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その後の話 意外で、幸せ
で、それからの話。
当然のごとく遠距離恋愛だろうと、オレは覚悟を決めてたわけ。
だって、せい兄ちゃんもオレも仕事があるからね。
どれだけ好きだって思いあっていたって、一緒にいることよりも先に、生活できなきゃ。
大人だからさあ……って、思ってたのだ。
のだ。
けど!
せい兄ちゃんは元々家を出る予定だったからと、月が変わらないうちに涼しい顔で次の職を決めて、オレが一人で暮らす部屋の近くに越してきた。
同居にしないのは、それこそ大人の配慮だそうです。
なので週末はほぼどっちかの部屋で過ごす。
平日も会える時には会うし、何なら一緒に夜の散歩に行ったりする。
今更学生時代をやり直してるかのように、隙を見てはイチャイチャしてるんだけど、せい兄ちゃん的に同居は同棲だから、まだ早いらしい。
せい兄ちゃんの理屈がよくわからない。
夏も終わりかけだっていうのに、溶けちゃってもいいですか~って外気温の今日、さほど広くないオレの部屋には、しょう兄ちゃんとせい兄ちゃんがいます。
なんかさ、しょう兄ちゃんはいろいろと出会いを求めるための拠点を、せい兄ちゃんの部屋にするって決めたらしい。
オレの部屋ではだめなんだってさ。
やっぱりよくわからない。
兄ちゃんたちはお互いに納得しているようだけど、オレには全然わからない。
まあ、それはもう、ずっと前からのことだから気にしてもしょうがないんだけどね。
男三人がワンルームマンションの一部屋にいるってだけでも、なかなか暑苦しい感じがするのに、兄ちゃんたちは嵩高いので、暑苦しさ倍増なんだけど。
「あ」
床に座ってチャーハンを食べていたしょう兄ちゃんが、眉を寄せた。
「今、ガリっつった」
「じゃあ、翔太が当たりだね」
さらっとせい兄ちゃんが流そうとして、そうはさせるかってしょう兄ちゃんが食い下がる。
「こういう当たりはいらねえんだけど?」
「喜んで受け取ってよ」
ごくごくと麦茶で流し込んで、むーんって顔でしょう兄ちゃんが皿の中のチャーハンを見つめる。
うん、言いたいことは予想つく。
「お前基本的には器用だから、これは予想外だわ~。誠也、お前、一人の時何食ってんの?」
「普通にあるものを。都会は便利でいいよね」
「そういう問題か?」
「それで何とかなってるんだから、いいじゃん。今だけだし」
「今だけなのか~?」
「今だけだよ。鋭意修行中だから」
「ああ、そう……」
「そう」
せい兄ちゃんはなんてことない顔して、しょう兄ちゃんは渋い顔で、二人はチャーハンを食べすすめる。
しょう兄ちゃんぶつくさ言ってるけど、そこ、一番マシなとこだからね。
タマゴの殻も焦げも避けて、一番出来のよさそうなところ、その皿によそったからね。
ちなみに一番大変そうなとこは、せい兄ちゃんが自分で責任を持って食べると、自分の皿によそってた。
オレはまあほどほどに食べられる状態のところ。
と見せかけて、さっき、塩の塊が入っていたので、顔をしかめないように必死です。
そう。
実はというか意外なことにというか、せい兄ちゃん、家事が一切ダメな人だった。
そりゃあまあ、ちょっと考えたら予想つくことだったよね。
せい兄ちゃんは今までずっと実家から離れたことなかったんだもん。
全部、せい兄ちゃんのお母さんがしてくれてたんだろうし。
速やかに転職と転居を決めて家を出たせい兄ちゃんだったけど、そこからは割とダメダメな人だ。
ガスや水道の手配とか、知らなかったんだよね。
かろうじて電気が通ってて幸いだった。
掃除機はかけられるけど洗濯干すのは超へたくそで、料理はからっきし。
なので本人曰く『鋭意修行中』。
「ノタ? なんか入ってた?」
オレの顔を見てせい兄ちゃんが言う。
そのなんというか心配そうな顔が、めっちゃかわいい。
しっかり者のせい兄ちゃんの、いっつも兄ちゃんって感じの人の、心細そうというか「なんかやっちゃった?」って感じの顔って、すごくぎゅんってくるんだけど!
「ん~ん。大丈夫」
麦茶を飲んでからオレは笑う。
しょぼんってしたせい兄ちゃんが心配しないように。
「前よりずっとおいしい。作ってくれてありがと」
そしたらさ、せい兄ちゃんも笑ってくれるんだ。
そりゃあもう、オレの心を鷲掴みにするくらいの、他では見せないだろうなって顔で、ぱああって。
だから多少まずい料理くらいは、どってことなくなる。
「お前ら、そういうキャラだったっけ?」
砂吐くわ~って、しょう兄ちゃんが言ってたけど、知らんぷりした。
だってせい兄ちゃんがかわいいから。
意外だったけど。
めっちゃ道のり長そうだけど。
それはそれで、幸せだからいいのだ。
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