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第10話

《柊 雅臣side》 そして今に至る。 自分とその子を重ねているのか―。 祥吾の言うとおりだ。 自分の過去と鳴宮君の件とは比べものにならないほど違う。 そう分かっているのに、家族に知られたくないと涙を流す鳴宮君を見たとき、助けたいと心の底から思いながらも、高校生の頃の自分を見ているようで、苦しくなったのも確かだ。 自分に降りかかった不幸が、大切な家族を壊すかもしれない。 大切だからこそ守りたい。 自分さえ我慢していれば。そう言った気持ちを分かるからこそ、自分だけの判断では決め切れず祥吾に相談したのだ。 「助けたいんだ、でも、怖くて…」 「雅」 優しい声が、大丈夫だと言うように、重ねられた手に力がこもるのがわかる。血の気が引いて冷たくなっていた手が、いつのまにか暖かくなっていた。 「雅の家の事は、本当に辛かったと思う。雅が一番大変なときに傍に居てあげられ なかった事、すごく悔しい」 添えられた手がそっと離れ、暖かさが隣に移る。 ソファが軋むと同時に抱きしめられた。 「同じ高校に言ってたら、雅の事を守ってあげられたかもしれないのに。いや、そうじゃなくても、ずっと一緒にいて守ってあげたかった」 辛い過去は変わらない。 けれど、その言葉だけで、過去の自分の重荷が少しだけ軽くなるような気がする。 あの時祥吾に相談していたら、何か変わっただろうか。 何も変わらないかもしれない、けれどあんな風に突然離れることはなかっただろう 。 自分のように苦しむ生徒の力になりたい、 学校が怖いと思う子に寄り添ってあげたい。 そう思えるまでに時間はかかったが、 そのお陰でまたこうして祥吾とも出会えた。 きっとどうなっていても2人は結ばれる運命だったと思いたい。 自分と同じように、鳴宮君にも幸せになってもらいたい。 そのために自分に出来ることは何か。 「祥吾、聞いてくれてありがとう。もう一度鳴宮君と話してみる。」 《鳴宮 湊side》 気を失えたら、どんなに楽か。 そう何度も願うのに、俺の現実はそれを容易く許してくれない もう何度目か分からない抽挿に 顔をゆがめながら額をシーツに押し付ける 幾度もそこに放出された精液が、抜き差しのたびに聞きたくもない卑猥な音を響かせる。 太ももまでとめどなく伝い落ちてくる感覚に不快感を覚え、ひたすらこの悪夢が終わるのを願う。 ひとたび奥を突かれれば、悲鳴にも近い掠れた声が自分の口から出るのが嫌で、必死に両手で口をふさぐと、覆いかぶさった後ろから髪を引っ張られ、強引に仰向けにされ向き合う形にされてしまう。 再び挿入し中を突き上げながら自分を見下ろす義父の口元がニヤリと口角をあげた。 「お前、妹達にほんと似てるなぁ。あいつらも抱いたら具合いいんだろうなぁ」 想像するだけでおぞましい言葉を耳元で囁かれ血の気が引くのが分かる。 「俺を、好きに、していいからっ…なみと、うみには何もし、ないでっ…」 涙ながらに懇願する俺を見て、ニヤニヤと満足気な顔をする義父が、噛み痕で赤く 色づく乳首を捻る 「痛っ、」 「うみなんて少し胸も大きくなってきたしなぁ。ここをこうやっていじったらエロ い声で善がるんだろうなぁ」 まだ小学生の妹相手に、そんな想像をするなんて、この男はどこまでも異常だ。 反射的に睨みつければ、頬を叩かれる 「なんだぁ?その目は」 続けて顎を掴まれ一瞬痛みに顔をしかめるが、その腕は力を緩めずいっそう強くなる。 痛みから逃れる為にフルフルと首を振ろうとするが、圧倒的な力の差で逃れる事が 出来ず、そんな俺を見ながらまたニヤニヤと下劣な笑みを浮かべ、そのおぞましい顔が近づいてくる。 「いやっ…んぐっ」 食らいつくような口付けに、歯列を割られ舌が入り込んで来る。 息づく暇もなく強引に舌を絡められ、気持ち悪さに吐きそうだ。 どちらとも分からない唾液が唇を伝い、息も絶え絶えになった所で口を離される。 苦しくて肩で息をしながら、どうにか目の前の身体を押し返そうとするが、両手を取られてしまい、手首をシーツに縫い付けられる。 挿入されたままだった性器が再び律動を始め、抵抗も出来ず、 なすがままに揺さ振られ、ひっきりなしに声が漏れる。 「ひっ、やだっ…あっ、」 感じたくなんかないのに、この数年弄ばれた身体は義父の与える快感を拾い、それが自分の心をさらに蝕んでいく。 日に日に心と身体がバラバラになって、割れたガラスのようになっていく気がした。砕けたまま形を残そうにもどんどん擦り切れて砂のようになっていく。いっそ砂のように吹き飛んでなくなってしまえばどんなに楽か。 そう考えては諦め、悩んでは諦め、それはまるで自らの砂に溺れる蟻地獄のようだった。 「お前が裏切れば、分かってるだろうな? 俺も鬼じゃないからなぁ、黙って言う事聞いてれば、妹達にも何もしてないだろ?」 お父さんは優しいなぁ、そう耳元で囁く義父は、その先で待ち受けるウスバカゲロウそのものだ。 捕食するものと、されるもの。 身体を捻ってうつ伏せになり逃れようとするも、腰を両手で強く固定され引き戻されてしまう。 痕が残ってしまうのではないかというほど強い力で後ろから腰を引かれ、ギリギリまで抜かれた性器が一気に最奥を突き上げる。 「い゛っ…!!」 「逃げようと思うんじゃねぇぞ。逃げたらお前も、お前の家族も全部めちゃくちゃにしてやるからな」 激しい律動に、必死にシーツにしがみつく。 涙で視界も滲み、部屋中にくぐもった湊の嗚咽と、激しい水音だけが響いている。 悔しくて、悲しくて、抵抗できない自分が情けなくて、 ただただ時間が過ぎるのを待っていた。 こんな生活になってどのくらい経ったのだろう。 誰かに相談したい、助けてほしい。 そんな矢先に保険医の柊先生に事情を知られてしまった。 自分を心配する先生に、素直に助けを求めればよかったと、後悔した日もあった。 それでもこうやって現実を突きつけられるたび、自分が我慢しなければ最悪の事態になってしまうのじゃないかと、伸ばそうとした手が空を切る。 知られたくない、知ってほしい、壊したくない、いっそ全部壊れてしまえばいい、 体中から毒のように溢れてくる想いが自分の身体に絡みつき思考を鈍くする。 うっすらと目を開けばカーテンの隙間から差し込んだ月明かりが頬を照らした。 滲む視界がキラキラ輝いて、自分の汚さがいっそう際立った感じがして、とめどなく涙が溢れた。 くぐもった声が部屋に響くが、そこにはもう自分しかいない。 それが一層自分は一人なんだと感じさせた。

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