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確かめたい 12

薄暗い細道を抜け、団地へと続く広場の横を通り過ぎると、駐輪場へとたどり着いた。 「それを此処に停めてくれないか」 「お? おう。って、だから! 質問に答えろって! こんなとこに何の用が……」 「……俺ん家」 「は!?」 驚いた表情の圭斗を横目に、怜旺は買い物袋を地面に置くとバイクを停め真っ黒いシートでそれを覆い隠した。 これでまた暫くは愛車もゆっくり休めるだろう。 軽くシートの上からそれを撫で、再び荷物を持って圭斗に向き直る。 圭斗があまりにも信じられないと言った顔をするので、笑ってしまいそうになりながら一角にある自分の家を目指す。 「って、おいおい冗談だろ? ここ、央ん家じゃん。お前、まさか実は央の父ちゃんだったとか言うオチじゃねぇだろうな?」 物凄く嫌な顔をして、まるで親の敵を見るような目つきで圭斗が睨んでくるものだから、吹き出しそうになるのを何とか堪え、フッと意味深な笑みを作って圭斗を見上げた。 「……そうだ、つったらどうする? 《《圭ちゃん》》」 「んな……っ!? はっ? え……っ!? ガチ?」 目を見開いて口をパクパクさせる圭斗が可笑しくて堪らない。 吹き出しそうになるのを何とか堪えながら、早く来いよ。と、手招きして上城家とは反対側の扉に鍵を差し込んだ。 部屋の中は薄暗く、案の定空気が淀んでいる。憂鬱な気分で家に入ると急いで家中の窓を開け放って換気扇も回した。 今日は、何かの会合があるらしく戻ってこないと言っていたから鉢合わせする心配もない。 「上城ん家は10年以上前からお隣さんなんだ」 「……マジかよ……」 自分の担任するクラスの生徒だと気付いたのはつい最近の話ではあるが、面倒なので多くは語らない。 圭斗は戸惑いつつ、怜旺の後ろをついて回りながら部屋の中を興味深そうに見回し、ダイニングの一角に置かれた仏壇の前で立ち止まった。 「これ……」 「俺の母さんだ。美人だろ? ……見てのとうり、うちは父子家庭なんだ」 怜旺や自分の食事を準備する気は無くても、母親へのお供えだけは未だに毎日欠かしたことが無い。そんな父親の姿を嫌でも思い出してしまい、自嘲的な笑いが洩れた。 怜旺は薄暗いダイニングを抜け奥にある自分の部屋へと圭斗を招き入れた。雑然としたダイニングとは違いこちらはきっちりと掃除もされており家の中で唯一安心できる空間だ。 「適当にベッドにでも座ってろよ」 圭斗を適当な場所に座らせて、冷蔵庫から麦茶を取り出すとグラスに注いで圭斗に手渡す。 「お、おう」 「あ。テレビも付けるか? 何か観たいのある?」 「……いや、いい」 怜旺の問いに、圭斗は視線を逸らしながら首を左右に振ると、その場で黙り込んでしまう。 そんな様子に困ったのは怜旺だ。何を話せば良いのか見当もつかない。 暫しの沈黙の後、重い口を先に開いたのは怜旺だった。

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