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空回り 5
「でもまぁ、気まぐれなヤツだし、そのうちひょこっと顔出すと思うよ。だからさ、寂しいかもだけど元気出しなよ、センセ」
「なっ、べ、別に俺は……変な意味とかそう言うのじゃなくて、いち教師としてだな……ッ」
子供相手に何をムキになっているんだと思いながらも、やはり素直に認めることは出来ず、つい強がりを言ってしまう。
「はいはい。そう言う事にしといてあげる」
怜旺の強がりなどお見通しだとでも言うように、麗華はクスリと小さく笑みを零し、そっと怜旺の背に手をまわしてポンポンと叩いた。
ムッとして口を開きかけたその時。窓に視線を移していた小春が
「あれ、椎堂君じゃない?」
と怜旺の袖を引いた。飛びつくような勢いで窓に張り付き校庭へと視線を移せば、長身の目立つ金色の髪が視界に入る。
「んだよ……。来てたのか」
あからさまにホッとしたような声が洩れ、横から麗華が肘で突く。
「良かったじゃない」
「っ、うるせぇ」
いつの間にか学校に来ていると言うのに、メッセージも無し。しかも、何も告げず行ってしまうなんて、本当に何を考えているのかわからない。
文句の一つでも言ってやらないと気が済まず、怜旺は早速圭斗の元へ向かおうと踵を返そうとした。
「ふふ、頑張ってね。センセ」
「だから! 五月蠅いって」
「早く行かないと、椎堂君行っちゃうよ?」
「……クッ……。お前らも早く帰るんだぞ!」
小春の言葉に背中を押され、怜旺ははやる気持ちを押さえつつ二人と別れた。
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