなら尚更、僕が近くにいちゃ 駄目だ。 クシャリと顔を歪ませた先生に、笑って。 少しだけ雑談をした後、薬を処方してもらい帰った。

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