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第1話 俺のだから
「なぁ、助けてやろーか?」
すでに居たであろう彼に気付かず真冬の屋上でぶるぶる震えながら1人になれたことに安堵し座り込んでいた。自分を抱きしめ俯いていると音もなく近づいていた彼が僕を見下ろしていた。
「!?!?」
同じクラスの赤城(あかぎ)二年生にも関わらず彼に口を出すものはいない。一年生の時にはこの学校の頂点だった。
驚きのあまり声を出せずにいると
「だからー、助けてやろーか?条件付きで」
「条件って…なに?」
「簡単だよ。俺のものになること」
「俺のものってパシリとか?」
「んーたまにはお願いすることもあるかも知れないけど、本気で嫌がることはしないよ」
「どうして助けてくれるの?今まで何も関わっていないのに」
「んーなんとなく?」
ガシャン
慌てて出入口を見ると追って来ていた奴らだった。いじめられっ子といじめっ子の鬼ごっこが続いていた。もう見つかった。立ち上がり、どうやって逃げようか慌てていると後ろから腕を掴まれる。
「助けはいらない?」
「た たすたす助けて!」やっとの思いで言えた。正直、この後どうなるのか不安はあったけど、もう逃げるのは嫌だった。
「了解」
僕の前に立ち奴らに一言。
「こいつ、今日から俺のだから。言ってる意味わかるよな?」
おもちゃを取り上げられて悔しそうな顔でクラスのいじめっ子は立ち去った。
今思えば、何故いじめられるようになったのか分からない。確かに何の取り柄もない平凡だしコミニュケーション能力も高くない。だけど、何故毎日こんな思いをしなければならないのか…最初は軽い悪口だった。「根暗」「邪魔」それからやりたくない当番などをさせられる。それが二年の冬にもなればパシリは当たり前、女子を巻き込んだ冗談をさせたり、お金を要求されることも少なくない。周りは見て見ぬふり。助けたいと思っても次は自分がいじめられると思ったら助けられない。分かる。分かるよ!分かるけど…それでもやっぱり助けて欲しかった。学校に来るのが苦痛でしょうがなかった。初めて手を差し伸べてくれたのは学校一恐れられている不良の彼だった。彼の条件付きには不安だったけど「本気で嫌がることはしない」を信じたかった。
信じて良かった。
僕、橘花亮太(たちばなりょうた)の生活は何もかも一変する。
助けてくれた日から一週間。
あれからいじめていた奴らは何だか腑に落ちない顔をしていたが、相手が相手なのか何もしなくなった。いじめはなくなった。と、思う。
「亮太帰ろー」
「あ、うん」
あれから彼といる時間が多くなり、毎日こうして一緒に帰っている。
彼は学校の近くで一人暮らしをしているらしいが僕を最寄り駅まで送って別れる。
「えーと…今日…」
「うん?なに?」
「いや、いい。じゃあ…また来週な」
「うん。また」と手を軽く振る。
まただ。帰り際、何か言いたそうにしているのに何も言わずに別れる。これが、数日続いてる。僕は、気になりつつも追求できるわけなく、今日も駅近くの図書館で勉強をしていた。大学受験の為のものだ。彼は知らない。
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