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貰い物-1-A-

「先輩、ちょっと相談に乗って欲しいんですけど」  深刻な表情をした後輩に呼び止められて洋佑は眼を瞬かせた。  声をかけられたのは昼休みの前。昼ご飯を食べながら──では出来なそうな様子なので、会社が終わった後、後輩と二人でカラオケボックスへと。  通常の飲食店だと、個室でも隣の声が聞こえたりもする。その点、ここなら周囲が騒がしい分、普通に話す声程度は周りの音でかき消されるだろう。  ふー、と息を吐きながらネクタイを緩める。ワンドリンク制だからと後輩の分の飲み物も注文。それが届いてから、視線を向ける。 「──で。何だ、改まって」  自分の分の烏龍茶のグラスを手にした。真剣な様子ではあるが、こちらがあまり身構えると逆に話し辛いかも知れない。  そう思って出来るだけ常と変わらぬ接し方を心がける。 「……その。これ、貰って欲しいんです」  鞄の中から取り出された紙袋。ごとごとと音がするそれを怪訝そうに見つめる。  大きさもそれなり。重さ──は分からないが、かちゃかちゃと金属のぶつかる音が聞こえる気がする。 「……何か重そうだな」  とりあえず中身を教えてくれ、と聞くが、歯切れが悪い。仕方ないと、袋を開けた洋佑の目が半眼になった。 「え……何これ?」  ドン引き。  しても仕方がないかも知れない。中にはいわゆる「大人の玩具」が入っていたのだ。恋人同士ならともかく、会社の先輩にプレゼント──本人が頼んだとかでない限り──するものではないだろう。  文字通りの表情と態度に後輩は違うんです、と慌てて説明を始める。 「実は──」  今の彼女と付き合いだしてそろそろ二年目。以前から一度使ってみたいと思っていた「大人の玩具」を使ってもいいかと相談したところ、本気で引かれてしまい、こんなもの使うような人とは思わなかった、と大泣きされてしまった。  買ったものは全部処分するから、もう二度と言わないし使いたいとも思わない。  そう平謝りして別れることは避けられたものの、もはや部屋にはおいておけない。かといって、未使用のまま捨ててしまうのももったいない。 「先輩、顔広そうだから……好きそうな人、知らないかなって」 「……いや。普通に捨てたらいいだろ」  だからってこんなもの押し付けるか?  露骨に顔に出ていたのだろう。後輩はもう泣きだしそうになっている。 「もったいないじゃないですかー!」  せっかく買ったのに……!と未練がましく洋佑に渡した袋を見ている。  こいつまたやらかしそうだな。と、洋佑は半眼のままため息をついた。 「……とりあえずさ。ちゃんと処分しましたって彼女としっかり仲直りしろよ」  本気で好きなんだろ。  洋佑の確認の言葉に、後輩はしっかりと頷く。 「はい!あいつが嫌がるなら、おもちゃとかもう買いません!」  がちっす。  きりっと格好つける前に、自分の手で処分しろ、これ。  内心呆れつつも、使わないまま捨てるのは勿体ない、という気持ちも分からなくはない。 「……正直、こんなもん欲しがる相手なんて思いつかないからさ。このまんま捨てることになっても、恨まんでくれよ?」 「大丈夫っす!どうなったかとかも聞かないから安心してください!」  晴れ晴れとした──というには、未練がましい視線を向けられている気もするが、悩み事がこの程度で良かった。  以前の佑の件もある。自分の知らないところで、後輩がハラスメントで悩んでいた──というようなことでなくて良かったと思おう。 「相談ってそれだけか?」  それだけです。  元気よく返ってきた返事に肩の力を抜く。 「じゃぁ、時間までまだあるし。ちょっと飲むか」  明るい返事に洋佑は苦笑しつつも、メニューを広げた。

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