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6 ほっぺにチュウで倒れます

「天音、シャワー先入る? それとも……一緒に入る?」    最後は耳元でささやかれた。  本当なら胸がドキドキするところなのに、俺はいまそれどころじゃない。  どうしてこうなった。  まさか今日こんなことになるなんて誰が想像した?  敦司に報告したら目ん玉飛び出るよっ。  俺なんてもう、いますぐ心臓発作で倒れそうだよっ。  マジでどうしようっ。  俺にはあそこで断る勇気は出なかった。  断ったら二度目は無いかもしれない。  もし断れば、冬磨のセフレになるために、今度は俺が冬磨を誘うことになる。一度断っておいて今度は誘う。それはもう冬磨に執着する男にしか見えない。もう断られるシーンしか想像できない。二度と話をすることもできなくなるかもしれない。  そう思うと誘いを受けるしか道はなかった。  とにかく、準備はしなきゃ。しっかりガッツリ準備しなきゃ。  もしかしたら……なんて思って、昨日も家で広げてはみた。  でも、それがはたしてビッチだと思ってもらえるのか、俺には全くわからない。  だって初めてだし……。本当にどうしよう。もう少し時間がほしかった。 「天音? どうした? 顔色悪くないか?」 「……別に。シャワー、俺が先でいい?」 「ん、いいよ。ゆっくりどうぞ」  冷静にゆっくりとバスルームに向かった。  ドアを閉めてすぐに中を見渡す。  ガラス張りとかじゃないよねっ?  マジックミラー……でもないよねっ?  すかさず確認して、違うようだとホッとする。  やっと呼吸ができた気がする。  どうしよう……俺、本当に冬磨と……やるのっ?  嘘だ、嘘でしょ、嘘じゃないの……っ?  もう本当に心臓壊れそう……。こんなにバクバクしてるのに冬磨にバレないっ?! バレるよねっ?!  今日限りで終わっちゃったらどうしよう……っ。  ちゃんとビッチが演じれるのか不安で死にそうになりながら、俺はシャワーを長めに浴びた。  中を綺麗にして準備をする。  ローション忘れた! と思ったらバスルームにもちゃんとあった。ホテルってすごい。  念入りに念入りに指でほぐす。絶対に初めてだとバレないように、しっかりと、ガッツリと。  指何本入れば大丈夫なんだろ……。   お願い、誰か教えて……っ!  俺には尻の才能がないのか、いつも全然気持ちよくない。てか……気持ち悪い。  どうしよう……気持ちいい演技しなきゃ……。  大丈夫。ゲイビいっぱい観たもん。大丈夫。 「天音? ちょっと長くねぇか? 大丈夫?」  まずい。時間かけすぎたっ! 「あー、ごめん、湯船で寝ちゃった」 「ははっマジか! お前余裕だなー。いいよ。時間押したら延長すればいいし、気にすんな。ゆっくり洗ってこいよ」 「んー、さんきゅ」  冬磨、優しい……。心配をかけたあとでも、優しい言葉と思いやりで安心させてくれる。冬磨の優しさで、焦りとか不安とかどうでもよくなっていく。  あの吹雪の日も、冬磨の気遣いと優しさに感動した。今もまた冬磨の優しさにふれて、好きの気持ちがどんどんあふれる。  冬磨を思うと、胸が熱くなる。  大好き……冬磨……。  いまから冬磨に抱かれるんだ。もしかしたら今日限りかもしれない。  それなら、ビッチの演技で必死になるなんてもったいない。  ちゃんと冬磨を感じよう。最後かもしれないと思って、全身で冬磨を感じたい。  知識は頭に入ってる。準備もきっと完璧だ。ビッチ天音の演技は……口調だけは残しておこう。  後悔のないように、冬磨に抱かれよう。  俺の中でなにかが吹っ切れた。  シャワールームを出て、服かバスローブかで数分悩む。でも、ビッチがここで服着るわけないじゃん、と気が付きバスローブを羽織った。  ドキドキしながら部屋に戻ると、冬磨が優しい表情でソファから立ち上がり、こちらに歩いてくる。 「もう風呂で寝るなよ? 湯船で寝ると危ねぇから。心配すんじゃん」 「悪ぃ。ちょっと昨日徹夜だったんだ」  仕事が、と言おうとして、昨日もバーに行ったことを思い出す。  あぶないあぶない。徹夜の理由は言うのやめよ。 「マジでか。体調大丈夫か?」 「ん、平気。冬磨戻るまで寝てるわ。……ちゃんと起こせよな?」 「わかった。起こすよ。ちゃんと天音を抱きたいしな?」 「……あっそ」  無表情を装うことはできても、顔の火照りまでは抑えられない。  まだなにも始まってないのにどうしようっ。  うつむき加減で冬磨とすれ違うと、後ろからそっと手が頭にふれてチュッと頬にキスを落とされた。 「おやすみ、天音」 「……ばぁか」  冬磨はクスクスと笑ってバスルームに消えていく。  冬磨の気配が部屋から完全に消えると、俺は膝から崩れ落ちて床に倒れ込んだ。  冬磨に……冬磨にキスされた……っ!  やばいどうしようっ。やばいどうしようっ。口から心臓が飛び出そうっ。  両手で顔を覆って必死に呼吸をくり返す。そうしないと呼吸すら忘れそうだった。    なんとか気を取り直した俺は、変な呼吸をくり返しながらなんとかベッドに横になった。  落ち着かなくて何度もゴロゴロ転がった。  初めてなのに経験豊富なふりなんて本当にできるかな……。  冬磨には寝て待っていると伝えた。寝たふりした方がいいかな。  ……だめだ。嘘はビッチ天音だけにしよう。  そう決めて身体を起こし、ベッドの背に寄りかかった。 「あれ? 起きてたのか」 「……うん。なんか寝付けなくてさ」 「お前、顔赤いぞ? 熱あるんじゃないか?」  心配そうに眉を寄せ、ベッドの上に腰をかけた冬磨が俺の額に手を当てた。 「……っ、ねぇよ……熱なんか。ちょっと風呂でのぼせただけ」 「ああ、ははっ。そりゃ湯船で寝こければな」  のぼせだと信じてくれた。よかったっ。  もうずっと顔が熱い。冬磨をこんなに間近で見つめたこともないし、話をしたこともない。ましてやふれたことなんて……。  ごめんね、冬磨。俺、最後まで意識たもてないかも……。  ところで……どう始めるんだろう。俺どうしたらいいんだろう。なにか言ったほうがいいんだろうか。  なにを言えばいいの……? 「……冬磨」 「ん?」 「……しよ?」 「……うわ。可愛いな、天音。ベッドではキャラ変わるタイプ?」  俺なんか間違えたっ?  ビッチ天音は可愛かったらだめだよねっ?  どうしようっ、さっそく失敗したっ!  

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