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嫉妬-6-D-

 気が付けばカーテンの向こうが赤い。  夕方──というよりは、夜に近い時間だろうか。洋佑は正確な時間を確かめようと体を起こしかけるが、ぐい、と腕を引かれてシーツの上に沈む。 「……どこいくの?」  半分眠っている声と表情。離れる気配に起きたのか、たまたま起きるタイミングが同じだったのか。  とにかく、改めて腕を回されると、違う、と首を左右に振った。 「時間……見たいだけだから。すぐ戻るよ」  その言葉に納得したのか、うん、と小さく頷いて腕が緩められた。言葉通り、時計を探して時間を確認。  18時を少し過ぎたくらい。 「もう夕飯の時間だな……」  言いながら佑の腕の中へと体を戻すと、すぐに抱き締め直された。 「……そっか。お腹空いた?」  起きようとしているのか、ゆっくりと何度か眼を瞬かせる。少し視線の定まらない表情が可愛く思えて、洋佑は指を伸ばして佑の前髪を整えようとする。 「喉はちょっと乾いた」  伸びてきた指に心地よさそうに頭を委ねてくる。軽く髪を梳いた後、ぽんぽん、と撫でてから指を離した。 「僕もお水欲しい──」  水、と言いながら口づけてくる。こら、と軽く笑いながら肩を揺らす。 「俺は水じゃないぞ……」 「洋佑さんは僕の命の水だから」  だからいいの。  冗談とも本気とも受け取れる口調と表情。真っすぐに見つめられると、その視線を受け止めきれずに眼を伏せてしまう。  佑は気にする様子なく、軽く触れるだけのキスをしてから、顎先や口端を緩く食む。最後にもう一度、唇を重ねた後、少し距離を離した。 「……シャワーも浴びたいけど……先にお水飲も」  ほんの少し掠れた声。頷き返すと、腕を離して体を起こす。 「……、……」  体がだるい。正確には腰から下が。簡単に拭ったとはいえ、動くと残滓がぬちりと音を立てて自然と思い出してしまう。  忘れていた訳ではないけれど、改めて現実を突きつけられると、洋佑の肌が薄く染まる。 「……持ってくるから、待ってて」  不自然に動きを止めた自分を見て、佑が立ちあがると、返事をする前に部屋を出て行ってしまった。  一人部屋に残されて、小さく息を吐き出す。 「……」  改めて一人になると色々と考えてしまう。時間としては短い時間だったであろうが、妙に長く感じた。 「お待たせ」  佑の声に顔を上げる。差し出されたミネラルウォーターのペットボトルを受け取ると、小さく頭を下げる。 「ありがと」  自分の隣に腰を下ろした佑が水を飲むのを横目で眺める。喉仏がゆっくりと上下する動きが妙に艶めかしく見えて、慌てて視線を逸らした。 「……洋佑さん?」 「へ?……ぁ、何……?」  かりかりとボトルの蓋に指をひっかけているところで声をかけられ、不自然なほど大きな声で返事をしてしまった。  その勢いに驚いたのか、佑が僅かに眉を上げる。 「さっきから変だよ……どこか痛い?」  心配そうな声。無理をさせたのかと気遣われて、そうじゃないよ、と首を振った。 「なんていうか……ようやく、佑の、受け入れられたって思ったら。その……きもち、……良すぎて」  指一本、受け入れることもやっとだったのに。一度熱を受け入れた後は、自分でも驚く程。呆気ない程に行為に慣れて快感を貪っていたような気がする。  正直に話した後、少しばかり肩を落とす。 「あれだけ先輩面しといて、って感じだけど……その……ちゃんと、佑のことも気持ちよく……出来てるか……?」  言い終えると同時に、そっと肩を抱き寄せられる。 「出来てるよ……というか、気持ち良すぎて怖いくらい」 「そ、そんなに……?」  聞いた洋佑の方が狼狽える。その様を見て、佑は「本当に」と言いながら両腕を回して抱きしめる。 「今まで誰かと居る時間ってしんどいとか大変とか……めんどくさいとか……そういう感情しかなかったんだけど」  大事なものに触れる手つき。愛しげに髪を撫でてから、洋佑の頬へと触れて嬉しそうに笑う。 「洋佑さんと一緒にいる時間はね、僕にとって気持ちいい時間だし……もっと、って思うのも初めてだから」  軽く口付けられた。少しだけ触れ合わせる時間が長い。 「……キスしたり。セックスしたり……全部、洋佑さんが初めてなんだよ、僕」  だから── 「洋佑さんと一緒にすることは全部気持ちいい……これじゃ駄目?」  額を重ねるようにして間近で覗き込まれて息が止まる。あんまりにも真っ直ぐ過ぎる感情と視線に顔が熱くなった。 「……だめ、…じゃない、その」 「?」 「……、……嬉しい」  消え入りそうな小さな声。呟くと同時に強く抱きしめられる。 「僕も嬉しい」  良かった。  心底安心したように呟くのを聞いて、洋佑は静かに眼を閉じた。おずおずと腕を伸ばして佑の身体を抱きしめ返す。 「……洋佑さん」 「何?」  ぎし、とベッドが軋む。自分の背中がベッドへと押し付けられたことに気づいて、あ、と口が小さく開いた。 「晩御飯……もう少し後でもいい?」  いつの間にか窓の外は暗くなっている。多少腹が空いた──気もするが。それ以上に── 「いいよ……でも、水は飲みたい」  佑が自分のペットボトルから水を口へと含んだ。そのまま洋佑へと唇を押し当ててくる。零さないよう慎重に、口を開いて受け入れると、ひやりとした水が流し込まれる。  小さく音を立てて飲み込んだ。 「──もっと」  言いながら佑の首へと両腕を回して引き寄せる。この休暇の間、二人でもっと色々な事が出来ればいい。  でも今は── 「洋佑さん」  名前を呼ばれて笑みを返す。今は佑のことだけ考えていたい。そう思いながら、佑の熱に溺れて沈んだ。

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