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絶望 2
「――だっせぇ……」
よくよく考えてみればわかる事じゃないか。圭斗とは10歳も年齢が離れているし、教師と生徒だ。
彼がその気になれば、いくらでも相手は選べる。言葉だけならどんな嘘だって、綺麗ごとだって言えてしまう。
そんな簡単な事、とっくにわかっていた筈なのに今更気付くなんて……。
なのに、どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。息がうまく出来ない。頭の中がぐちゃぐちゃで、訳がわからなくなってくる。
怜旺は震える手でスマホを取り出しメッセージアプリを開いた。
サヨナラ。たった4文字打つのに指先が震えて上手くタップが出来ない。
こんなことなら、最初から好きにならなければよかった。 10年前の過ちを再び犯すなんてなんて自分は馬鹿で愚かなんだろう……。
ふと、視界に黒いブレスレットが映り込んだ。
「……ッ、こんなもの……」
怜旺はブレスレットを外すと強く握りしめた。投げ捨ててしまおうかと手を振りかざすが、脳裏に楽しかった日々が走馬灯のように蘇り、それは叶わなかった。
思い詰めながら、目の前にそびえ立つホテルを見上げる。ふいに頬に、冷たい雫が滴った。
気付くと、暗い空から糸のような雨が、静かに降り注いで来た。それは見る間に濃くなって、怜旺を包み込んでいく。
「……本当に馬鹿だ……俺……」
こんな仕打ちを受けてもなお、ブレスレットを捨てる事すら出来ない。もしかしたら、メッセージに気付いた圭斗が飛び出してきてくれるのではないか。なんて、淡い期待をしてしまう。
なんて愚かで浅ましいのだろう。
そのときふと、握っていたスマホが震えた。もしかして圭斗だろうか!? 咄嗟に画面を開くと、それは父親からで。目の前の闇が更に深く濃くなっていくのを感じた。
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