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【六】見られた……!
丸太で造られた小屋の、簡素な扉を開けると、軋んだ音がした。見慣れている我が家だが、この家に人が来た記憶は、ピラーしかない。そのため、横を見てルクスの表情を確認しながら、サピアは微苦笑した。
「ごめんね、狭くて」
「確かに狭い」
ルクスはサピアの肩を抱き寄せながら、内部を見渡す。二人の後ろで、扉がパタンと音を立てて閉まった。慌てて灯りをつけたサピアは、率直なルクスの声に、今度こそ苦笑した。
「それに寒い」
「ごめん……」
「俺は平気だ。野宿にも慣れているからな。ただ――この丸太小屋に、サピアが暮らしていたと思うと、心配で押しつぶされそうになる。これまでの間、危険は無かったのか?」
「危険?」
「扉に鍵さえ無い」
「? 狼獣人の集落には、基本的に鍵は無いんだよ?」
「なんだって?」
「だって、誰かの家に忍び込むような悪人は誰もいないんだよ! 誇り高き狼獣人は、盗んだりもしない」
「……街から強盗が来る場合もあるだろう?」
「狼獣人は追い返せるから平気」
「……そ、そうか」
サピアが自信たっぷりに笑った姿があんまりにも可憐だったため、ルクスはそれ以上は何も言えなかった。代わりに、サピアを抱きしめたルクスは、その額に口付ける。次は頬、そして最後に唇へ唇で触れる。そして、サピアの両頬を手で挟んで、ルクスは覗き込むように少し屈んだ。
「好きだ、サピア」
「……うん」
「魔力は使わない。嫌なら拒んでくれ――もっとも、拒まれても、離せる自信は無いが」
「……嫌じゃないよ」
「本当か?」
サピアの小さな声を耳にした途端、ルクスが満面の笑みを浮かべた。その表情があんまりにも温かく見えて、サピアの胸は煩くなる。最近、ルクスの明るい表情を見ていると、サピアは照れくさくなってくるのだ。
それから二人は、再び触れ合うだけのキスをした。
そして――すぐに、寝台へと移動した。お互いの服を脱がせ合い、もつれ合うように寝台へと寝転がる。そのまま抱き合い、何度も何度も口づけを交わす。始めは啄むようなキスを繰り返し、次第にそれが深くなっていく。
「ぁ……」
ルクスにうなじを舐められた時、サピアが小さく声を漏らした。そんなサピアの体勢を猫のようなものに変え、背中に体重をかけたルクスは、寝台にサピアを押し付けるようにしながら、喉で笑う。
「可愛い」
「だ、だから、可愛いは、僕にとっては褒め言葉じゃないよ!」
「そうだったな」
「それに可愛いのは、ルクスの方だよ!」
「俺が可愛い? どこが?」
「笑顔、とか……」
シーツを見ながらサピアは小声で言った。本心だ。しかしそれを聞いたルクスは驚いたように目を丸くする。それから破顔した。シーツを見ているサピアには、そんなルクスの表情は見えない。
「ッッッ」
サピアの背筋を、背骨をなぞるようにルクスが舌でなぞる。肌を舐められて、サピアは背を反らせた。後ろからサピアの顎の下を擽りながら、ルクスはもう一方の手でサピアの脇腹に触れる。それから腰骨を優しく握り、囁いた。
「綺麗だ。これは、褒め言葉になるか?」
「ならない! 格好良いんだよ、僕は――ぁ」
「艶っぽい。これは良いか? 特に、今の声なんて色っぽい」
「っ……」
羞恥に駆られて、サピアは涙ぐむ。今度はルクスが両手で、サピアの後ろの双丘に触れた。尻を突き出す形で、サピアはギュッとシーツを握る。白いサピアの肌にそれぞれの手で触れたルクスは、それから菊門をじっと見る。薄明かりの室内でも、淡い色彩がよく見て取れる。左手は肌に触れたままで、ルクスが右手の二本の指を、サピアの後孔へと挿入した。
ゆっくりと入ってきた指が、無性に大きく思えて、サピアは目を閉じる。まだこの感覚には慣れない。二本の指が入り切ると、ルクスが振動させるようにそれを動かした。そして指先を少しだけ折り曲げた。瞬間、内部のもっとも感じる場所に指先が触れ、ピクンとサピアが体を震わせる。
「あ……ぁ……ン……」
「気持ち良いか?」
「う、ん……そ、そこ……ぁ、ァ」
「ここが好きなのは、前回教えてもらった」
意地悪く前立腺ばかりを、ルクスが刺激する。規則正しく与えられる刺激に、サピアが頭を振る。綺麗な髪が乱れ、次第に汗ばんだ肌に張り付いていく。息が上がっていく。その扇情的な様子に、ルクスは己が昂ぶるのを感じた。
