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嫉妬-1-B-

 なんかんだと付き合いだしてから一ヶ月。  特に何が事件が起きるということもなく、時々食事をして一緒に寝る。そんな生活に慣れて来た頃。有給の消化をしろ、と上からの通知。  土日を含めて10連休。思いがけずまとまった休みが取れた、というか、取らされた、というか。  とにかく、長期の休みだ。すべての日数は無理でも、何日かは一緒に過ごせればいい、と思ってメールを送った。  ────全部予定空けます。  メールの返信の速さと内容に飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。予定は一か月ほど先だが、どこかに行くなら先に予定を立てておきたい。  急だが今日会えるか、とメールの文章を打つ前に、向こうから「今日の夜に逢いませんか?」と連絡が来た。    ────楽しみにしている。  二つの意味で。メールを送信してから、仕事に戻った。         ◇◇◇◇◇◇◇  待ち合わせは佑の部屋。  食事の準備や後片付けを思うと、外で食べた方が楽な気がするのだが、二人でいる時間を長くしたいから、と佑の部屋で食事をしてそのまま──というパターンが多い。  もちろん、時々外に行くこともあるが、そのまま外で──ということはほとんどない。気づいたら佑の部屋に来ている気がする。  今日も帰宅途中にスーパーで食材を買って帰った。野菜の皮むきや切り揃えることを手伝った後、風呂に入って出てきたら完成しているあれそれを手を合わせてから箸を伸ばす。 「──ん-、美味い」  大皿に盛られているのは、鶏肉とカシューナッツの炒め物。自分のリクエストで作ってもらったおかずに頬を緩めつつご飯を口へと運ぶ。  鶏肉とカシューナッツの他に玉ねぎ、きくらげ、ヤングコーンやパプリカ等、彩りも食感にも変化があって美味しいだけでなく楽しい。 「佑、本当料理上手いよな。自分で作ると、なんかべちゃっとしたり、味付けが上手くいかなくてさ」  幸せそうに頬張る洋佑を見ながら、佑も自分の分を口へと運ぶ。 「慣れもあるけど。最近は動画とかで材料の切り方から実演してくれているものがあるから。それを見ながら作ると大失敗は少ないと思う」  絶対に失敗しない、と言わない辺りが佑らしい。 「火加減とかもだけど、調味料を量って入れないと大体失敗する……洋佑さんは、全部適当ってしちゃうでしょ?」  なぜわかったのか。  顔に出ていたのだろう。ふふ、と笑みを深めながら、空いたグラスに麦茶を注いでくれた。 「洋佑さんは、こういう作業苦手だと思ったから。僕は量らないと不安になっちゃう」   そんな話をしながら食事を終える。デザート、と出された杏仁豆腐まで美味しくて、満足、以外の言葉がない。 「──ご馳走様でした」  食べ終えた食器をキッチンへと運ぶ。佑が洗ったものを、自分が拭いて棚へとしまう。初めて来た時は何がどこにあるのかも分からず、すべて任せるままだったが、今ではもう自分の家のように置いてあるものの場所も分かる。 「で、休みの話。どうしよ?どっか行くのもいいけど、家でゆっくりするのもいいな、と思ってて」  ばたん、と食器棚の扉を閉めてから佑の方を見た。エプロンを外しながら、ん、と目を伏せて考える間。 「そうだね──僕は家でゆっくりしたい」  外したエプロンをいつもの位置へと引っ掛けた後、洋佑の方を見て笑う。 「一緒に夕飯の買い出し行ったりとか……あ、後。服見たりとか、そういうのもしたいかな」 「……そんなんでいいのか?」  頷いた後、ソファの方へ。後を追いかけて、先に座った佑の隣へ腰を下ろす。 「うん。だって、普段中々出来ないでしょ?だから」  言われてみれば。今日だって、自分が食べたいものを伝えて、冷蔵庫にないものを買ってきて──で、一緒に買いに行ったりメニューを考えた訳ではない。  服にしても──初めて部屋に来た時、佑が買ってきてくれた服を着て帰っただけ。  そういえば、一緒に何かする、ということはあまりなかったかもしれない。 「じゃさ。この間、新しく出来た──アウトレットの店、あそこいこう」  服だけでなく家具や食料品もある。子連れで来やすいようにと、通路の幅やフードコートにも力を入れている──とか何とか。  テレビで特集されているのを見て、ちょっと気になっていた。  洋佑の言葉に、佑はわかった、と頷く。 「後の予定は──その時考えよ」  楽しみ、と嬉しそうに笑う佑を見ると自分も嬉しくなる。伸びてきた指が顎を捉えると、笑みを浮かべたまま眼を閉じた。         ◇◇◇◇◇◇◇  約束の当日。正確には前の日から佑の部屋に居たのが、休暇の開始、という意味では今日から。  直通の送迎バスに乗り、オープン直後のアウトレットモールへ。オープンした当初は整理券だなんだが必要だったらしいが、現在はそこまでの混雑はない。  特に制限もなく、店内へと。通路も広いが、モールそのものもかなりの広さ。  はー、と感嘆の声をあげて見回していると、佑に肩を叩かれた。 「ほら、これ。フロアガイド見ながら行こ」  佑の手にあるリーフレット。折り畳まれた紙を広げると、目当ての店を探して指を滑らせる。 「……あ、ここ!」  とんとんと指で叩くと、既に佑は案内板を見上げていた。  エレベーターかエスカレーターか。移動手段を探しているのだろう横顔。  ────やっぱり綺麗な顔してるよなぁ。  会社に居た時はあまり気付かなかった。というか、気づけなかったというか。  女性的、中性的というわけではない。普段の服装も特別華美なわけではないのだが、色の組み合わせ方や時計や靴等の小物との合わせ方が上手いのか、何となく人目を惹く──ように感じるのは、惚れた弱み?欲目からかも知れないのだが。 「……エスカレーターの方が近いから、向こうから行こう」  不意打ち。急にこちらを見られて、真正面から目が合ってしまった。お互いに眼を丸くして一瞬の間。 「……ふ、ごめん。タイミングが」 「うん。ちょっとびっくりした」  同時に吹き出すように笑う。改めてエスカレーターの方へと歩き出した。

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