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二度目は傍で-2-C-
ベーレンドルフのクリスマスパーティーは大盛況で幕を閉じた。
アルノシトのしていたことは壁際に控えて会場内で何か起きていないかに気を配ることが大半で、最初の演説くらいしかルートヴィヒを見る余裕はなかったのだが。
それでも。沢山の人に取り囲まれている中でも堂々としたルートヴィヒの姿は誇らしくて。噂話で彼の名が賞賛とともに語られるのを聞きながら、我が事のように嬉しくなっていた。
そんなことを考えているうちにパーティーも終わり、後片付けを手伝った後。日付が変わる直前にようやく今日の業務が終了した。
今日も部屋に行く約束はしていたけれど。自分でこれなら、ルートヴィヒはもっと忙しいかも知れない。
また部屋を暖めておけばいいか、とルートヴィヒの部屋へと向かった。
「え……?」
ノックに返事が返って来る。おずおずと扉を開けると、暖かい空気。急いで中に入って扉を閉める。応接用のソファに座るルートヴィヒはバスローブ姿。
部屋の暖まり方から考えると、随分前から部屋にいた──いや、髪がまだ乾ききっていないところを見ると、部屋を暖めることだけメイドに頼んでいたのかも知れない。
「どうした?」
挙動不審な様に疑問の声。何でもないです、と答えてから、ソファに座るルートヴィヒの隣へと。
「今日は大変だっただろう。お疲れ様」
ふ、と表情が緩んだ。アルノシトの髪を指で掬いあげ、耳へとかけながら言葉を続ける。
「ルートヴィヒさんも──お疲れ様でした」
答えはないが表情が緩む。髪をそのまま撫でられて擽ったさに少し笑った。
「君のおかげでよく眠れたから」
「なら良かったです」
今日のルートヴィヒは顔色も良い。疲労の色は確かにあるが、先日よりも体調がいいように見えてアルノシトも表情を緩めた。
それから少し雑談。今日の料理の出来は料理長快心の出来だった、とか、相変わらず取材がしつこくて大変だった、とか。
いまだに十年以上も前の路面電車事件を掘り返すしか能のない新聞社は出禁にしてもいいかも知れない。
なんて本気か冗談か。少し疲れたように溜息をつくルートヴィヒの太腿へと手を置いた。
「今日はもう寝ますか?」
アルノシトの問いかけに眼を瞬かせる。ふ、と表情を緩めた後、髪を撫でていた手がそのまま首筋へと撫で下り、顎へと。
「今日は──眠りたくない」
自然と詰まる距離にアルノシトは眼を閉じた。すぐに柔らかい感触。唇を緩く食む動きに顔を傾けながら、自分からも腕を回す。
「ふ……」
入り込んできた舌先に捉えられて肩が跳ねる。くちくちと丁寧に口中を探られ、時折肌が震える。
「──は、」
息を継ぐために自然に離れた唇。ぱち、と薪が爆ぜる音がどこか遠くに感じる。唾液で濡れた唇をなぞる指の動きにびくりと体が跳ねた。震える指でバスローブを掴む。
「俺、も……寝たくない、です」
唇をなぞる動きが止まる。再度重ねるだけのキスをしてから、静かに身体を離して立ち上がった。差し出された手を握ると、寝室へと。先日と同じように、先にベッドに背を付けるが、ルートヴィヒは隣ではなく、上に覆いかぶさる位置へ。
「あ」
行為そのものが久し振りだからだろうか。裸身を晒すことに薄く肌が染まっていく。制止を求めるものではなかったから、ルートヴィヒはそのまま胸に顔を伏せた。
ぬるついた舌先が小さな粒を擽ると、すぐに意識が蕩けてしまう。与えられるものにいつも以上に反応を返してしまい、自分で自分の声に恥ずかしくなって軽く口元を覆った。
「ふぁ……、……ぁっ、……ア、……」
ルートヴィヒの指も舌も。吐息さえも自分の肌に触れるとそこから熱を帯びるように感じて、息が荒くなる。ベッドの上で身動ぎながら、滑り降りる指の動きに合わせて足を開く。
「……ん、…あの、……」
遠慮がちな声にルートヴィヒが顔を上げた。視線が重なると、また恥ずかしくなって顔を横に倒す。
「その……いっぱい、ルートヴィヒさんを……感じたい、から……ゆっくり──」
声が小さくなっていく。開いた足の中心、既に存在を主張している性器は、少しふれれば達してしまいそうな程に張りつめている。
滑り降りた指先が、足の付け根から性器の周辺を撫でるだけで、腰が震えて声を上げてしまう。
「ぁ、っ、……、や……」
ぎし、とベッドが軋む。内腿へと滑る手が更に足を開かせようと動くのに反射的に力を込めた。
「見せて」
ほんの少し掠れた声。熱を帯びた視線と声とにアルノシトは閉じようとした足から力を抜く。ぐ、と押し広げられた足の奥。震える後孔まで晒されるような行為に更に肌が色を深める。
震える声にも動きを止めない。太腿から離れた指が、後孔に触れると、一際大きく腰が跳ねた。
「~~~、……ぁ、……」
ぬるついたオイルの感触。いつの間に──なんて浮かんだ疑問も、差し込まれる指の感触にすぐに流される。
「──あ!……っ……、……ふ、ぁ、あァ……」
大袈裟な程に腰が震える。枕の下から手を差し込むと、ぐ、と枕を握り締める。開いた足の先がシーツの上を泳ぐのも止められない。
