4 / 35

初デート-3-C-

 汗を流し終えてバスルームから出た後、先程のソファへ戻ろうとしたアルノシトの背後から声がかかる。 「……!」  誰もいないと思っていたためにびくりと全身が跳ねた。視線の先には少し申し訳なさそうにしたルートヴィヒが立っている。 「すまない……そんなに驚かれると思わなかった」  軽く頭を下げるルートヴィヒの後ろには天蓋付きのベッドが見えた。入った時は慌てていて気付かなかったが、ベッドルーム手前にバスルームがあったらしい。 「あ、…ごめん、なさい。俺こそ」  二人して頭を下げあっていると妙な可笑しさがこみあげて肩の力が抜けた。顔を見合わせて笑った後、バスルームへと消えるルートヴィヒの背中を見送ってからベッドへと。  腰を下ろすと先程のソファに負けず劣らずの心地良さに眼を瞬かせる。改めて周囲を見回した。  広々とした部屋の中に巨大なベッド。薄暗い照明に漂う薫香。妙に艶めかしく感じて落ち着いていた心がざわつく。 ────がちゃ。  扉の開閉音に顔を上げた。が、すぐに伏せる。腿の上に置いた握りしめた両手を見つめていると、視界の端にバスローブの裾が揺れた。  ほんのりと湿った指先に顎を捉えられると静かに上を向かされる。 「…………」  ルートヴィヒが顔を寄せてきた。濡れた髪が一筋、額に張り付いており、それが妙に色っぽい。  そんなことを考えていると、唇が重なる。緩く啄むだけの行為はすぐに終わった。  予想外──  そんな気持ちが表情に出てしまったのだろう。ルートヴィヒはちょっと困ったように笑うと、アルノシトの横髪を指で掬いながら隣へと腰を下ろした。  静かな動きで髪を耳へかけ、そのまま指先で耳の外周をなぞるように動かす。慣れない感覚に眼を伏せてしまう。 「……っ、……」  小さく体を震わせると指の動きが止まった。 「……怖い?」  問いかけに少しの沈黙。小さく頷く。 「怖い、というか……その」  ここまで来て言い淀んでしまう。ふぅ、と大きく息を吐き出した後、意を決してルートヴィヒへと顔を向けた。 「あまり、経験がないから──」  上手く出来ないかもしれない。不安と羞恥とで顔を伏せてしまった。止まっていたルートヴィヒの指が動き出す。頬を包むように手のひらを添えた。 「気にしなくていい。それを言うなら──」  私だって初めてだ。 「え?」  予想外過ぎて浮かべた呆けた表情を見て、ルートヴィヒは肩を揺らして笑った。力が抜けたアルノシトの頬を緩く撫でた後、そっと触れるだけの口づけを落とす。 「正確に言うなら……「好きな人とは」だが」  好きな人。  大財閥の跡取りともなれば、個人の感情よりも財閥の存続を考えての行為になるのだろうか。  望まぬ相手と──もし、自分だったら、と思案に沈もうとしたアルノシトの意識を引き戻すかのように、ちゅ、と小さく音を立てて上唇だけを吸い上げられた。続けて下唇、顎先と口の周りに何度も丁寧に口づけられて、アルノシトの熱が上がる。 「、…は、……」  息をするタイミングがつかめず、眉を寄せたのを見て行為を止めてくれる。一度大きく息を吸った後、おずおずと両腕を伸ばし、ルートヴィヒの頬を包み込んだ。  唇を寄せようと顔を傾けると、ルートヴィヒの腕が動く。倒れ込むように押し倒された後、唇が塞がれた。先程と違い、遠慮なく舌を絡めとられ、口中を探られ、その熱さに吐息が零れる。 「ふ、…──ぅ」  互いの呼吸と小さな水音だけが響く。丁寧過ぎるほど丁寧に、柔らかく蹂躙されるその行為に夢中になった。拙いながらも懸命に舌を絡め、唾液を飲み込もうと喉を鳴らす。  散々に嬲られた口腔からの快感に蕩けた表情を晒す頃、漸く舌が引き抜かれていく。 「は、……」  開放された唇を大きく開いて息を吸った。相手を気遣う余裕もなく、ただぼんやりと眼を瞬かせる。 「……あ──」  ルートヴィヒの手がバスローブの紐を解こうと動くのが見えて、ほんの少しの抵抗。ただ指を掴んだだけのそれでは動きはとまらず、解いた紐を床へ落とすとそのまま前を開いた。裸身を晒す羞恥に薄く肌が染まる。  晒された肌を確かめるような視線を感じて足をもぞつかせた。