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嫉妬-5-C-

 翌朝。起きた後、シャワーを浴びて食事を摂って。他愛ない雑談をした後、どちらからともなくベッドルームへと戻った。  カーテンの隙間から零れる光は明るい。朝……というか、昼に近い時間帯ではないだろうか。 「……あ」 「何?」  こっち、と言いながら押し倒される。仰向けの恰好でベッドの上に押し上げられて、え、と疑問が浮かぶ。 「佑?」  申し訳程度につけていた下着を脱がされた。腰の下に枕を押し込まれ、足を大きく開かされると、流石に少し恥ずかしくなって身動ぐ。 「……僕、やっぱり洋佑さんの顔が見たいから……後ろからじゃなくて、こっちがいい」  自分には良しあしが分からない。後ろからが楽だと検索で見たから、後ろからにしていたが、佑が前からいいというなら、そちらで慣れる方がいい。  そう思ったから、抵抗らしい抵抗もなく、変えられた姿勢で行為を受け入れていく。  指が奥へと滑る。柔らかい動きで窄まった個所を撫でられると、びく、と下腹が震えた。 「っ、ん……」  無理に奥には差し入れない。浅い個所を刺激するように、指先だけの抜き差しを繰り返されると、その度にびくびくと体が跳ねてしまう。 「まだ柔らかい、ね……」  昨日初めて佑のものを受け入れた場所。その時の事を思い出すと、身体の中から熱くなるような気がする。  ちゅぷ、とわざと音を立てるようにして指を離した。洋佑の表情も動きも肯定と受け取れるものだったから、佑は潤滑剤を手に出すと、再び奥へと指で触れる。  ぬるぬるとしたその感触。今更だが、こんな時間からこんなことを──と思う羞恥と、こんな時間から一緒に出来る──という歓喜との混ざった複雑な表情が浮かぶ。 「あ、…佑」  ぬちぬちと潤滑剤を塗りこまれる動きに足が揺れる。どうしたの?と視線で問われて、少し迷った後、視線を逸らした。 「……そ、の…キス、してほしい」  頬が熱くなるのを感じて眼を伏せる。潤滑剤を塗り込む動きが止まると、ぎし、とベッドが軋んだ。 「僕もしたい」  空いている方の指が洋佑の指を絡めとる。掌を合わせる形でシーツへと押し付けた後、顔を寄せて唇を重ねられた。 「んぅ……」  触れる直前まで強張っていた肩から力が抜ける。時折、重ねた指をすり合わせるようにしながら、丁寧な動きで舌が歯列をなぞっていく。  続けて潤滑剤を塗り込んでいた指が動き出した。丁寧な動きで、強い刺激になり過ぎないよう、嚢と後孔までの肌を刺激されるとそれだけで腰が動いてしまう。  さわさわと触れるか触れないかの刺激だけで、熱を覚えることが恥ずかしくて、思わず眼を閉じてしまう。  じれったい程の柔らかな肌への刺激と、丁寧な口腔への刺激。昼間だとか、明るいから顔が見えるとか、そういったことがどうでもよくなるくらいに行為に夢中になる。  隅々まで口の中を探った舌が引き抜かれる頃には、すっかり蕩けてしまっていた。 「ふ、ぁ……」  息苦しさと不意に強めの刺激を受けたこととに声が漏れる。ぎゅ、と重ねた手を強く握ると佑も握り返してくれる。 「……洋佑さん……」  名前を呼ばれる。ゆっくりと眼を瞬かせて佑を見上げると、柔らかく微笑まれて自分も笑みを浮かべた。 「……ぁ、そこ…きもち、い……」  指が少しだけ強めに肌をこすり上げた。身体の奥をぞくぞくと這い上るものに大袈裟な程に反応してしまい、快感だけでない羞恥で声が甘く濁る。 「……ぁ、ッ……、は、ふ……」 「こっちもいい?」  佑の指が嚢を揺らしたり、揉んだりを繰り返す。強すぎず、弱すぎずの刺激を与えられ続け、シーツが肌を擦る刺激だけでも声を上げてしまう。  たった一度だけ。それもほんのわずかな時間だけでも、「受け入れられた」だけでここまで感じ方が変わるものなんだろうか。  なんてぼやけた頭の隅で考えてみるものの、与えられる快感に押し流されて嬌声に変わってしまう。 「洋佑さん……可愛い」  嚢を揺らしていた指が改めて後孔へと触れると、潤滑剤を掬い上げてから、静かに指先が埋め込まれた。 「ひ────ぅ、……ぁ……、ア……」  ベッドから尻が浮くほどに体が仰け反った。上がる声に苦痛の色はなかったから、佑の指は更に奥へと。 「……は、……う」 「苦しい?」  ずる、と指を更に進めながら問いかけられる。言葉が紡げず、首を左右に振って答えた。 「……よかった。そのままとろとろの洋佑さんでいてね」  中で動く指の数が増える。あれだけ受け入れられずにいたというのに、あっさりと飲み込み、中で蠢く指の動きに合わせて体を揺らし、声を上げてしまう。 