中を探る指がほんの少し動くだけで下腹がひくつく。まだ触れられてもいないのに、性器は既に張り詰めて白濁混じりのものを吐き零している。
「ルートヴィヒ、さ…も、だめ……出ちゃう、から」
握りこんだ枕へと横に倒した顔を更に埋めるように。半ば身体を横向きにするような恰好になりながら、堪えようとするが、堪え切れずに達してしまう。
びくりと跳ねる性器から散ったものが肌やシーツを汚すのに、涙目のまま視線を彷徨わせる。
「ぅ…あ……」
快感と羞恥とでごちゃごちゃになってしまった感情に短い呼吸を繰り返していると、不意に顔に堕ちる影。
「ん……っ?」
額から鼻筋。瞼、頬……と繰り返し何度も口づけられて呆けてしまう。最後に顎先へと触れてから、ルートヴィヒは視線を重ねた。
「──アルノシト」
名前を呼ばれて視線を向ける。ルートヴィヒの表情は優しいままだが、押し付けられた熱を感じて息を飲む。
「本当に辛ければ……無理はしないで、欲しいが」
入り込んでくる熱に動きが止まる。少しずつ深くなる結合に声にならない声が零れた。ふらふらと頼りなく揺れる足の先、指が時折握ったり開いたりを繰り返す。
「……だ、いじょぶ……いや、じゃない……からっ……、」
は、と大きく息を吐き出す。枕の下から手を出すと、ルートヴィヒへと指を伸ばして背中へと回す。
「……ん、……でも、……頭が、ふわふわしてて」
言葉通り緩く頭を振ってから、改めて視線を合わせると緩く笑みを浮かべた。
「へんなこと、いっても……笑わないで──、ん!」
言葉の途中で突き上げられて表情が歪む。ばつ、と一息に肌を打つほど深くえぐられて、一瞬息が詰まる。自分の意志とは関係なく、熱を埋め込まれた肉壁が歓喜に震え、絡みつく。
その熱さにルートヴィヒはほんの少し眉を寄せた。
──もっと欲しい。
そう思う心が自然と距離を詰める。シーツに置いていた手をアルノシトの身体へと回し、胸から腹を合わせるように密着させると、挟み込まれた性器が震える。
「~~~っ、ぁ、ア……っ」
震える嬌声に、ばつ、ぐちゅ、と肌を打つ音と中を掻き混ぜる音が混ざった。縋り付くようにルートヴィヒの身体に回す腕が震える。
腕だけでなく、足も回し、全身で縋りついた。自ら腰を揺らし、腹を押し付ける。自身の快感を求める無意識の行動ではあったが、びく、とルートヴィヒの身体も震えた。
「……いい」
薄く掠れた声。ルートヴィヒが呟いたのだと気づくまで数秒かかる。
「ルートヴィヒ、さんも……きもち、いい?」
ぎし、とベッドが軋むのが答え。びく、と全身を跳ねさせながら、アルノシトも手足に力を込める。
「おれ……、きもち、よすぎて……はっ、……」
ばつ、と肌が鳴る。同時に、下腹がひくつき、身体が跳ねた。もっと、と求める心が強すぎて、ルートヴィヒの事を考える余裕がなくなってしまう。
「……ァ、あ……っ、ふ、ぁ……むり……も、……」
最奥へと熱を埋め込まれ、腰を揺らされると悲鳴じみた声が上がる。しがみついたアルノシトの身体が震えると同時、強く締め付けられてルートヴィヒの熱が吐き出される。
体の奥で跳ねる熱に合わせて震える指先。ぎゅ、としがみついていた腕が少しずつ緩み、汗で滑ってシーツへと落ちる。ルートヴィヒは静かに腕を緩め、シーツの上で無防備な姿を晒すアルノシトを見つめる。
上気した肌に伝う汗も、乱れた呼吸も。吐き出したもので汚れた肌も、だらしなく広がったままの足も。呼吸の一つすら、全て愛おしく感じて、口づけると、息苦しいのか微妙に表情を歪める。
すぐに離れて、触れるだけのキスを繰り返せば、心地よさそうな表情に変わった。
「──、……」
中々戻って来れない様子を見て、ルートヴィヒはアルノシトの乱れた髪を整えるように指で梳いた。汗で張り付いた前髪を後ろへと撫でつけると、そこでようやく、アルノシトの眼が自分を見るのに笑みを返す。
「……私が分かるか?」
頷く。投げ出していた手が再び頬へと触れる。引き寄せられるままに顔を寄せる。
「……ルートヴィヒ、さん。俺の、大事な人……です」
「…………うん」
子供じみた返事しか返せなくてルートヴィヒは目を伏せる。純粋な感情を向けてくれるアルノシトの存在の大きさを改めて感じると同時に──
「アルノシト」
視線だけが向けられる。静かに口付けた後、抱きしめた。耳元へと唇を寄せて、一呼吸の間。
「──」
小さな声は認識出来なかったかも知れない。それでもいい。
もう一度抱きしめた後、身体を離した。本音を言えば、このまま朝まで抱いていたい気持ちもある。だが、それ以上に──
「少し眠るといい」
頷きが返って来る。摺り寄せられる体を抱き締めながら、自分も目を閉じる。
明日──日付としては今日にあたるが──は一日休みだ。何をするかは起きてから考えればいい。つい予定を詰め込んでしまう事が習慣づいてしまっているが、アルノシトと過ごす時は──何も考えないようにしたい。
閉じた眼を開くと、既に眠りに落ちているアルノシト。おやすみ、と呟いてから、自分も眠りについた。
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