熱を集め始めた性器を隠すよう足を捩る。 「もっと──」  どこか浮ついた声。ルートヴィヒから発せられたのだと気づいた時には、首筋から鎖骨へと唇を這わされていた。  胸までの肌をやわやわと食まれ、更に足をもぞつかせてしまう。  羞恥に顔を横へと倒すが、視界の端に見える動きと、何よりも直接肌に触れられている感触。大きく開いた唇が己の胸に伏せられるのと同時に眼を閉じた。  ぬるついた舌先が小さな突起へと這わされる。もう片方の突起も指で摘みあげられ、堪え切れずに声が漏れる。くちくちと小さな水音に混ざる吐息。時折、軋むベッドの音も合わさって聴覚からも追い立てられてしまう。 「──…ぁっ、……ん、…」  口腔の熱さと外気に晒された冷たさと。自分でも触れたことがない場所へと触れられる恥ずかしさと同時に、何とも言えない感覚が背筋を這い上ってくることに自然と体をくねらせ、声を上げてしまう。  舌と指での丁寧な愛撫に小さな突起が硬く尖る。爪を立てられ微かな痛みを与えられたかと思えば、ぬるついた舌で甘やかされ────軽い混乱にじわりと眼の端から涙が滲んだ。  びくりと大きく体が跳ねる。自分一人だけが翻弄されているような感覚に不満げに声を漏らした。 「俺、ばっか……ずる、い……です……」  ルートヴィヒはいまだにバスローブを着崩してもいない。ずるいと言いながら袖を掴んで引っ張ると、顔を上げ、少し困ったように眉を寄せた。  ゆっくりと体を起こすと、自分の手で紐を解き、前を開いた。露になる身体をまじまじと見てしまう。 「……あ」  すっかり熱を集めて昂ったそれ。脈動する肉塊から眼が離せなくなる。 「ルートヴィヒ、さん……」  視線の先に気づくと、紐を解く手を止めて柔く口づける。驚いたのを誤解されたのか、なだめるように優しい動きで口端から顎、頬。触れては離れるだけのそれに、びくびくとアルノシトの肩が跳ねる。 「っ、……び、っくりした、だけ……だから、大丈夫……」  同性なのだから、体のつくりが同じなのは当たり前。性的興奮を覚えて性器が勃起するのも同じ──なのだが。  指で触れてすらいないのに、自分のもの以上に昂っていたそれ。  自分の肌に触れているだけで興奮しているのだと。視覚から教えられたことに何とも言えぬ感情が沸き起こり、放置されたままの己の性器が跳ねた。 「なら良かった」  ルートヴィヒがバスローブから腕を抜いた。後は落ちるに任せ再びアルノシトの肌へと顔を埋める。  先程まで指で弄っていた方へと唇をかぶせると、小さく音を立てて吸い上げる。 「……うぁ、――…っ、………」  少しの間とはいえ、放置されたせいでより強く与えられる快感を体が拾ってしまう。吐息が肌にかかるだけでも肌が震えた。  先程まで胸を弄っていた指はさらに下へと滑り落ちていく。肌を滑る指の向かう先を悟ると、おずおずと足を開いた。  緊張のせいもあってか、まだ余裕のある肉へと指が絡みつく。何度か擦り上げられるうちに先端からぷくりと先走りが滲んだ。躊躇いなく指で掬いあげ、先端の丸みを撫で下りながら幹に擦り付けられるとぐちゅぐちゅと湿った音が響く。  胸と性器とを同時に嬲られ、体裁をかまう余裕もない。与えられる刺激に腰が跳ね、体をくねらせてながら声を上げる。 「ふぁっ、…あ、ア…──、ん……ぁ、……」  シーツの上を足先が泳ぐ。布を掴んではかき混ぜ、離しを繰り返す。相手が動きやすいかどうか、なんて考慮する余裕もなく、ただただ声を上げて息を乱しながら腰を揺らした。 「──ま、──て、も、だめ、でる…からッ……」  呆気ないほどたやすく追い上げられ、無理、と何度も首を振るが、ルートヴィヒの動きは止まらない。尖らせた乳首へと歯を立てられ、裏筋を根元から先端のくびれまで、指の腹で撫で上げられるとたまらず熱を吐き出してしまう。  腹の上に飛び散った熱と生々しい匂い。快感と恥ずかしさとで顔が更に熱くなるのを感じる。 「ま、って…て……言ったの、に」  涙混じりの抗議の声をあげ、顔を伏せたままのルートヴィヒを睨んだ。彼は胸元から顔を上げると、体を起こした。 「すまない。