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第1話 電車旅

 地図の上での距離と、実際の移動距離に大きな差があることって、あるだろ?  今向かっている母方の田舎は、正しくそういう場所にある。  地図で見たらほんのちょっとなのに、山があるからだか川があるからだか、なんかそういう理由でぐるっと迂回しなきゃたどり着かないんだ。  電車の窓に映る景色は、どこまでも変わり映えがしない。  山と谷と畑と、対面二車線でうねうねと曲がった誰も通ってない道路。  この峠を越えたら目的地だから、あと三十分ほど。  子どものころ、長期の休みの度に辿っていた道程は、呆れるほどに変わってない。  とはいっても往きでの乗り物酔いのピークは、大体この辺で迎えていたから、記憶しているといっても怪しいけどな。    指折り数えれば、十年ぶりに足を運んでいる。  何度も訪れている母方の田舎だけれど、退屈だったなとか、あんまり居心地よくなかったなとか、移動時間長くて面倒だったなとか、そういう印象しかない。  一番記憶にあるのが湿った木材の匂いだから、多分、古い日本家屋の匂いだと思う。  オレにとって母方の田舎なんて、そんなもの。  楽しみがなかったわけじゃないけど、総じて、オレにとっての長期休暇は面白いものじゃなかった。  なんせ、ガキだったもので。  母は楽しみにしていたんだろうと思う。  小学生のころの長期休暇は、ほとんど目一杯、オレを道連れに田舎で過ごしていたから。  オレが中学に上がるころにはいろいろと忙しくなって、同行しなくなって、母だけ盆休みに合わせて行くようになった。  今回だってこの数年そうしていたように、母だけが田舎に行くはずだったのだ。    がくんとカーブを曲がって電車の速度が落ちていく。  もうすぐ駅。  下車の準備をしながらため息ひとつ。   「これ、絶対あいつの陰謀……」    オレが来ることになったのは、有無を言わせず切符が送られてきたから。  一人暮らしの自宅に送ったら受け取り拒否するとでも思ったのか、職場の方に送られてきたわけよ。  何事かと思って母に連絡をとったら、祖母が施設に入っただの、墓の移転をするだの、法事がどうとか……まあ、出てくる出てくるって感じで理由を告げられて、『切符もあるし顔出せや』的なまとめをされてしまったのだ。  癇性な母を持つ一人息子としては、そうなるともう逆らう気にもならない。  職場に頭を下げて、カレンダー通りの盆期間に、往復時間分数日くっつけての長めの盆休み。  オレ、まだ三年目なんですけど。  歴も浅いし独身だしで、先輩方には大変申し訳ない。  恨むならこういうことになると想像して、切符を送り付けてきたであろう従兄を恨んでください。  オレも、そうするんで。 『お忘れ物のないようにお降りください』  割れた音のアナウンスが入って、電車が止まる。

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