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改めましての決まり事-4-B-

 案内された「開かずの間」。  扉の前で足を止めると、佑が少し恥ずかしそうに眼を伏せる。 「あの、……あんまり見ないでね?恥ずかしいから」 「見られて困るものなんてあるのか?」  からかう訳でもない問いかけ。単純な疑問を口にした洋佑に、佑は思案してから口を開く。 「……ない、こともない」  問い返す前に扉が開かれた。どうぞ、と促されて洋佑は部屋の中へと足を踏み入れる。 「お邪魔します」  なんとなく一礼してから部屋を見回す。  まず目についたのは大きなデスク。タワー型のデスクトップパソコンに大きなモニターが二つ。手前に置かれている椅子は、パソコンが一台買えるくらいの値段の有名なチェア──な気がする。  ぐるっと部屋を見回すと、ベッドとソファ。本棚やハンガーラックなどが置かれている。全く生活感がない訳ではないが、モノトーンで統一されて整頓された室内から、「見られて恥かしいもの」はちょっと想像がつかない。 「……モデルルームみたい」  ぼそっと呟いた一言に佑がびくりと肩を震わせた。恥ずかしそうに眼を伏せて頷く。 「うん……その。……雑誌見て、こういうのが欲しいなって思ったのをそのまま買った、から」  そこから多少のアレンジはしたが、基本的にあまりものを変えていない。  説明を聞きながら部屋の中へと。ふと、デスクの上に置かれたデジタルフォトフレームに気づいて足を止める。 「……?」  どこかで見た──というか、これは…… 「佑、これ──」  問いかけようとした洋佑の後ろから腕が伸びてくる。そっと抱きしめられて動きを止めた洋佑の耳元で佑がゆっくりと囁いた。 「初めて──洋佑さんと泊った時の写真」  映っていたのは、洋佑の寝顔。初めて──というのは、洋佑と一緒に食事をした後に泊まった時のことだろう。 「いつの間に、こんなの……」 「これで最後かもって思ったから……寝てるときに」  ごめんなさい。  申し訳なさそうに呟く声。ぎゅ、と腕に力が籠る。 「消さなきゃって思ったけど……どうしても消せなくて」  再び詫びられて洋佑は眼を瞬かせる。寝てる間に写真を撮る──のは、普通に考えれば褒められた行動ではないだろうし、これがただの「後輩」なら、すぐに消せ、と言ったかも知れない。  が── 「……いいよ」  呆れたでもなく、怒りでもなく。笑み交じりの声に驚いたように腕が緩む。ゆっくりと身体の向きを変えると、向き合う形になって眼を丸くしている佑の頬へと指で触れた。 「勝手に撮影するのは、いいことじゃないのは確かだけど……なんだろうな、可愛いって思ってしまったから。俺の負け」  ただし。次からはちゃんと許可を取ること。  言いながら軽く頬を抓って指を離した。改めて両手で頬を包んで引き寄せると、分かった?と視線を合わせて念を押す。 「……ん。……うん」  最初は小さく。掠れた声で頷いた後、今度は大きく頷きながら再び強く抱きしめられた。頬に当てていた手を首へと回し、洋佑も抱きしめ返す。  不器用だなぁ、と震える腕に包まれながら洋佑は眼を閉じた。多分、勝手に撮影してしまったことをずっと後ろめたく思っていて、その分、洋佑に対してどこか線を引いたような接し方になっていたのではないだろうか。  もっと早く話してくれれば良かったのに。  そう思いながら腕を緩めて眼を開く。洋佑の動きを感じて、佑も腕を緩めて再び視線を重ねる。 「どうせならさ、一緒に撮ったやつ飾ってくれよ」 「え?」  きょとんとした佑へと軽く触れるだけのキスをした後、悪戯っぽく笑った。 「今は片思いじゃなくて両思いだろ?なら、二人で撮ったやつの方がよくないか?」 「え?!」  今度は驚いた表情。今日は佑の表情の変化が忙しい日だな、と洋佑は眼を細めた。 「こういう感じで……よくあるだろ?」  今は手元にスマホがないから、佑へと身体を寄せて頬を合わせ、撮影する真似だけ。 「……だめ」  そっけない口調で断られて、今度は洋佑が目を瞬かせる。何故?と視線を向けると、断られた理由が分かって笑い出してしまう。 「そんなに笑わなくてもいいでしょ……」  不満そうに眼を伏せる佑の顔は耳まで真っ赤だ。ただ頬をくっつけて写真を撮る真似をしただけなのに、照れてしまってまともに視線を合わせる事が出来なくなってしまっている。 「ごめん、ごめん。写真だけでそんな恥ずかしがられると思わなかったから」  とりあえず座ろう、と促してソファへと並んで腰を下ろす。いまだ顔を赤くしたままの佑は恥ずかしそうに自分で自分の頬を撫でている。 「……」  佑はちらっと洋佑の方を見たが、またすぐ視線を逸らされる。落ち着くのを待ちながら、洋佑は小さく笑った。 「だって、キスもセックスもしてるのに。写真撮るだけでそんなに恥ずかしがられると思わなかった」  露骨に言われて落ち着きかけた佑の顔がまた赤くなる。 「洋佑さん!」  照れ隠しから来る言葉に洋佑は、ごめん、と軽く笑って返す。それ以上は何も言わないまま、佑が落ち着くのを待った。  少しの間。漸く落ち着いた佑が、はぁ、と大きく息を吐き出した。 「落ち着いた?」  問いかけに頷く佑。もう一度息を吐き出した後、そっと洋佑の指を握った。 「洋佑さんを好きになってから、僕は驚いてばっかりいる気がする」  言いながら語尾に笑みが混ざる。遊ぶように指が絡んでくるのに洋佑も動きで答えると、ぎゅ、と強く握られた。 「ね、洋佑さん」 「うん?」  握った指が持ち上げられる。改めて洋佑の指を両手で包み込むように持ち直しながら佑はそっと目を伏せた。 「洋佑さんを抱きたい」  指先へと唇が触れる。ちゅ、と音を立てながら何度も指を吸い上げられ、じわりと肌の熱が上がる。 「この部屋で。洋佑さんとセックスしたい」  言い直されて今度は洋佑が視線を逸らす。さっきまで一緒に写真を撮る、撮らない、でうろたえていたのに。  こういう時の佑は真っ直ぐに洋佑を見つめてくる。その視線の熱と触れる肌から伝わる熱に洋佑は弱い。身体の奥に熱をともされるような感覚にゆっくりと頷いて返す。 「……ん。いいよ。でも──」  準備したいから先にシャワー浴びててくれ。  洋佑の言葉に佑は素直に頷いた。もう一度指先に口付けた後、静かに指を離し体を離していく。シャワーを浴びるために部屋を出て行った佑を見送った後、少し間を置いてから洋佑も「準備」のために立ち上がった。

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