もう少し……理性的でいられると思っていたんだが」 「……、う……ん……?」  一瞬の間。 「……君の声を聴くだけで」  ──滾る。  熱を帯びた声と視線にぞくりとする。怯えたように見えたのか、ルートヴィヒは軽く頭を撫でてから、頭の上に指を伸ばした。置いてあった枕を一つ引き寄せると、アルノシトの腰の下へと。  下肢が浮き上がり、自然と足が開く形になる。その間に体を割り込ませたルートヴィヒの手から嗅ぎ慣れない香りが漂った。 「……、──」  どこに持っていたのか。小さな瓶の蓋を外し、中に入っていたものを指先で掬いあげるとそのままアルノシトの奥まった場所へと塗り付ける。  なんとなく知識としては知っていても、実際に使われるのは初めてのことで、何とも言えない感触に身を捩った。 「ん、く……な、に……──ぬるぬる、して」 「気持ち悪いか?」  首を左右に振る。嫌悪感や恐怖はなかった。ただ慣れない行為と感覚に複雑な表情で視線をさまよわせる。  襞の一つ一つを確かめるようルートヴィヒの指が肌をなぞる。先程吐き出したものが肌を伝い、塗り付けられたものと混ざってシーツへと落ちた。  迷うように肌を撫でていただけの指先がつぷりと埋め込まれる。まだ堅く窄まったままのそこを抉られるような感覚に、ひゅ、と息を吸い込んだ。 「──あ!……っ…、…ふ、ぁ、あァ…」  ぎし、と大きくベッドが軋む。反射的に跳ね上がる腰を押え込まれ、逃げることが出来ず全身を強張らせた。 「……きつ、いな」  指先を拒むような肉壁にルートヴィヒがぽつりと呟く。後孔へと差し入れられた指は浅い個所を掻き混ぜながら、もっと奥へと入り込もうと蠢いている。 「ひ、ぅ……、ァ、あ、あ」  痛みはそれほどないが、異物感が凄い。無意識に排出しようと締め付けてしまう。  潤んだ視界にぼやけたルートヴィヒの顔を捉えたと思うと同時、唇を塞がれる。熱を帯びた舌先が口の中を這いまわると蕩けていく感覚に頭の芯がぼぉっとする。  与えられるもの全てを享受したくて、自分から足を更に大きく開くと、ずるりと指が奥へと潜り込んできた。 「っ、ふ……ルートヴィヒ、さ……」  喘ぐ合間に名を呼ぶ。返事の代わりに中を探る指で肉壁を掻かれたり、絡めた舌を吸い上げられる。  少しずつ緩んできた動きを感じて、根元まで引き抜かれた指にもう一本の指が添えられた。二本の指が滑り込み、バラバラに動きながら中の肉を掻き混ぜられると、堪え切れずに顎が上がる。 「ァッ……ん…く、……」  先程達した性器も再び熱を取り戻し、体を揺らめかせる度に白濁と先走りの入り混じったものが伝い落ち、粗相でもしたかのようにシーツを湿らせていく。  更に指が増える。ぐ、と三本の指の根元までを埋め込まれて圧迫感に思わず眼を閉じる。体の下に差し入れられた枕から腰が浮くほどに大きくのけ反った後、ベッドへと沈んだ。 「~~~…ッ…」  息が詰まる。動きが堅くなったのを見て、ゆっくりと指が引き抜かれた。排出出来た安堵と、喪失感とに眼を細めた。 「……すまない。焦り過ぎた」  目の端にたまった涙を吸い上げながら、改めて二本の指が挿入される。 「ぁ、…──」  潤滑剤と体液を掻き混ぜるように指が動く。三本の時は苦しかったのに、二本だけだと苦しさや圧迫感はなかった。  むしろ── 「……、き、もちいい…」  ぽつりと零れた一言。腹の中で蠢く指の動きに合わせて自然に腰が揺れてしまう。先程達したばかりの性器が再び熱を集め、腹の上で揺れるたびにぽたぽたと先走りと白濁のまじったものが伝い落ちた。 「……ひ、ぅ…───、…また、……」  下腹の動きと薄く先端を開いた性器の震え。再び熱を吐き出そうとする動きにシーツを強く掴んで耐える。  肉壁を掻く指の動きは止まらない。思わず足を閉じ、ルートヴィヒの体を挟んでしまう。 「──……また、……でる、から……」  挟みこんだ体をとめようと足に力をこめるが、行動を止められるほどの力は入らず。根元まで差し込まれた指の動きに合わせて腰が震える。 「ル、トヴィヒさ…、だめ、本当に…」  縋るような声に動きが止まった。それ以上刺激を与えないよう、ゆっくりと指が引き抜かれて行く。 