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第2話 智樹
不良の彼は助けてくれた日から毎日学校に来ていたのに今朝のメールで「今日は休む」とあった。何かあったのだろうか。「体調悪いの?」と返すと「別に」と返ってきた。どんなにいじめられても学校を休むことはしなかったが何だか落ち着かない。彼が一人暮らしするマンションまで行くことにした。だが、マンションが分かっても部屋番号までは分からなかった。どうしようかと思っていると中から見知った人物が出て来た。確か彼の友達。見るからに不良。怖い。でも、この人なら彼の部屋がわかるかも知れない。
「すみません…あの、赤城くんの部屋分かりますか?」
「は?誰だテメ…って、もしかして優也の知り合い?」
ビビって声は出せなかったけど、ブンブン頭を縦に振った。
「ハハウケる。優也の部屋番305だよー行ってやってよ。一人で暇してると思うし」
「あ、ありがとうございます」
「はいよー」
友達は手を振りながら笑って去って行った。
305号室の前、来たことで怒られるんじゃないかとビクビクしながら呼び鈴を押す。
「何だよ、智樹(ともき)忘れもんか?」と言いながらドアを開けてくれた。
「あ、おはよう!あの勝手に来てごめん」
「亮太!?」
「あの…怪我したの?」
「こんなの大したことない。お前に心配かけると思って行かなかった」
「心配するよ。急だけど、お家に来ても良かった?」
「ああ、いいよ…上がって。って学校は?」
「サボった」
「何サボってんだよ」中に入って二人でソファーに座った。
「学校よりも大切なこともあるんだよ」
「それって、俺のこと?」
「うん。だって助けてもらったし、何かあったのかなって少し心配だったから…でも、大したことなくて良かった」
話を聞くと、土曜の夜に智樹くん達と遊んでいると他校の学生に絡まれ不意打ちに一発もらったらしい。顔は口の端が切れアザになっていた。それ以上に、返り討ちにした手の腫れの方が痛々しく見える。人を殴るのも痛みを伴う。止めればいいのに…
そんなことを思いながら、そっと手の傷に触れる。
「痛いよね?僕に何かできることある?」
「出来るって言うか…」
「何?」
「してほしいことはある」
「どっか痛いの?僕にできる事は何でもするよ。何してほしいの?」
「キスして」
「え?あ、うん」
そっと、手の傷にキスをした。
「あ、いや、そっちじゃなくて…まぁいいや、ありがと」
「?」
「おっと、お茶も出してなかったな」
「いいよ。顔も見れたし、長居も良くないから学校行こうかな」
「え、行くの?」
「うん」
「もしかしたら、俺がいなかったら奴らに何かされるかも知れないじゃん」
「うん、そうだね。でも、赤城くんがいないと何もできないって思われたくもないし。僕、大学受験も考えてるからあまり休みたくないんだ。だから、とりあえず行ってみるよ」
「分かった。何かあったらメールして」
「うん。ありがとう」
「おう」
そう言って、亮太は彼の家を出た。
走って彼のマンションから離れた。
ドキドキしてる。
「いきなりキスしてって///びっくりした」
恋愛経験のない亮太にとって、キスと言うワードはドキドキするものだった。
教室に入ると、ちょうど休み時間だった。彼が言っていたことは的中し、奴らがニヤニヤしながらこっちを見てくる。咄嗟に廊下に出て走った。奴らが追いかけてくる。
階段の踊り場で捕まり抑えつけられる。
「おい、もうアイツとヤったのかよ?アイツは男も女も関係ないらしいからな」主犯格が言う。
「でも、相手から誘わない限り自分からは手出さないらしいぜ。しかも、服も脱がないし前戯もしない。最低なヤローだぜ」仲間が言う。
三、四人で彼の悪口を言いながらニヤニヤする。
「じゃあ、お前から誘うの?じゃなければ、そのうち飽きてお前は捨てられるな」
その時、低い声が聞こえてきた。
「おい、テメーら。俺のダチのもんに手だしてんじゃねーだろーな」智樹くんだった。
「チッ。ちょっと喋ってただけだろーが」
僕から離れて、ぞろぞろと智樹くんの横を通り過ぎて行く。
「おい、大丈夫かよ。お前に何かあったらアイツが手つけらんなくなるから、アイツがいない時は俺を頼れよ」
「ありがとう。智樹くん。」
「ところでさー、最近アイツ何か心ここに在らずでぼーっとしてると思ったらイライラしたりでおかしいんだよなー、何か知ってる?」
「いえ、知らないです。」
「ふぅーん」
「何ですか?本当に何も知らないです!僕の前では至って変わりありませんから」
「そっかそっか。分かったから、そうムキになるなよ」
「でも、何かあってイライラしてたら、またケンカやトラブルに巻き込まれるかもしれませんね…心配です…」
「それは大丈夫。俺もいるし他に仲間もいるから。でも、念のためお前の連絡先教えて」
「分かりました。僕にも智樹くんの連絡先教えてもらえますか?」
こうして連絡先を交換した二人だった。
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