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逢いたいのメールから始まる「お試し」の一ヶ月【おまけ】

 いつもの時間に佑はゆっくりと眼を開いた。  隣で眠る洋佑の姿を確認すると思わず抱きしめたくなるが、何とか踏みとどまった。ゆっくりと指を引いて静かに身体を起こす。  長年の習慣で目覚ましをかけなくてもこの時間に起きてしまう。静かにベッドを出て服を着替えると、マンションを出て走り始めた。  特に運動が好きだという訳ではない。ただ、誰と競うでもなく一人で黙々と走るこの時間の空気が好きなだけだ。  薄暗い道を走るうちに空が明るくなっていく。春夏秋冬で違う色を見せるそれらの変化もまた好きで。  コースや距離は決めていない。ただ走りたいと思うだけ走って、止まりたいところで止まる。 「…………」  周囲を見れば、大きな橋が見える臨海公園。この時間帯は自分と同じようにランニングをする人や、犬の散歩らしき人がちらほらいるだけでとても静かだ。  徐々に速度を落として足を止めた。ほんのりと明るくなり始める空を見ながら汗を拭う。  ────今頃は起きているのだろうか。  ベッドに残してきた洋佑の事を思い出して表情が緩む。  正直、自分が他人に興味を持つなんて思いもしなかった。それもこんなかたちで。今の状況に一番混乱しているのは自分かも知れない。  友人と呼べる人はいる。尊敬する人もいる。両親のこともとても好きだし、祖父母のことも大事に思っている。  そのどれとも違う。ただ隣にいて欲しい。声が聴きたい。笑顔が見たい。穏やかに眠って欲しい。  ──最悪、自分を見てくれなくてもいい。洋佑が幸せになるというなら、あのマンションだって残りの財産だって全部渡してしまってもいい。  そこまで考えてふと目を伏せる。  ──出来るなら。自分の傍で幸せであって欲しい。肌を重ねることを受け入れて欲しい。  幸せを願うことと組み敷くことを望むことと。自分の中でも折り合いのつかない感情を持て余して、佑は大きく息を吐き出す。  太陽が顔を出した。一気に周囲が明るくなっていく様を見て、訳も分からず涙が滲む。汗を拭うふりをして顔をタオルで覆った。         ◇◇◇◇◇◇◇  洋佑がここで暮らすようになってから初めての週末。  一緒に風呂に入って寝て──目が覚めた朝。抱きたい、と宣言していた言葉通りに洋佑を抱き寄せると腕を振りほどくことなく、自分から口付けてきてくれた。 「──佑」  震える声で名を呼ばれる。自分の下に居る洋佑が指を伸ばして頬へと触れてくるだけで、理性が飛んでしまいそうになる。  乱暴な扱いはしたくない。逸る気持ちを押さえて、そっと頬へと指で触れる。それだけで嬉しそうに眼を閉じて力を抜く姿に堪え切れず、再度唇を重ねた。 「っ、……」  僅かな呼気が抜けていく。遠慮がちに絡めてくる舌の動きも、首へと絡む腕も全てに劣情を掻き立てられる。胸に指を滑らせて、色の変わった皮膚を軽く摘まみ上げると、びくりと身体が震えた。 「ァ…、ふ……」  唇を重ねたまま、眉を寄せて足を捩る。すり、と指先で小さな突起を擽っていると、やがて肌を押し返すほど堅く尖り、同時に洋佑の呼吸が荒くなっていく。 「……ん、…胸、ばっか…だめだってば……」  唾液で濡れた唇の動き。蕩け始めた声で制止の言葉を紡ぎはするものの、鈍い動きで太腿が摺り寄せられて佑は思わず息を飲んだ。 「……洋佑さん」  興奮で声が掠れる。胸を弄っていた指を下へと滑らせると、意図を察して洋佑は足を大きく開いた。  熱を集め始めた性器も。その奥も。全て佑に晒しながら、更なる行為をねだるように体をくねらせる。 「───ッっく……ぅ……」  震える性器の更に奥。嚢を通り、窄まった個所へと指が触れると、一瞬強く縮こまるような動き。先程、胸の突起を尖らせたのと同じように、襞の一つ一つを丁寧に指先でなぞり上げる。  そうしながら、先程とは反対側の乳首へと唇を被せて吸い上げる。びくん、と大きく体が跳ねて声が高くなる。 「は、……ぁ、……」  まだ埋もれたままの突起を舌先で突くたびに小さな声が漏れる。広げられた足の中心、熱を昂らせた性器が身体の動きに合わせて揺れる度、ぽた、ぽたと雫が散って肌を濡らしていく。 「ぁ、…ふ、ぁ……たすく」  恥ずかしい、と消え入りそうな声が震える。両腕を交差して顔を隠すようにしながらも、広げた足を閉じることなく、佑の指や舌の動きに翻弄されて声を上げている。 「洋佑さん……もっと、……」  堅く尖り始めた小さな突起へと歯を立てた。微かな痛みに動きが止まるも、後孔を弄る指先と肌を濡らす舌の動きから得る快感に流され、声の響きが甘く蕩けていく。 「…ん、……ッ、…あ、ア……」  つぷりと指先を潜り込ませると同時、身体を起こして洋佑を見下ろす。  顔を腕で隠してはいるものの、硬く尖った乳首も、その下の濡れた性器も佑の視線にさらされている。  佑の指を咥え込んだ後孔の縁はひくつきを増し、もっと奥へと指を咥え込もうと動く肉壁に誘われるよう指を更に奥へと潜り込ませていく。 「ひぅ……」  泣き出しそうな声。一瞬指を引き抜こうかと迷って動きが止まる。顔を隠していた腕が伸びてきて、佑の頬へと触れた。 「ぁ、あ……や、だ…、…抜かない──ッ……ぁ!あ、ア…ッ…」  頬を撫でようとした指が、奥へと差し込まれた指の動きにシーツへと落ちる。悲鳴じみた声を上げながら、洋佑は腰をくねらせ、シーツを掴んで佑の指を受け入れた。  まだ準備の整っていない肉壁を遠慮なく指先で掻き、快楽の芽を指先で押しつぶすように指の形を変えていく。 「…、…声、出して…聞きたい……」  自分の下で悶える肉体を容赦なく責め立てながら、耳元へと唇を寄せた。ねとりと舌を耳朶から耳孔へと這わせるだけで声の響きが甘くなる。 「ん──っ、そこ、だめだって……」  指で押すたびに腰が跳ねあがる。抜かないで、と言ったくせに、と意地悪く囁くと涙混じりの潤んだ眼で睨みつけてくる。 「……そんな顔しないで……逆効果だから」  耳朶へと軽く歯を立てるだけで洋佑の動きが止まる。ちゅ、と音を立てながら顎のラインを辿って再び唇を塞いだ。  それだけでとろりと眼を閉じ、舌を絡めてくる。先程まで睨んでいたくせに──呆気ないほど佑を受け入れ、身を委ねてくる洋佑に言いようのない焦りを感じて佑は体を起こす。 「……たすく……?」  動きの変化に洋佑が佑を見上げてくる。ぐ、と奥歯をかみしめて熱をやり過ごした後、指を引き抜いて、洋佑の太腿を抱え上げた。  抵抗はない。むしろ、動きやすいようにと自分から足を更に広げて佑を受け入れようとしてくれる。  その無防備さに愛しさと同時に沸き上がる感情に佑は唇を噛んだ。 「……洋佑さん」  大事にしたいと思うと同時に貪りつくしたい欲と──── 「……僕……」  言葉にならない声。それを最後に、ただ熱を混じらせ、欲に溺れるだけの時間が始まった。

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