サピアは与えられる刺激から、どんどん体が熱くなっていく。意識が曖昧になっていく。気づけば陰茎がそそり立ち、先端がシーツに当たっていた。白いシーツを先走りの液が濡らす。あんまりにも気持ち良すぎて、気づくとサピアは、腰を揺らしていた。
「挿れるぞ」
「あ、ああッ」
ルクスが既に張り詰めていた陰茎を、サピアの中へと進める。内部を押し広げられる感覚に、サピアが震える。人生で二度目に受け入れる熱――ルクスの形しかしらない内部が、彼を絡みとるように蠢く。熱く狭い中に、ルクスが息を詰める。
一気に貫かれて、サピアは震えた。後ろから穿たれると、前回よりも深々と感じる場所に刺激が響いてくる。狼獣人にとっては、この体位の方がメジャーだ。その時、ルクスが、サピアの細い腰をギュッと持ち、激しく打ち付け始めた。
「あ、あ、あ」
「気持ち良、あー、俺、ダメだ、もう」
「ああ、っ、激し――ッ、ぁ、あああ!」
「好きすぎる、お前が」
「あ、あ、ア! 待って、あ、あ、僕もダメ」
「何が?」
「気持ち良すぎて、ダメ、ダメっ!」
最奥を激しく刺激されて、サピアは果てた。白液が飛び散る。しかしルクスの動きは止まらない。達したばかりのサピアは、感じる場所を突き上げられる内に、むせび泣いた。快楽が止まらない。そんなサピアに体重をかけ、うなじを噛んだルクスは、獰猛な瞳をしている。サピアの身動きを封じ、今度はゆっくりと腰を揺さぶる。
「いやぁ」
そうされるともどかしくなり、ポロポロとサピアは涙を零す。震える体でもがいたサピアの両手首を掴むと、ルクスが寝台に縫い付ける。そして再び激しく動き始めた。
「あ、あ、ダメ、また出ちゃう、僕、また――うあああ!」
再び白液がシーツを汚した。しかしルクスの動きは止まらない。再び絶頂を促すように、激しく動き始める。その緩急をつけた抽挿に、サピアは感じすぎて理性を飛ばした。嬌声を上げながら、何度も快楽由来の涙を零す。白い喉が震え、犬によく似た耳が揺れる。
その夜――二人は、長い事交わっていた。簡素なベッドは、終始ギシギシと軋んでいた。
翌朝。
事後特有の気怠さに襲われながら、サピアは目を覚ました。隣には、腕枕をしているルクスの顔がある。シーツを被ったままで、二人は視線を合わせた。
「昨日も可愛……綺麗だった」
「また可愛いって言おうとした……」
扉が開いたのは、その時の事だった。
「入るぞ、サピア――……!?」
ドサリと音がして、荷物が床に落下する音が響く。慌てて起き上がったサピアは、戸口に立っているピラーを目にして息を呑んだ。並んで上半身を起こしたルクスもまた視線を向ける。裸の二人が同じ寝台にいる場面を、硬直した様子でピラーが見ている。驚愕している彼は、全身を硬直させ、口を半開きにしたまま、目を疑っていた。
「え?」
「ピラー伯父さん……!」
「な、何を、え?」
「そ、その――っ……!」
見られた……その事実に、サピアは青褪め、続いて羞恥から真っ赤になるのを繰り返した。青くなったり赤くなったりを繰り返しているサピアが愛おしくて、ルクスが横から肩を抱く。それを見て、先に我に返ったのは、ピラーだった。
「おい、そこのお前! 俺の可愛い甥っ子に、一体何をした!?」
「――見れば分かるだろう」
「分かりたくない! 人間風情が、大切な俺のサピアに手を出した、だと!? 認めがたい! サピアには、時期が来たら、適切な番を、と――おい! 何者だ!? どこの誰だ!? 叩き斬ってくれる!」
激高している伯父に気づき、慌ててサピアは叫んだ。
「待って、伯父様! ルクスは僕の大切な人なんだよ! 番になるんだよ!」
「な」
「人間の言葉では、恋人と言うんだって!」
必死でサピアが告げると、ピラーは再び硬直し、今度は顔を白くした。ポカンとしている。一方のルクスは、サピアの口から『恋人』と聞き、嬉しさから頬を桃色に染め、涙ぐんだ。歓喜の涙だ。感情が抑えきれず、ルクスはサピアを抱きしめて、その頬に口付ける。
「ルクス! 今は真剣なお話をしているから、やめて!」
「無理だ。愛おしすぎる。俺の恋人になってくれるんだな?」
「え、あ……」
思わず口走っていた事に気がつき、今度はサピアが真っ赤になった。
「……」
二人の間に漂っている甘い空気に、ピラーは言葉を失った。それから気を取り直して、二人に告げる。
「と、とりあえず、服を着ろ! 話はそれからだ!」
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