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恋人の愛は少し……いや、かなり重いです。-2-C-

 あの後。家に戻ってシャワーを浴びて──何も言わないままベッドへと向かった。  いつもの行為だが、何となく緊張した雰囲気が流れる。居心地は良い。ただ触れ合うだけでそれ以上は進まない時間。 「……ね、洋佑さん」 「ん?」  髪を撫でる手がとまった。顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべた佑と目が合う。 「キスしていい?」  びくりと肩が跳ねる。目を伏せると、静かに頷き返してから、顔をあげる。 「……いいよ」  言い終わると同時に柔らかく触れたそれ。すぐに離れて、また触れて──を繰り返しながら、背中をシーツにつける格好へ。  いつもより丁寧に触れられる行為に洋佑の肌が薄く染まる。 「……た、すく。なんか……」  丁寧すぎる程に丁寧な行為に若干の困惑を覚えて口を開くと、佑の指が薄く濡れた唇へと触れた。 「ん──僕……幸せ過ぎて戸惑ってるのかも」  唇をなぞり上げた指が顎を捉える。が、それ以上のことはせず、首筋を撫でて胸へと滑り降りた指先が、埋もれたままの小さな突起へと触れるのに洋佑は大袈裟な程に身体を跳ねさせた。 「っ~~……、ふ」  ふにふにと指先に弄ばれて、すぐ堅く尖るそれ。きゅ、と指先で摺り上げられると、息が乱れる。 「……ぁ、……」  昨日も散々に嬲られたそこはまだ若干の赤みを残しており。指腹で摘まみ上げられると、ほんの少しの痛みと快感が同時に与えられることに洋佑はもどかしげに足を捩った。  胸を弄っていた指が再び肌を滑る。ひくつく腹よりも下、性器のその奥を探る動きに自然と足を広げてしまう。  佑は首筋や耳のラインへと繰り返し口付けながら、昨日の名残を残す後孔へと指を触れさせた。同時に大きく跳ねる腰の動き。 「ひぁ──っ、う、ァ……」  つぷりと差し込まれた指先に声を上げて顎を反らすと同時、佑が体を起こした。完全に見下ろされる格好になり、不安げな目で佑を見上げる。 「たすく……?」  自分を見る佑の眼は優しいままだ。だが、その奥には熱が灯っている事も確か。は、と短く息を吐き出すと、佑は一度指を抜き、洋佑の膝裏へと手を差し入れて大きく開かせる。  膝を胸につけるように身体を折り曲げられて、姿勢の苦しさと恥部を全てさらけ出す恥かしさに洋佑は行き場のなくした手を枕へと押し付けるようにして握り締める。 「……~~~っ、…これ、はずかし、から……」  熱を帯びて震える性器も。行為の名残を残してひくつく後孔も。全て佑の視線に晒されている羞恥に全身が色づいていく。 「全部見たい──見せて」  言いながら佑は唇を後孔へと寄せていく。ぬるりと舌先が襞を舐めるのに洋佑は思わず目を閉じた。 「……っ、く、ぁ…や、だ……!」  昨日の名残を残す後孔へと入り込んでくる舌の動き。指とも性器とも違う感覚に洋佑は声を上げて体を震わせる。 「んぁっ……、ア……っあ……」  中で舌が蠢くたびに性器が跳ねて白濁混じりの雫が肌を汚す。佑は指で尻肉を開き、もっと奥を求めるように顔の角度を変え、強く吸い上げた後、一度舌を引き抜いた。  眼前でひくつく後孔へと息を吹きかけると、洋佑がまた声をあげる。 「……ひ、ぁ……」  達してしまったかのように大きく体を仰け反らせて体を揺らせば、性器の先から散る体液。粗相でもしたかのように濡れそぼった先端から伝い落ちて肌を濡らす。 「た、すく、だめ……も、いきそ……」  震える声の懇願は快楽で濁る。辛さだけではないそれに佑は思わず息を飲んで、眼前でひくつきを増す後孔へ指先を埋めた。 一息に根元まで埋めると、舌では届かなかったそこを指腹で押し上げる。 