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絶望 4
『よぉ、仕事の依頼だ』
「……親父。俺はもうやりたくない」
嫌だ。もう何もしたくない。何も聞きたくないし、何も考えたくない。 頭の中ではそう叫んでいるのに、喉から出た音は消え入りそうな程か細くて頼りないものだった。
父親にもそれが伝わったのか、電話の向こうで小さく溜息が洩れる。そして少し間を置いてから低い声が聞こえた。
『なんだ、どうした? もしかして、彼氏にでもフラれたか』
「テメェには関係ねぇだろ。とにかく、俺はもうやらねぇから」
『お前が後生大事そうに付けてるブレスレット、彼氏から貰ったものなんだろう? 名は確か……椎堂と言ったか。背が高い金髪の男だったな』
圭斗の名が父親の口から飛び出して、ゾッと身体中の血の気が引いていく。
どうして、なんで……それを知っているんだ。父親に一度だって圭斗の話をした事は無いのに。
11月になったばかりの冷たい雨は怜旺の心情を表すかのようにざわざわと音を立て、強くなって行く。
足はその場に縫い付けられたかのようで、指一本動かすことすら出来ない。冷え切った指先からスマホが滑り落ちそうになる。
「な……なん、で……」
『ハハッ、声が震えてるぞ。いつもの威勢はどうした? もしかして、本当にフラれたのか? こりゃ傑作だな! まぁいい。お前がやらねぇっつーなら俺にも考えがある』
嘲笑うかのような冷たい声が、暗に脅しをかけて来ている。
「……やめろ。圭斗には手を出すな」
『ほぅ、圭斗。と言う名なのか。 その圭斗君を傷付けたくなかったら……わかるだろ?』
スマホから聞こえる声に、怜旺はただ唇を強く噛みしめた。
本当はこんな事したくない。けれど、父親がその気になれば圭斗に危害を加えない保証などどこにもなかった。
裏切られた直後で、父親と言い争う気力も残っていない。自分の選択肢は結局、最初から一つしか無いのだ。
「――わかった」
『聞き分けのいい息子で助かるよ。愛してるぞ、怜旺』
「くっ、下衆が」
雨は弱まるどころか勢いを増して怜旺の身体を打ち付けてくる。まるで、もう諦めろと言われているようだった。
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