「…ぁ、たすく…や、だめ、そこ……」 「きもちいい?」  指先でとんとんと中から叩かれると、ぎゅうと強く指を締め付けた。言葉にならない声が答えでもある。 「……洋佑さん」  佑が動きを止める。何事かと向けた視線が頼りなく揺れる。 「指、抜くね」  わざと感触を残すかのように。殊更ゆっくりとした動きで引き抜かれる指に、達してしまったかのように洋佑は腰を震わせて声を上げる。  重ね合わせていた手を一度強く握ってから離すと、改めて洋佑の腰を捉え直し、位置を確かめるよう腰を揺らす。 「辛かったら…やめる、から……」  念を押す言葉の途中で、ぐ、と腰が押し上げられた。ぐちゅ、と大きく音が立つと同時に押し込まれる熱。  昨日はあれだけ逃げ出したくなったのに、自分でも驚くほどすんなりと受け入れられた事に驚いて眼を見開いた。 「あぁ、あ……なか、…はい、て……」  後ろからの挿入とは違い、佑が位置を確かめる動きも、中へと押し込む動きも全て見えていたからだろうか。それとも、一度受け入れたことで自分に自信がついたのか──  ずちゅりと水音を立てながら、奥へと入り込んでくる熱の形へ下腹が歪むのまでが見えて、反射的に眼を閉じてしまった。 「……辛い?」  顔を覆うように腕を交差させたのを見て、佑が動きを止める。違う、と首を左右に振る。 「だい、じょぶ……ちょっと、びっくり、してる、だけ……」  ず、と更に結合が深くなる。情けない声を上げてしまって、自分でもどうしていいのか分からなくなった洋佑の両腕へと佑がそっと指を伸ばした。 「洋佑さん」  名前を呼ばれて眼を開く。顔を覆った腕をそっと外されると、嬉しそうに微笑んでいる佑と目が合う。 「覚えてる……?ここ」  つかんだままの洋佑の手を導いた先。佑のもので押し上げられて、微妙に形の変わった肌へと指先が触れて、洋佑は小さく息を吸い込んだ。 「僕のがいっぱいになっている想像して……って。言ったけど……、今……本当に中にいるんだよ」  分かる?と聞かれて無意識に締め付けてしまった。脈打つそれの存在。しっかりと中に「ある」のだと認識すると同時に、色々なものが一気に押し寄せてきて、洋佑の眼から涙が零れ落ちた。 「……ん、佑……」  腹から指を離すと、両腕を伸ばした。身体を倒してくれる佑の背中へと腕を巻き付け、しがみつくようにして距離を詰める。 「……佑、……たすく」  いつもとは逆に。自分が何度も佑の名を呼んで、その度に返事をしてくれる。 「今日の洋佑さんは甘えん坊だね?」  いつも自分が佑に言うセリフを言われてしまうが、構わず抱き着いたまま。腕だけでなく、両足も佑の身体へと巻き付けてしがみついた。 「動く、よ……?」  言うと同時に腰が揺れた。ぐり、と指で触れていた個所へ熱を押し付けられてしがみついた腕と足が震える。  ぐ、ぐ、と腰を押し込むような動き。激しさはないが、そこに「ある」と感じられる行為。 「…んぁ……あ、…た、すく…いい、……きもち、いい……」 「きもち、いい?……ぼくも、いい」  互いの耳元に唇を寄せるように顔を埋める。汗で解けそうになる腕や足を絡め直しながら熱に溺れる。 「洋佑さ、ん……僕、……」  ふるりと佑の全身が震えた。いつの間にか緩んでいた手足を絡め直すと、もっと奥で、と促すように自分からも腰を押し付ける。 「─────ッ!……」  埋め込まれた熱が弾ける。どくりと中に吐き出されたものが中を伝い、結合部から滲むまでの感覚。ぎゅうと強くしがみついた後、ぱたりと手足がシーツに落ちる。 「……は、ぁ……」  どちらからともなく大きく息を吐き出した。互いの呼吸や鼓動を感じているだけで満たされるような不思議な感覚。  思い出したように頬を合わせたり、抱き締めたり。穏やかに熱が引いていくのに合わせて、佑がゆっくりと体を起こした。 「ずっと…こうしてたい、けど」  名残惜し気に一度腰を揺らした後、静かに身体を離していく。喪失感に眉を下げると、佑が両手で頬を包んでくれる。  啄むように何度も口づけては離れ、を繰り返した後、頬を触れ合わせて眼を閉じる。 「…佑、くすぐった…、い」  言葉通りに僅かに肩を竦めて見せた。ごめんね、と笑み交じりの謝罪を口にするが、離れる気配はない。  ひとしきりじゃれ合って満足したのか、隣へと体を下ろすと静かに抱き寄せられる。 「シャワー……後でいい?」  もう少しこうしていたい。  いいよ、と頷くと自分からも体を摺り寄せた。

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