「あ、あっ……あぁア──」  びくりと跳ねた性器の先から白濁が散り、洋佑の腹や胸を汚す。達した余韻に浸る間もなく中を掻き混ぜる指に責め立てられて、声にならない声をあげて全身を震わせる洋佑に、動きを止めないままで佑は口を開く。 「洋佑さん」  蕩けた視線が向けられる。言葉を返す余裕はないのか、ただじっと見つめられて佑は指で肉壁を掻いた。 「……脱毛の予約はやめよ?……洋佑さんの肌、他の人に見せたくないから」  昨日の今日でまだ綺麗なままの陰部。外に出ている指が嚢や会陰部に触れると、洋佑の身体がびくびくと震える。 「時々、僕が剃るから……ね?」  ぐ、と強めに肉壁を押されて悲鳴じみた声が上がる。ぎし、と大きくベッドが軋み、弾んだ体がシーツへと沈む。 「……たすく、がしてくれるなら、いい……」  呆けた表情で見上げる洋佑が緩い笑みを浮かべた。強すぎる快感に話す言葉も不明瞭だが、浮かべた表情が幸せそうにも嬉しそうにも見えて佑はゆっくりと指を抜いた。再び洋佑の膝裏を押さえて体を起こす。  先程より位置は低いが、大きく広げられた足の間。震える性器も、後孔も全て晒される格好には変わりがない。何より、後孔へと押し当てられた佑の性器は既に昂っており、ひくつく後孔へと口づけるように先端を押し付けては引き、また押し付けて──を繰り返している。  次の行為への期待に震える腹の動きと後孔。佑は静かに腰を押し付けた。 「、…ぁ、……──ッ、あ、ア」  ず、と肉壁を開かされる感覚。太腿に痕が付くほどに強く抑えつけられながら、佑のものが中へと入って来る。逃げ出そうにも逃げられない体勢。洋佑は肩で身体を支えるように大きく体を仰け反らせながら、また枕へと爪を立てる。  どう動いても逃げられない。強すぎる快感に言葉にならない声を上げながらも、熱を受け入れた肉壁は抜くことを阻む程に強く絡みつき、また与えられる刺激を貪欲に受け止めて腹をひくつかせている。  自分を受け入れている洋佑の広がり切った後孔の動きも、突き上げる度に揺れる性器も。何より── 「ふ──、ぁあっ、──、たすく……、はげ、し……」  自分の下で声を上げて体をくねらせているその表情。太腿を押さえる手にさらに力が籠る。中を突き上げる度に震える身体と甘く縋る声に夢中になって腰を揺らす。  限界まで引き抜いた後、最奥まで突き入れたり。ほんの少し引き抜いた後でまた奥を突き上げてみたり。  ばつばつと肌を打つ音に不規則にベッドが軋む。 「ぁ、あ……俺、また…──」  濁り切った甘い声。限界を訴えるその声と表情に佑は僅かに唇を嚙みしめる。今まで以上に深く強く突き上げると同時、蕩け切った肉の中へと熱を吐き出した。 「あぁああ───!」  声にならない声を上げながら、洋佑も熱を吐き出した。同時に絡みつく肉壁に残滓まで搾り取られるように締め付けられて、佑の眉がほんの少し寄せられる。  頭頂部と枕についた手だけで支えるように大きく仰け反った体がシーツに沈む。はー、はー、と乱れた呼吸音だけが響く。  手の痕がついてしまった太腿から指を引きはがすと、汗と涙でぐちゃぐちゃになった洋佑の顔へと指を伸ばしてそっと撫でる。それすら刺激になるようで、熱を受け止めた腹が僅かにひくついた。 「……んっ、……たすく」  喘ぎ過ぎて少し掠れた声。頬に触れる手に委ねるように摺り寄せながら、洋佑はゆっくりと笑った。鈍い動きで伸ばされる指先に佑は自分から顔を寄せて捉えられる。 「……なに?」  真上から顔を覗き込む。捕まえた、と嬉しそうに笑った後、洋佑が笑みを浮かべたままで囁く。 「……──……愛してる。……このままずっと──離れたくないくらい」  どくりと心臓が跳ねる。同時に、洋佑がびくりと全身を震わせた。 「~~~っ、また、……」  熱を取り戻した性器を締め付ける肉の動き。