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ハグの日-A-
気づけば二週間。
電話すらしていないことに気づいて、ルートヴィヒは大きく息を吐き出した。
恋人は理解がある──というよりは、物分かりが良すぎる。急な予定や仕事の都合で予定をキャンセルすることになっても、怒ったり不満を口にしたことは一度もない。
少しぐらい文句を言っても──なんて、贅沢な願いか。
自分勝手だな、と微かな自嘲を浮かべて書類へと眼を落した。
が、どうにも集中できなくてすぐに視線を外す。
「……まいったな」
集中できない原因は明白。どうしたものか、と天井を見上げると同時にドアがノックされた。
「──どうぞ」
扉が開いて顔を見せたのは、幼馴染。と──思わず立ち上がった。
「……アルノシト」
逢いたいと思っていた人物が突然目の前に現れて驚きを隠す余裕もない。
どうしてここに。問いかけようとして、答えが目の前にあることに気づいて肩を竦めた。
詳しい事情は分からないが、にやにやと手を振って退出していく幼馴染が原因であることは明白だ。
「……さっき、エトガルさんと逢って」
連れて来て貰いました。
迷惑かどうか、を気にしているのだろう。やや眼を伏せて視線を彷徨わせている様を見ると、自然と笑みが浮かぶ。
扉の前で立ち尽くしているアルノシトへとこちらへ来るように促しながら、自分も足を進めて距離を詰める。
「来てくれて有難う。逢えて嬉しい」
頬へと触れると、あ、と唇が動いた。続けて嬉しそうな笑みが浮かぶのを見ると、堪え切れずに腕を回して抱きしめる。
「ルートヴィヒ、さん?」
不意の行為に驚いて固まってしまったのが伝わってくる。が、やがて遠慮がちに自分の背中に腕を回されるのを感じると、そのまま目を閉じて深く息を吸い込んだ。
「……」
──落ち着く。
ただ体温を感じ、傍に居るのだと実感するだけで不思議な程に心が穏やかになる。無言のまま、ただじっとしているだけの自分を責めるでもなく、ただ穏やかに抱きしめてくれる腕に甘えて、頬を摺り寄せた。
「……暖かいな、君は」
「え?」
いきなりの呟きに驚いた声。一度腕を緩めると、両手で頬を包み込んだ。驚いたままの表情すら愛おしくて一度だけ唇を重ねた。
すぐに離してまた触れ合わせる。何度も触れ合わせるうちに離れるまでの時間が長くなっていく。
「……ん、…ルートヴィヒ、さん」
何度目かのキスの後。震える声で名を呼ばれて動きを止める。
「……お仕事…は?」
「問題ない」
事実。集中できない原因が恋人と逢いたい──と思った事。ここでこうしてアルノシトがいてくれるならば、一晩程度の余裕はある。
「……じゃぁ、あの」
一瞬顔を輝かせた後、言い淀んで顔を伏せる。背中に回した手に力が籠る。
「もっと……キス、したい、です」
言いながら肌を薄く染めていく。頬に添えていた手を後頭部へと回すと、自分の方へと顔を上げさせる。
「……私は君に触れたいんだが?」
「……っ、……でも」
「君がそういう気分でないなら、キスだけにしておく」
ぎゅ、と服を引っ張られる。
「その言い方は……ずるい、です」
拗ねたような物言いに眼を細めた。ちゅ、とわざと音を立てて頬へと唇を触れさせる。
「すまない……君のおねだりがあまりにも可愛くて」
自分の言葉に更に肌を染める姿を見ていると、もっと見たいと思ってしまう。
「アルノシト」
名を呼ぶと視線が重なる。愛しげに髪を撫でながら改めて告げた。
「君に触れてもいいだろうか?」
答える声はない。返事の代わり、遠慮がちに唇が押し当てられる。触れていただけの先程までの行為とは違い、口端から舌を差し込んで深く口付けた。
──翌日。恋人をソファに座らせて仕事を片付けるルートヴィヒの作業速度は通常よりもかなり早く。これだけの作業量をこなせるなら、困ったときには来てもらうか──なんて幼馴染にからかわれたり何だりしながらも、予定よりも早く作業を終わらせた後、恋人を連れて自室へと引きこもったのは別の話。
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