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8 ビッチを演じるのは難しいです ※

 冬磨は俺の身体中にキスをして舌を這わし、俺は全身で冬磨を感じた。  初めてだとバレたらきっと終わる。前戯だけでこんなに余裕がないんだ。最後までやったらバレるに決まってる。きっと今日で最後だ……。  それなら後悔しないように冬磨を感じたい。  俺はもう、ゲイビを思い出そうとしたりごちゃごちゃ考えるのをやめにして、完全に冬磨に身をゆだねた。 「……ぁっ、……と……まっ、とぉま……っ……」 「マジやばい……天音。なんでそんな可愛いんだよお前」  俺の乳首を舐めながら、冬磨の指が後ろの孔を撫でた。   「あっ……!」    乳首への刺激と一緒だからなのか、あんなに何も感じなかった孔が、冬磨の指が撫でるだけでビリビリと快感が走って腰が浮いた。   「すごい感度いいな。中はどんな感じか楽しみだな?」  冬磨はクスクス笑って乳首を甘噛みする。後ろの指はいつまでも撫でるだけ。  中が気持ちよかったことは一度も無いのに、撫でられるだけで気持ちよくてもどかしくなった。 「ほしい? いいよ。まず指な? ゆっくり一本から」  つぷっと冬磨の指先が入った。でも、それだけで指はすぐに抜けていく。 「と……ま?」 「それ、もっかい言って?」  それ、がなにかわからない。なんだろう、名前のこと? 「とぉ……ま?」 「……っとに可愛い……。何回も言わせたくなるな」 「ンッ、……っ……」  指がゆっくりゆっくりと中に入り込んでくる。でも、一本だけ。優しく撫でるように、ゆっくりと。 「ぁ……っ……」  セフレの人数も把握できない遊び人の冬磨。もっとあっさりと終わるか、激しく抱かれて終わるのかと思ってた。  でも、想像と全然違う。冬磨は、すべてが優しい。手も指も唇も、なにもかもが優しい。 「……ぁぁ……っ」  あんなに気持ち悪いと思っていた後ろ。冬磨の指が優しく動いて撫でるだけで、全身にゾワゾワとした感覚が広がる。初めて経験する気持ち良さに驚いて、思わず胸を撫でる冬磨の手を強く握りしめた。  冬磨は優しく指を絡めて握り直すと、クスっと笑った。   「天音のいいとこ、見つけた」 「あっ、……ぁっ…………」  冬磨が指を動かすたびに快感が強まり、そして遠ざかっていく。 「もどかしい?」  もどかしいのかどうかも分からない。初めての気持ちよさに、俺はただただ溺れかけていた。 「天音のいいとこ、ここだろ?」 「ンぁぁ……っ!」  後ろを撫でられているだけなのに、身体中に快感が駆けめぐり、まるで女の子みたいな高い声が漏れた。ゲイビでも聞いた高い声。こんな声、俺は出せないと思ってた。 「……なん……だろな。天音の声マジでやばいわ。ゾクゾクする。……っつか、お前ずっと震えてるけど……なんでだ? 感じてるだけか?」    ギクリとした。  気持ちいいとみんな震えるんじゃないの?  やっぱり初めてだってバレちゃうのかな……。  どう答えれば乗り切れる?  考えろ、考えろ、考えろ……っ。  ……でも、なにも思い付かない。 「きも……ちぃ……と……ま……」    俺にはもう、気持ちいいという言葉以外なにも思い浮かばない。  好きも、大好きも、嬉しいも、幸せも、なにも伝えることができないから……。 「……ん、ならよかった」 「とぉま……」 「ん、なに?」  目を見られたら終わり。そう思ってずっと目を閉じていた。  でも、冬磨の視線を感じると、目が合わなくてもだめな気がしてくる。表情だけで全てが見透かされる気がしてくる。 「うつぶせ……がいい」 「あ、後ろのが好き? うん、まぁ、いいよ。天音の顔見てしたかったけど。今日は天音の好きなほうで」 「ん……っ……」  冬磨がゆっくりと指を抜いてくれた。  ホッとしてうつ伏せになると、俺はゲイビで観た知識どおりに四つんばいになる。恥ずかしい。仰向けで足を開くのより恥ずかしい……。  でも、枕に顔を押し付けると安心した。これなら顔も見られないし声も抑えられる。よかった……。  冬磨は『今日は』って言ったけど、きっと最後までやったら色々バレる。ちゃんと覚悟しておこう……。   「もう少し指で我慢しろよ? 天音」  どこか楽しそうな声色の冬磨。 「もう……充分ほぐしてあるって」 「まぁそうだけどな。いいから、とりあえず指で感じとけ? 次は二本な? ゆっくり入れるよ」 「んっ、……はぁ……っ……」    もう準備は充分なのに、こんなにゆっくりするのが普通なのかな……。初めてでわからない。  後ろに指が入ってきてから、次はなにをされるのかと緊張してる俺を、すでに見透かしているのかもしれないと不安になった。 「天音、ずっと震えてんのってほんとに気持ちいからか?」  やっぱり普通はこんなに震えないんだ……。  初めての経験に対する緊張、冬磨に抱かれるという緊張、初めてだとバレるのではないかという不安、それから……初めて味わう快感……。  震えを止めることなんて、とてもできそうになかった。 「ん……きもちぃ……っ。あたま変に……なりそ……っ。……ぁ……っ」  もうビッチ天音になんかなりきれない。 「……ん、そっか」  自分の指となにが違うんだろう。冬磨の指は極上に優しくて、少しの違和感もなくただただ気持ちいい。  二本の指でひたすら優しく中をこすられ、さっき声が抑えられなかったところを何度も刺激された。 「あぁ……っ!」  指が三本になって俺の足がガクガクしてきたころ、突然背中を舐められる感覚に、俺は快感で震え上がって背中がのけぞった。 「……天音、ごめん」  突然の冬磨の『ごめん』に血の気が引く。  ごめんってなに……?  やっぱりバレた……?  もうこれで終わっちゃう……?  やっぱり俺は冬磨には抱いてもらえない……?  ごめん、の続きを聞くのが怖い。  でも、もし終わりだと言われても取り乱さない。執着しない。平然とする。それとも怒るほうがいいだろうか。  俺は涙が出そうになりながらも必死で考えた。  

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