「───は、……」  直前で止められた苦しさもあるが、達しなかった安堵に複雑な表情が浮かんだ。大きく息を吐き出す。  ほんの少し落ち着いた後、アルノシトは改めてルートヴィヒを見る。  心配そうな怒ったような。難しい表情をしているな、と妙に冷静に考えてしまう。 「……俺…、だけが…きもちいい、のは……、いや、です」  言いながら顔が熱くなるのを感じる。先程からずっと、自分を優先してくれているルートヴィヒの行為。 嬉しくはあるが、自分だけが快感に溺れているのは別の意味で辛いし悲しい。  ためらいがちに震える指を伸ばして、ルートヴィヒの腕に触れる。 「───、ッ……」  彼の腕がゆっくりと動いた。開いたままの足を抱えられ距離を詰められる。次に何をされるのかがわかり、アルノシトは喉を鳴らした。  ぐ、と体が引き寄せられると、散々指でほぐされたそこへと押し当てられた肉塊の熱さに眼を閉じる。 「…──、ぅ、…あ──ッ、ア───!」  丁寧に解してくれたとはいえ、指よりも重く熱いそれ。ずぶ、と先端が押し込まれると、圧迫感に息が詰まった。  一際大きく軋むベッド。声にならない声を上げて全身を震わせて堪える。繋がりたいと願うのと同じくらい、圧迫感に逃げ出したくもなる。  途切れ途切れに名を呼ぶと、その度に動きを止めてくれる。自分も辛いだろうに、それでもアルノシトを優先してくれる優しさに眼の端から涙が零れた。 「…、…だい、じょぶ…………」  泣いてしまった自分を見て抜こうとする動きを制し、太腿を抱え上げたルートヴィヒの手に自分の手を重ねて握った。ルートヴィヒの動きが止まる。  引こうとしていた腰がゆっくりと押し上げられる。ず、ず、と少しずつ奥へと入り込んでくる感覚に掴んだ手を強く握ったり、体をのけぞらせたりしていると、ぱちゅん、と音を立てて肌がぶつかった。 「…~~~っ、う、……ん……」  尻肉へと当たる濡れた肌の感触。いつの間にか閉じていた眼をゆっくりと開く。  ルートヴィヒがふーっと大きく息を吐き出すと、埋め込まれた肉塊へと伝わり、それがアルノシトの中を刺激した。 「大丈夫、か……?」  相変わらず優しい。圧迫感はあるが、辛くはない。  何度か頷き返した後、一度手を離し、右手で自分の腹を撫でる。先程吐き出した残滓と汗の感触。つ、と指を滑らせながら、己の中に埋め込まれた熱を確かめた。 「ぁ……、俺の、なか…ここまで入って…──、」  薄い皮膚の下で脈打つそれ。確かに「在る」のだと思うとそれだけで熱が上がる気がする。と、軽く腰を揺らされると、一瞬動きが止まる。 「ん、……」  緩い抜き差しに、腹の中の熱がびくびくと跳ね上がるような気がして、皮膚の上からそっと撫でた。 「っ、アルノシト…あまり、煽らないでもらいたいんだが」 「……ぇ?……」  不意の声に視線を上げた。相変わらず困ったような怒ったような複雑な表情だが、ほんのりと上気しており、心なし息が荒いように見える。 「……、本当に君は無自覚なんだな……」  少し緩んでいた太腿を抱え直された。ぐちゅりと体液と潤滑剤の混ざったものが音を立てる。  今度は先程よりも少し大きな動き。引いた腰が突き上げられると、ぱちゅん、と肌が音が鳴った。閉じようとした肉壁を割り開かされる感覚にアルノシトの体が仰け反る。 「ぁ──」  肉塊が抜けて、突き入れられると薄い皮膚がその形へと歪む。確かに中にあるのだと、直接突き上げられている中よりも外からの感触で理解する。  ばちゅっ。  先程よりも音と衝撃が大きい。尻の肉が押しつぶされて形を変える。  二度、三度と突き上げられる度に音も刺激も大きくなっていくことに混乱と戸惑いを覚え、ふるふると頭を振る。 「──、うぁ、あ……、ルートヴィヒさ……」  涙混じりの嬌声にも動きを止めることはなかった。先程までは、ほんの僅かの身動ぎでも止めてくれたのに、全く止まる気配がない。 「待てない」  少し乱れた息遣い。切羽詰まったような声。  どうして、と問いかける間もなく腰を揺らされ喘ぎ交じりの声が零れた。 「ん、ぁ……はッ、あ……」  動きに合わせて、軋むベッドの音も大きくなる。