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初デート 16

「あんにゃろ、最低じゃねぇか。一発ぶん殴っときゃ良かった」 一通り話を聞いた後、圭斗が苦々しい表情で舌打ちをした。話す前は圭斗がどんな反応をするのか不安で仕方が無かったのに、どうやらそれは杞憂で終わったようだった。 「まぁ、お前も初対面の時は大概のクズだと思ったけどな」 「……そこで水差すなよ。悪かったと思ってるし……もう、しねぇってば」 圭斗は拗ねた様子で唇を尖らせながら、怜旺の髪に指を絡めて来た。その子供っぽい仕草に思わず笑いが込み上げてくる。 こういう姿を見ると、普段どれだけ格好つけていてもまだまだ子供なんだなと実感させられる。だがその少年ぽさとのギャップが圭斗の魅力だ。 堅苦しさもないし、自由だし、何より一緒にいて気持ちがとても楽になる。 圭斗と話しているとがんじがらめに縛られていた何かが少しずつ解けて消えて行くような、不思議な感覚に包まれる。 この気持ちが恋なのだと気付くのに、随分と時間が掛かってしまったけれど、今となってはもう認めるしかない。 「……冗談だ。 それと、アイツの事はもう気にしてないからお前が気にする必要はねぇよ」 さっきは驚きすぎて現実が受け止めきれなくてつい、逃げ出してしまったが冷静になれば逃げだす必要なんて無かった。 一緒にいた女はどうせ、浮気相手か何かだろう。嫌味の一つでも言ってやればよかったかと思う気持ちも無いわけではないが、言ったところで、深く傷つけられた心の傷が癒えるとは思えないし、自分が余計に惨めになるのは目に見えている。 それに、今は自分の側に圭斗が居てくれる。その事実だけで十分だ。 圭斗とこうしていられるのなら、過去なんてもうどうでもいい。 怜旺は腰に回されたままの圭斗の腕にそっと触れると、自分からも彼の逞しい胸に凭れ掛った。すると、背中に密着していた身体がぴくりと震えたのが解った。 鼓動が忙しなく鳴っている所を見ると緊張しているのだろうか? それとも何か対応を間違ってしまった? ほんの少し顔を上げると困ったように眉を寄せながら頰を染めた圭斗の顔があって、怜旺も釣られて顔が赤くなっていくのを感じた。 「顔、真っ赤だぞ」 「……お前こそ」 揶揄うように指摘されて、恥ずかしさから思わず口をへの字に曲げる。でも、こんなやり取りも全部が全部愛おしいと思う。 視線が絡み合い、どちらからともなく顔が近付いて唇が触れ合う。 ほんの一瞬触れて、すぐにまたゆっくりと離れて行く。 たったそれだけの事なのに、胸が痛い程高鳴って圭斗から目が離せない。 もっと触れたい。触れられたい。そんな想いが頭の中を支配して、思わず彼の腕をぎゅっと掴むと圭斗の喉がごくりと上下するのが見えた。

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