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番外編 とぉまは、おれのだもん SS
ここから先は、冬磨編のネタバレが含まれます。申し訳ありません。
気になる場合は、冬磨編をお読みになってから戻ってきてくださると嬉しいですꕤ︎︎
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✦side天音✦
「おーい星川、歩けるか?」
「歩けますよぉ、大丈夫れす」
「……だめだな」
大丈夫だって言ってるのに部長が敦司を呼びつけた。
呼ばれた敦司が「心得てます」なんて答えてる。
今日はそんなに酔ってないのに、みんな心配性だな。
久しぶりの会社の飲み会。今までよりもずっと楽しかった。
もうみんなが俺のことを分かってるから、彼女はいるのか、作らないのか、好きな子は、なんて答えづらい質問をされないのが最高に嬉しかった。
代わりに、イケメン彼氏とはどうなんだ、って質問もすごく嬉しかった。
「天音、帰るぞ」
「今日はいいの、大丈夫〜」
「なにが大丈夫だ。全然ダメだろ」
「今日はとぉまが迎えに来てるからぁ、大丈夫〜」
「おお、そりゃ助かるな。どこにいんの?」
「んとね……近く……?」
「なんだよ、近くって。どこだよ」
「えっとね……」
敦司に場所を説明しながら店を出た。
じゃあまた来週ね〜と、二次会組が賑やかに移動して行く。
でも、いつも先導する松島さんがまだここにいた。
「あれぇ? 松島さんは〜?」
「行くわよ? 冬磨の顔見てからね」
「ええ? なんでぇ? とぉまはあげませんよぉ?」
「いらんわ。ほら、行くわよ。どこにいるの、国宝級は」
いらんわ、だって。冬磨、いらんわって言われてる。おもしろい。
敦司と松島さんと部長と……なんかあといっぱい、帰宅組でぞろぞろ歩く。みんなで駅まで。みんな仲良いなぁ。
路地を出て広い道路に出ると、すぐに冬磨のいる場所が分かった。
「ああ、あれね。女の子たちに囲まれてるわ。なんだ、車じゃないの?」
「とぉまも、飲み会で……」
「ああ、そうだったのね」
ガードレールに腰かけてる冬磨に、女の子たちが群がっていた。
冬磨は無視してスマホをいじってる。
無視してるけど……。追い払っても無駄だからだってわかってるけど……。わかってるけど……。
冬磨は俺のなのに……。俺のだもん……。
「おい? あれ、ほっといていいのかよ」
と敦司が俺の肩を叩く。
「……よくないよ」
いますぐ走って行って追い払いたい。
「じゃあ早く行けよ」
「……いま行けないもん」
「は? なんで?」
「何、どうしたの? そんな顔で見てるくらいなら俺の彼氏だーって言って来なさいよ」
松島さんが言うように、そうしたいけどダメだもん。
「だって、とぉまと約束したから……」
「何を?」
「……職場の人たちの前では、ちゃんとするって。いま行ったら……おれ絶対抱きついちゃうもん……」
いま自分がすごい酔っ払いだってわかってる。
あんなところに行ったら何しちゃうかわかんないもん。だから、いま行ったらダメだもん……。
「星川、行ってこい! 俺が許す!」
「そんなのみんな許すわよっ。行ってきなさい!」
「好きなだけ抱きついてこい!」
「ちゅーでもかましてこい!」
「いいな、ちゅーしてこい、ちゅー!」
「そ……それはしません……よ……」
みんなが許すと言って俺の背中を押す。
敦司を見ると「そんな約束いまはいいって」と敦司も押す。
いいの? ほんとにいいの? 頭の中がぐるぐるする。
みんないいって言ってるじゃん。でも冬磨との約束が……。
「星川、ここは会社じゃないし酔っ払いの街だし、お前が恥ずかしくないなら気にせず行ってこい」
部長の言葉で覚悟を決めた。
✦side冬磨✦
あーもーウザい。
何度追い払っても、また別の子たちが来る。キリがない。ゲイだからって言っても信じない。
無視してスマホをいじってるのにキャーキャーうるさい。
天音まだかな……。
なんて思っていたら「とぉまから離れてよっ」という天音の声が聞こえた。
「天音」
やっと来たかと顔を上げると、天音がぴとっと俺にくっついてきた。
「あ、天音?」
天音が人前で抱きつくなんて初めてで俺は固まった。
「え、え? 何? 男?」
「ちょっと、え、男同士で……え?」
うるさかった子たちがたじろぎ始める。
天音が俺にぎゅっと抱きついて彼女たちを見た。
「とぉまに近づかないでよっ」
「……え、え?」
「とぉまは、おれのだもん。だからそばに寄らないでっ」
おい、いま何が起こってる?
