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25 俺はただのセフレだった……

「天音、今日断るかと思った」 「強制って言っといて?」    ホテルまでの道のりを、冬磨はご機嫌に鼻歌を歌いながら歩く。   「つうか、泊まりは嫌だって言ってる俺をなんで金曜に誘うんだよ。いつも通りほかのセフレでいいだろ」  金曜日は誰にも譲りたくないくせに、ビッチ天音になりきると可愛くない言葉がスラスラと出てくる。 「ん? どういう意味だよ」 「だから……金曜は別に俺じゃなくてもいいだろって」 「まぁ……別に天音じゃなくてもいいけどさ」    自分で話を振っておいて、ズキンと胸が痛くなった。  まぁ、そうだよね。   「いいんだけど、でも、たまにはゆっくり泊まりたかったんだよ」    ……言ってる意味がわからない。   「だから……俺じゃなくてほかのセフレでいいだろって……」  あれ? たまにはってどういう意味……。 「ほかのセフレじゃ泊まれないだろ」 「……なに、どういうこと?」 「なにってなにがだよ。お前はなにが言いたいの?」 「なんで……ほかのセフレじゃ泊まれないって……どういう意味?」 「どういう意味って。なんでそんなわざわざ疲れることしなきゃなんねぇの。俺はゆっくり泊まって癒されたいんだよ」    冬磨の言ってる意味がわからない。  金曜はいつも泊まりじゃないの?  ほかのセフレと毎週泊まってたんじゃないの?  俺だけ二時間の休憩だったんじゃ……。   「天音といると癒されるから。一緒にゆっくり泊まりたかったんだよ。先週は振られたからさ。だから、今週は強制って言ってみた。言ってみるもんだな?」  嬉しそうにふわっと笑って俺の頭をくしゃっと撫でる。  俺とだから……泊まりたかったの?  俺と一緒だと……癒されるの?  冬磨は誰とも泊まってなかったの……? 「…………っ」  断らなくてよかった。冬磨は初めてセフレと泊まるんだ。冬磨の初めてが俺のものになるんだ。  身体が震えるほど喜びがこみ上げた。喉の奥が熱くなって、必死で涙をこらえる。  絶対演じ抜いてみせる。ボロは出さない。終わりになんか絶対にしない。  ホテルの部屋に入ると、冬磨はいつものようにうなじにキスをした。  震える俺にクスクス笑って「あー可愛い」とささやく。 「天音。今日、一緒に風呂入ろうか」  いつもと違うことを言われて動揺する。初めてのときも一緒にと言われたけれど、あれは完全にからかっていた。でも、今のは本気だ。からかうときの声色じゃなかった。 「は? 入んねぇよ。ばぁか」  冬磨と一緒になんて無理すぎるっ。  一緒にお風呂なんて……倒れちゃうよっ! 「いいじゃんたまには。今日は時間気にしなくていいんだしさ」 「やだ。無理。絶対無理。一人で入る。絶対一人で入るからっ」 「ふはっ。すげぇ拒否された」  冬磨はそう言って笑うと、ちゅうっと音を立ててうなじに吸い付いた。 「ん……っ」  キスマークだっ。俺は嬉しくて胸が高鳴った。  冬磨にせっかく付けてもらったキスマークは、もうすっかり消えてしまった。毎日少しづつ消えていくキスマークに寂しくなった。  また冬磨に付けてほしい。可愛い冬磨が見たい。だから、また自分で付けようかと思ったけれど、もう嘘は嫌だな……と思い直してやめた。  まさか何もなしで冬磨が付けてくれると思わなかった。前回は、ただの対抗意識で付けただけだったから。 「よし。シャワー行っていいぞ」 「……なんだそれ。すげぇ上から目線」 「キスマークで譲歩してやったんだよ。早く行かないと一緒に入るぞ?」  キスマークなんてご褒美でしかないのに譲歩って……。  やっぱり冬磨、可愛い。キスマークが絡むと可愛すぎる。  今日もしっかりガッツリ準備してシャワーから戻ると、冬磨に腕を引かれてベッドに押し倒された。 「と、冬磨?」  こんなことをされるのは初めてで頭がパニックにおちいる。  バスローブの結び目を解かれ、首から肩、胸、背中、足をすみずみまで撫でられた。 「ん……っ、……はぁ……っ……」  冬磨がシャワーを浴びる前に始めるなんて初めてだ。そんなに我慢できなかった……?  すでに息の上がった俺に冬磨が問いかける。 「あれからクソセフレとやった?」  その言葉で、冬磨の行動の意味を理解した。  愛撫じゃなくてキスマークを探していたんだと。  あんなに対抗意識を燃やしてたんだ、聞かれて当たり前だった。でも、俺は冬磨との初めてのお泊まりで頭がいっぱいで、なにも答えを用意していない。  どう答えたらいい? ビッチ天音、教えてっ。  そうだ、ビッチなんだからやってて当たり前だ。性欲が強いんだから一週間も開くわけないじゃん。 「やったけど」  そう答えると「よし、勝った」と冬磨はつぶやいた。  声に感情がない。そう思った。どんな顔をしてるのか見たかったのに「シャワー行ってくる」と、裸の俺を置いてシャワーに行ってしまった。  いつもの冬磨なら、布団をかけて行ってくれる気がするのに、それもなかった。  胸が痛くて泣きそうになる。  冬磨の『勝った』という言葉が頭の中でこだまする。  やっぱり勝ち負けなんだな。キスマークには対抗意識を燃やしても、俺がほかのセフレとやってることは冬磨にはどうでもいいことなんだ……。  わかりきってることなのに、嫉妬の欠片も無い冬磨に胸がチリチリと焼ける思いがした。  俺とだから泊まりたい、そう言われて、俺はまたなにかを勘違いした。  俺はただのセフレだった……。気づかせてくれてありがとう、冬磨。  

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