ばつばつと肌がぶつかる度に、結合部から零れ落ちるものが肌を伝ってシーツを濡らしていく。  止まらない動きと先程までと違う感覚。太腿を掴んだままのルートヴィヒの手に自分の手を重ねてそっと握った。  何を伝えればいいのか。わからず頭を振ると、指が握り返される。  掌を重ねる形へと変わるそれ、しっかりと握り返されながらシーツへと押え込まれる。自然と近くなる距離にルートヴィヒの顔を見上げると、唇を塞がれた。 「んっ、……ふ──、……」  中も外も貪られ、蹂躙される。激しくはあるが、乱暴ではない。息を継ぐために離れた唇を大きく開き、空気を吸い込みながらルートヴィヒを見上げる。  先程よりも上気して赤く染まった頬。何かを堪えているかのように眉根が寄せられ、口元にも力が籠った表情。  こめかみのあたりから伝い落ちる汗が頬から顎へ。更に下へと落ちた雫がアルノシトの胸へと当たると、びく、と肌が震えた。  乱れた髪も、いつもと違う熱を帯びた眼も。何よりも──── 「…ァ、…ぁ、く、ぅ…、…──ッ、……」  繋げた箇所から感じる熱。  散々に甘やかされていたというのに、漸く「抱かれている」のだと実感出来た。シーツに押さえつけられたままの指を絡め直すと、しっかりと握り返す。  汗ばんだ肌と吐息。乱れたシーツの感触。奥を突き上げられる度、腹の間で揺れる自身の性器が互いの腹を汚していく。  深い場所を突き上げられ、そのまま円を描くように中を掻き混ぜられると、顎下を晒す程に大きく体をのけぞらせ、ひくひくと下腹が震えた。 「は、…ぁ…また…、……」  限界が近いことを知らせると、重ねた掌を強く握られた。肩口へ顔を埋めるようにしながら、もっと奥を望むように腰を突き上げられると、開いた足が頼りなく揺れる。  眼前にあるルートヴィヒの耳へと唇を寄せた。 「ル、トヴィヒさ、……も…」  ──一緒に。  返事の代わりに首筋に口づけられる。もっと深い場所へと肉塊が押し付けられた。ふらふらと揺れていた足をルートヴィヒの身体へと巻き付け、自分からも腰を押し付けるように体をくねらせると、耳元に寄せられた唇から小さく息が漏れた。 「んッ、っッ――……ぁあ、あ、──……あ――ッ……!」  同時に吐き出される熱。二度三度と揺らされる腰の動きは、内壁に吐き出したものを擦り付ける動きにも感じられて。腰に絡みつかせた足に力が籠り、内腿を擦り付けるようにしながら全身を震わせた後、ゆっくりと力が抜けていく。  首筋へと触れていた唇が微かに動く。何を言われたのかを聴き取れなくて、数度眼を瞬かせる。  緩々と食む唇は、そのまま髪へと埋められ。硬直したように絡み合わせていた指を解くと、頬に手を添え、こめかみや頬へと口づけを繰り返される動きに、くすぐったさを感じて肩が揺れた。 「────な、に…?」  掠れた声に自分で少し驚いた。問いかけに口づけを繰り返していたルートヴィヒが動きを止める。 「…………、何だろう。上手く説明できない」 「……めずらしい、ですね」  素直な感想。ふ、と空気が緩むのを感じる。 「そうだな……君と出会ってからの私は、珍しい、ことばかり体験している」  軽く。触れるだけの口づけの後、ゆっくりと体を起こしていく。 「っ、……」  びく、と体が跳ねる。離れようとした動きを感じて、無意識のうちに埋め込まれたものを締め付ける。 「──……、あまり、煽らないでくれ、と言ったのだが?」  動きを止めたルートヴィヒの声には、咎める響き。だが、怒ったり不快感を感じている訳ではないことは、口調の柔らかさでわかる。 「ん、だって……」  ────離れたくない。  と言えば困らせるだろうか。もぞりと足を捩ると、結合部がぐちゅりと音を立てる。  少しの沈黙。 「……明日の予定は……?」  不意の問いかけに間が空く。明日──特別な配達や仕入れ等はなかったはず。普段通りの予定だということを伝えると、ルートヴィヒの口端が緩んだ。 「なら────もう少しだけ」  いいか?と問いかける視線。答える言葉の代わりに腕を伸ばして首へと絡め引き寄せた。

ともだちにシェアしよう!