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確かめたい 9

「良いんだ。俺が自分で選んだ道だから」 「でも……」 「悪いな椎堂。お前が伝説の男に憧れてんだってのは見て直ぐにわかった。けど……、現実の姿を知ったらきっと幻滅するだろうと思って、どうしても言えなかったんだ」 ごめんな。と、申し訳なさそうに告げると、圭斗は苦い表情をしながら唇を噛み締める。 「幻滅なんて……するかよ」 「え……」 そっと怜旺の手を取り指を絡めてぎゅっと握った圭斗。怜旺は困惑したようにその手を振り解こうとしたが、思いの外力強く握られていた為にそれは敵わなかった。 「軽蔑するだろ? 父親の借金のカタにこんな仕事してんだぜ?  伝説の男と呼ばれてた裏では野郎どもに媚び売ってさ……、汚ぇオッサン共にケツの穴も捧げてんだぜ。しゃぶれって言われたら、何本でも咥えるし、突っ込まれたらアンアン喘いで腰振って善がってさ。金の為なら何でも――……」 「……もういい!」 怜旺の言葉を遮り、圭斗は悲痛な面持ちで首を左右に振った。 「もういいから。……これ以上自分を貶すような悲しい事言うな」 圭斗は絡めた指に更に力を籠めて、怜旺を自分の腕の中へと抱き寄せた。 「ぅ、わ……ちょっ」 突然抱きしめられ、慌てて圭斗から離れようとするが力強く抱きしめる腕はビクともしない。 「離せ……って」 「いやだ」 「椎堂っ!」 力強い抱擁に鼓動が自然と早くなる。それを隠すように殊更声を荒げて圭斗を押しのけようとするが、腕は全くもって動かなかった。 「やだって、お前……子供じゃねぇんだから……」 「アンタが親父に金で買われて、どっかの女みたいにアンアン喘いで、誰とでも寝るようなビッチだろうが、関係ない。俺は、アンタが好きなんだ。軽蔑なんてする訳ないって」 「な、に馬鹿なこと……ッ」 「自分でも馬鹿だとは思うよ。でもさ、ずっとちっせぇ頃から憧れてた最強の男が今、腕ん中にいるんだぞ?そんなの、離せる訳ねぇだろ」 怜旺の後頭部に回された圭斗の手が、癖のある柔らかな髪の毛を優しく梳いていく。

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