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第6話
それから少しして。
二つ不思議な出来事があった。
僕は今、庭にいる。
そこには元々存在した桜の大樹があるのだが――その横に、小さな桜の木が生えてきた。当初、使用人達に聞いてみたのだが、誰も植樹などしていないというから、僕は首を捻るばかりだった。すると訪れた隆史さんが実に嬉しそうに笑ったのである。
「水城。これからは、引越しだな。俺達の新居に移ろう」
「相思相愛になったから?」
「違う。見ろ、新しい桜の式神だよ」
その言葉に僕は驚愕して、目を丸くしたものだ。こうして僕は引っ越し準備を始めた。賢はその間も僕のそばにいたのだが――ある日、白い子犬がその横に付き従うようになった。賢は雄だと思っていたし、そうでないとしても、妊娠している気配など無かった。こちらにも驚いて隆史さんに報告すると、「まさかこちらにも幸せが増えるとは」と、微笑まれた。なんでも、予想外の事に、隆史さん曰く僕にも力があったために、桜の木だけでなく、白犬の式神である賢の力も枝分かれしたらしい。即ち、賢にも子供がデきたのだという。これには華頂家だけでなく、蘆屋家の人々も大喜びしたらしい。
桜の式神は、僕の次代となる従弟に託す事になり、僕達は賢とその子供の式神を連れて、少ししてから引っ越しをした。二人の新居で、これからは毎日一緒にいられる事になり、通い婚は終了した。政治家でもある隆史さんは、家の関係以外の多数の参列者を招いて、披露宴を行った。僕と隆史さんの挙式は、大々的にニュースでも取り上げられた。
それが映し出されるテレビを眺めつつ、僕はコーヒーを飲み込む。
そして隣に座っている隆史さんを、チラリと見た。すると隆史さんは、じっと僕を見ていた。気づかなかったものだから、赤面してしまう。
「愛してる、水城」
「……僕も」
そう告げて、僕はリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を消した。そうして目を伏せる。柔らかなキスの感触を、唇に感じたのは、それからすぐの事だった。現在、非常に僕は幸せである。
と、同時に。
一つの推測をしている。花現病の発症理由――それは、片想いだろうという推測だ。死に至る場合は、その相手の死だと考えられる。治癒する場合は、両想い。僕は半ばこの仮説を確信しながら、より深くなるキスの甘い感覚に浸る。
茨木の分まで、僕は幸せになろう。最近では、兄について、前向きに考えられるようになった。それもまた、隆史さんがそばにいてくれるからに、ほかならない。
「愛してる」
そう繰り返し、僕は隆史さんに抱きついたまま、赤い花びらを思い出した。
しかし脳裏に浮かんだその色を、すぐに打ち消し目を開ける。
そしてじっと隆史さんを見つめ返し、両頬を持ち上げた。
今、僕の内側には、幸せが満ちているのだから、たとえば今、怪我をしたとしたら、溢れてくるのは幸福となるだろう。
―― 了 ――
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