天音はいったい何を……っ。なんだこの可愛いの……っ。
可愛いすぎてクラクラしてきた。
こんな可愛いこと、いつも外ではやんないだろ。どうした?
あ、酔っ払ってるからか? だからなのか?
なんだよ、毎日酒飲ますかな。
酔っ払い万歳!
「この子、俺の恋人」
「えっ!」
「う、うそっ!」
「そういうことだから。じゃあな?」
そう言っても動こうとしない子たちに見せびらかすように、俺は天音の頬にキスをした。
すると、女の子たちが今度は手を取り合ってキャーキャーと騒ぎ出す。
面倒臭いな……そう思ったとき、天音が首に腕を回して俺を引き寄せ、頬にキスをした。
ますますキャーキャーと騒ぎ出す子たちに「とぉまはおれのだからっ」と天音が必死に牽制する。
ほんと……マジで可愛いんだけど。なんだこれ……やばい。
そのとき、少し離れたところに敦司が見えた。
その横に松島さんもいて、会社の同僚らしき人たちと一緒に俺たちを見て大騒ぎしてる。
あ、これまずいんじゃないか? 完全に見られたぞ……。
みんなの話し声は聞こえないが、雰囲気的に悪い感じはしない。よかった……と安堵する。
みんな天音を可愛い可愛いって言ってそうな顔をしてた。……それはそれで気に食わないが。
松島さんが俺の視線に気づき、口に手を当て声を上げた。
「星川が約束やぶったわけじゃないからねーっ」
「え?」
約束をやぶるってなんのことだ?
「俺らが焚きつけたんだ! だから大目に見てやってっ!」
少し年配の男性がそう叫び、じゃあなー! と大袈裟に手を振って、他の人たちも笑顔で手を振ってくれて、みんなでぞろぞろと駅の方に歩き出した。
じゃあねー! と、松島さんは一人反対側に歩いて行く。
敦司はニヤッと笑って親指を立て、無言で去って行く。
そこで俺はやっと『約束をやぶる』の意味がわかった。
天音は職場の人たちがいたから『ちゃんとする』の約束を守ろうとしたんだ。でも、みんなに焚きつけられて今こんな可愛いことをしてる。
天音の職場の皆さん、ありがとうございます。
まだ俺たちを振り返り見ている彼らに会釈をしながら、心の中で感謝を伝えた。
そして、さっきよりもさらに俺にぎゅっと抱きつく天音に、思わず苦笑が漏れる。
まだキャーキャー騒いでる子たちに必死で牽制してるつもりの天音が可愛い。
それじゃ火に油だろ。
「天音、帰るぞ」
「……うん」
天音は名残惜しそうに身体を離し、今度は俺の手をぎゅっと握った。
ほんと、可愛いな天音。
「ねえっ、写真撮ってもいい?!」
「あ! 私も撮りたい!」
「それはダメ」
俺が断るとガックリと肩を落とす彼女たち。
「やっぱダメかー。可愛いのになー」
言うと思った。
俺だけのときは写真なんて一言も言わなかったのに、天音を見て言い出すから絶対天音目当てだと思った。
「二人すっごいお似合い!」
「うん、ほんっとお似合い!」
「お幸せに〜!」
すごい笑顔で手を振って、彼女たちが去っていった。
なんだよ、すげぇいい子たちじゃん。
「天音、大丈夫か? 飲みすぎた?」
「……ううん。だいじょぶ」
そう言いながらも俺にもたれかかってくる。
「頑張って帰るぞ。ほら、手じゃなくて腕掴みな」
と、手を解いて腕を組ませた。
天音は嬉しそうにぱぁっと笑顔になって、腕にぎゅうっとしがみつく。
……あー可愛い。
駅に向かって歩き出すと、天音が甘えるように俺を呼んだ。
「とぉま」
「ん?」
「とぉま」
「なんだよ」
「とぉま……」
「なに、どした?」
天音が、さらにぎゅうっとしがみついてきた。
「とぉま……だいすき」
……ほんと、なんだこれ。
ベッドの中の舌っ足らずとはまた違う、酔っ払いの天音……最強すぎるだろ。
ほんと俺、幸せすぎる。
天音と出会わなければ、俺はずっと暗闇の中だった。
なんで生きてるのかもわからない日々。
それを天音が180度変えてくれた。
そんなすごいことをしたなんて、天音は思いもしてないだろうな。
「俺も、大好きだよ、天音」
「うん……だいすき、とぉま」
いつか、ちゃんと話すから。
もう少し、待ってろな。
「早く俺たちの家に帰ろ」
「おれたちの、いえ……っ。……うん、かえるっ」
あー可愛い。
終
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