狼狽えた表情とは裏腹に、身体は正直だ──  なんて、ドラマでも見かけないような事を思いながら、佑は緩く腰を突き上げた。 「……僕も。ずっと離れたくない、から──」  もっと欲しい。  言葉にするより前に体が動いてしまう。今まで──いや、これからの全部。お互いのものだと刻み付けたくて行為に溺れた。         ◇◇◇◇◇◇◇  ──あの朝から数か月。  頼んでいた指輪が漸く届いた──と、佑からメールを貰って、洋佑は所謂「定時ダッシュ」で帰宅した。  息を弾ませて玄関を抜けると、リビングにいた佑が目を丸くする。 「走って帰って来たの?」  うん、と頷く。しゃべる余裕もなく、ただ深呼吸していると、佑が水の入ったペットボトルを冷蔵庫から出して渡してくれた。  それを数口飲んでから、漸く一息。 「ありがと……本当はその場で帰りたいくらいだったけど」  どうしても外せない仕事があったから。  洋佑の説明を聞きながら、佑は笑みを浮かべる。ソファの前に置かれたテーブルの上にはペアリングケース。一つずつではなく、二人の指輪を一つのケースに入れて欲しい、とお願いしたものだ。 「洋佑さん」  色々と思い返していると、佑に名を呼ばれて顔を上げる。 「……一緒に、開けよ?」  佑がケースを手にすると、二人の間へと。お互いが指をかけるのを待ってから静かにケースを開く。  デザインは相談して決めた。それが形になった──のだから、驚くことはないはず……なのだが。改めて目の前に実物で用意されると、何となく厳かな気持ちになってしまう。  色々と悩んだが、表面には何もないシンプルなデザイン。違うのは裏面に刻まれた文字とシークレットストーンと指輪のサイズ。  佑も同じようで、少しばかり表情を改めると、自分の左手を洋佑の方へと差し出してきた。 「……あ」  急いで汗を拭う。深呼吸した後、指輪を手にすると、差し出された左手へ。  かつ、と爪の先に当ててしまったが、二度目はするりと。ゆっくりと根元まで指輪を滑らせた後、ふー、と息を吐き出した。今度は自分の番──と佑に左手を差し出す。  自分の手を取る佑の指が僅かに震えていることに気づいて、眼を細めた。  僅かの間の後、ひやりとした金属の感触。今まで指輪なんてしたことがなかったから、少しの違和感はあるがそれ以上に── 「嬉しい」  ぽつりと零した言葉に佑も頷いた。 「うん。僕も──嬉しいし、幸せ」  相手が自分のものだと。そう周りに伝えるための枷。この小さな指輪に込められた重さに不安がないと言えば嘘になる。  が──それでも。繋がれることを望み、望まれた幸福感が勝って、洋佑は笑みを深める。  お互いの家族と相談して、式めいたことはしないと決めた。単純に誰を呼んで、誰を呼ばない、なんて相談が面倒だったこともあるが──  ──一番幸せな顔の相手を他の誰にも見せたくない。  そんな独占欲。躊躇っていた理由が同じと知った時、似た者同士で良かった、なんて笑ったのもどこか懐かしく思える。 「佑」 「洋佑さん」  同時に名を呼んで一瞬の間。互いに顔を見合わせた後、自然な動きで口付けた。  触れ合わせるだけのそれ。ゆっくりと離れた後、また視線を合わせて笑う。 「……僕……本当に幸せ。洋佑さんが傍に居てくれて」  佑の言葉に洋佑は目を伏せた。照れた時に視線を逸らしてしまう癖はなかなか抜けないけれど── 「俺も。佑がいてくれて幸せだよ」  有難う。  重なる言葉にまた笑う。こうやって、他愛のない言葉の積み重ねですら愛しいと思えることが溜まらなくて、どちらからともなく指を絡めて存在を確かめ合う。  こうして。少しずつ時間を積み重ねていければいい。二人でいる時間を繋げていけるよう、努力しよう。  互いに口にはしないが、伝わってくるものに指を握る手に力を込めた。

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