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絶望
長い廊下をもどかしく走り、校庭に出るが既に圭斗の姿は何処にもなかった。
家に戻ったのだろうか? それともバイト?
学校には来ていたのに自分に連絡一つも寄越さないなんて、まだ怒っているのだろうか。
胸に渦巻く何とも言えない気持ちを抱えながら、小走りで圭斗の自宅へと続く道を辿る。すると、少し先の方に月明かりに照らされたやや猫背気味の長身を見つけた。
思わず顔が綻ぶ。逸る気持ちを抑え、ゆっくりと距離を詰める。
色々言いたい事はある。だが、会ったらまずなんと言おう。距離が縮まるにつれ心臓の音が煩くなってくる。
しかし、あと数メートルと言う所で怜旺は踏み出す足を止めた。
圭斗のすぐそばに一人の女生徒が立っていたのだ。それを見た瞬間、胸の奥がザワリとざわめき眉間に皺が寄るのを感じた。
月明かりでもはっきりと目立つ明るい髪色に、緩く巻いた髪。
圭斗の存在に気付くと、嬉しそうに駆け寄り腕を絡ませて寄り添って歩くその様は、どう見ても友人以上の何かを感じさせる。
圭斗はまだ自分の存在に気付いてはいないようで、ただならぬ雰囲気を醸し出したまま二人が向かった先は――。
「…………」
海色に光るネオンが目に入り、ざわめきが一際大きくなった。
結局、自分は彼にとってその程度の存在であったと言うことか。
やっぱり、思い違いだった。特別だと思っていたのは自分だけだったのだ。
所詮、自分は彼の暇つぶしのお遊び。そう考えれば納得がいくし、あまりにも彼に似つかわしくない状況に怒りよりも悲しみが勝った。
もう、女も愛せる男は懲りたんじゃなかったのか? どうしていつも、自分はそんな男ばかり好きになるのだろう。
やっぱり自分は、誰からも必要とされていない存在だったのだ。
父親が言うように、自分の価値なんて何もない。愛される価値なんて何もない。
ただ、誰かから必要とされたい。自分だけを好きになって、存在していていいんだと認めてくれる相手が欲しかった。
けれど、そんなのは都合のいい夢でしかなかった。
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