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第3話 優って呼ぶよ
智樹くんのおかげで、何事もなく学校を終えた。その足で、また彼の家へ向かう。
いつも彼の周りにはたくさんの人がいるが、彼は自分からは誘わない。来るもの拒まず去る者追わず。奴らが言っていた事は本当なのだろう。ただ、今の僕にそんな事は関係なかった。正直どうでもいい。今、僕は彼のものだから。助けてもらった時から嫌なこともされてないし、寧ろ本来の高校生活が送れている。とても、感謝している。感謝の気持ちをちゃんと伝えたいけど、伝え方が分からない。せめて差し入れだけでもしようとジュースやゼリーなど口を怪我してる彼でも摂取出来るものを選んだ。ただ、さっきの「キスして」は、恋愛やそう言ったことに免疫がない僕には刺激が強くドキドキしていた。きっと昔の人が言う舐めとけば治るからきているのだろう。と、思うのだけど、ドキドキしてる。こう言うことにも慣れなきゃな…
そんなことを考えていると、彼のマンションに着いてしまった。さっきは入口で智樹くんがいたから入れたけど、今はエントランスからインターホンを鳴らして開けてもらわないと入れない。また来たのかと今度は怒られるかも知れない…でも、覚悟して305のインターホンを鳴らす。なかなか出ない。向こうからは誰が来たのか確認できるから、もしかすると居留守かもしれない。
「…… 」
諦めて帰ろうとした時
「おい」インターホン越しに聞こえた。
「赤城くん?」
「あぁ、どうした?」
「とくに用事はないんだけど、差し入れ持って来たから…」
「今開ける」
彼の部屋のソファーは大きい。さっきは隣に座っていたのに今は少し離れたところ座っている。飲み物やお菓子を出してくれたけど、やっぱり迷惑だったのだろうか。彼の様子も気になるし、ぎこちない…何となく気まずいけど、何か話さなきゃと思い学校での事を話した。
「そう言えば、赤城くんの言った通り奴らに追いかけられて捕まってしまったんだけど、運良く智樹くんに助けてもらったんだよ」
「!!? ともき?」
「そう、赤城くんのお友達の」
「へぇー、良かったじゃん」
「うん。智樹くんが優しい人でよかったよ」
その時のことを思い出しながらニコニコ笑って話す。彼の機嫌が悪くなっていることに気づかないで…
「てかさー、ともきくんともきくんうるさいんだけど…」
「え?あ、ごめん。こんな話、面白くも何ともないよね」
慌てて誤って、少し仲良くしてくれたくらいで馴れ馴れしくしてしまった事に後悔した。
「じゃなくて!何で俺の事は今だに赤城くんなのに、智樹は智樹くんなんだよ!!」
「は?…へ?」
ぽかーんとしていると
「俺のことも名前で呼べよ」
「えっとー名前って…」
「もしかして知らねーの?!」
「ごめん」
「優也だよ!ゆうや!」
「え、あ、そうだった。じゃあ ゆう…くん?」
「おい。舐めてんのか?」
「いやいや、そんなんじゃない!親しみ込めて…ゆうくんって良くない?」
「じゃあ、優は?」
「そんな、呼び捨てみたいなのはちょっと…ハードルが高いと言うか…」
「何なんだよ!」
「わーそんな怒らないで」
「優がいい」
「わわかったから。じゃあ、優って呼ぶよ?」
「おう」
「優」
「、、、」
「もう怒ってない?」
「あぁ」
「良かった。でも、何で優なの?」
「仲間はみんな優也だから、特別な感じがいいかなって…」
特別か…何だか分からないけどふわふわした空気になって、とても心地よい瞬間だった。だったけど、一瞬で引き戻された。
「で?アイツらなんだって?」
「え?あぁ、教室に着いた途端、休み時間で逃げたんだけど捕まって、そんな時、智樹くんが偶然通りかかって助けてくれたんだよ」ヤったのかどうのこうのは言わなかった。
「いつ、智樹と知り合ったんだよ?元々知り合いってわけじゃないよな?」
「うん。今朝このマンションのエントランスで来てみたものの部屋番号も知らないことに気づいて困っていたら智樹くんが来て、入れてくれたんだよ。ちょうど出るところだったみたいで助かったんだよ」
「あぁ、だから、今朝は玄関前にいたのか」
「そうそう。クラスの奴らからも助けてもらったし、智樹くん優しいよね。」
ニコニコ嬉しそうに話す僕を、優はなんとも言えない顔で見ていた。
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