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マスターの彼氏 おまけSS
※リバ要素あり。苦手な方はご注意ください
冬磨編に行き詰まり、ちょっと息抜きに書いてしまいました。
完全に後付け設定ですが、素人創作だしね、と大目に見てくださると嬉しいです(*_ _))*゜
マスターに名前がꕤ︎︎ 今日はお祝いです笑ꕤ︎︎
マスター → 友樹(ゆうき)
マスターの彼氏 → 誠治(せいじ)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「誠治ー。いるかー?」
合鍵でいつものように勝手に上がり込む彼氏の家。
電気が付いてるからいるのは分かっているが、なぜかいつも同じ台詞を口にしてしまう。
「あれ? 友樹さん、今日は来ないはずでは?」
リビングから誠治が顔を出す。予想通りの誠治の表情に、俺は満足した。
俺に会えて嬉しいという満面の笑み。冷静そうな言葉遣いとは裏腹な、その素直な表情が俺は好きだ。
「んー。ちょっとな。なんか会いたくなって」
あの二人に触発されて、普段は言わないような甘えた言葉までスルスル出てくる。
そんな俺に、誠治が目をぱちくりさせた。
「なんだよ」
「いいえ? 素直な友樹さんが可愛いなと思っただけですよ?」
いつも素直なお前のほうが可愛いけどな。
俺よりも二歳年上なのに、常に敬語がデフォルトの誠治を俺はかなり気に入っている。
「そうだろ? 今日は可愛い路線でいこうかな」
天音のギャップが衝撃的すぎた。
俺もたまにはギャップで誠治をメロメロにさせたい。
「なるほど。今日はそっちなんですね?」
「そう。そっち。誠治は? なんなら両方でもいいぞ?」
「まさか。今日は久しぶりに、たっぷり友樹さんを可愛がりますよ」
「じゃあ今から可愛がれよ」
「もちろんです」
俺の手からタッパの入った紙袋を奪い取りテーブルに置くと、俺の頭を抱き込むようにキスをしてきた。
今日はタチ。そういうときにしか見せない男らしい誠治。
俺は誠治を可愛がるほうが好きだが、たまに無性に甘えたくなる。
こういうとき、お互いにタチネコができるのは得だなと思う。
そのまま二人でシャワーに流れて、風呂場で、ベッドで、たっぷり誠治に甘え甘やかされた。
「友樹さん、まだいけますか?」
「も……出ねぇよ……」
「出なくても気持ちいいでしょう?」
久しぶりのネコは頭がぶっ飛んでやばい。
三十路越えの身体がガクガクしてた。
「壊れる……っての」
「もう一回だけ。優しくしますから」
「……お前、やっぱタチのほうが燃えんの……?」
実はいつもそんな気がしてた。タチのときのしつこさが、いつも異様だから。
「どっちも燃えますよ? 可愛い友樹さんにも、カッコイイ友樹さんにも。それにタチの友樹さんも相当ですよ。いつも私、壊れてます」
「……そう……だっけ?」
「そうですよ。でも私は優しいので壊しませんよ。優しくしますね」
「……あっ、は……っ、せい……じ……っ」
それは俺が優しくねぇって嫌味だな。
くそ。次は絶対優しいって言わせてやるからな。
壊れる寸前のぐったりした身体で、俺はベッドに横たわった。
誠治が冷蔵庫から水のペットボトルを持って戻ってくる。
「友樹さん、身体起こせます?」
「……むり……」
「ですよね。すみません。友樹さんが可愛すぎてついつい。でも壊してはいませんよ?」
「壊したような……もんだろ……」
誠治が優しく俺を抱き起こし、キャップを外した水を手に持たせる。俺は一気に喉に流し込んだ。
「ところで、冬磨くんはどうでしたか?」
「んー。あいつはもう大丈夫だわ。天音がいれば大丈夫。あいつら、結婚指輪まで買ったんだと」
「それはよかった。もう安心ですね」
瞬時に医者の顔になって嬉しそうに答える誠治に、俺はあらためてお礼を伝えた。
「ありがとな。あんとき誠治がいなかったら、ほんとどうすればいいのか分かんなかった」
「私はなにも。彼とは数回一緒に飲んだだけですよ」
「治療の一貫でな? あんときはほんと助かった」
冬磨が死にたい殺してくれと騒いで手を焼いていた頃、たまたまバーに一見さんでやってきた誠治が精神科医だと知って、俺が無理を言った。
病院には絶対に行きたがらない冬磨を、なんとか診てやってほしいと。
医者とは名乗らずに、冬磨の状態を診てやってほしいと。
そのうち本当に死んじまうんじゃないかと、不安でどうにかなりそうだったから。
その条件として誠治が言い出したのが『マスターがほしい』だったことには面を食らったが、背に腹はかえられなくてそれを呑んだ。
薬の治療はできないから、状態を診てアドバイスをもらうだけ。それでも誠治と話しをするだけで冬磨は少しづつ落ち着きを取り戻していった。藁にもすがる思いだったあの頃、本当に誠治の存在は大きくてありがたかった。
俺は一目惚れってやつをしたことがないから誠治の気持ちは全く分からないが、誠治の一目惚れが俺でよかったと今では感謝すらしてる。
ついでに冬磨にも密かに感謝してる。一生伝えはしないが。
「それよりも……結婚指輪ですか」
「そうなんだよ。まだ付き合って一ヶ月でさ。パートナーシップと養子縁組とどっちがいい? とか言い出してさ」
冬磨だからできることだ。そんな思い切ったこと。
俺はきっと一生ないな。
まぁ誠治と一緒にいる限りは絶対ない。
「友樹さん。私たちも買いに行きましょうか」
思わず口に含んでいた水を吹き出しそうになって慌てて飲み込むと、今度は変なところに入って咳き込んだ。
なんだってっ?
たった今絶対にないと思ったばかりなのになんでっ。
「大丈夫ですか?」
背中を優しくトントンしてくる誠治に、俺は言葉を放った。
「お前、何言ってんだよ。そんなの無理だろ」
「無理……ですか。友樹さんは私では無理でしたか」
「はっ?! そうじゃなくてっ! お前が無理だろ?!」
「え? どういう意味でしょうか」
「だっ、だからっ」
家族全員が医者一家のボンボンで、カミングアウトだってできないだろうし、指輪なんて職場でどう言い訳するつもりだよっ。
「なんとなくわかりました。私の心配をしてくれたんですね」
「そ、そうだよっ。どう考えても無理だろ?」
「全然?」
「は?」
「私がゲイだということはみんなが知ってますよ? 家族も職場も」
「…………は?」
「話したことありませんでしたか?」
「ねぇよっ!」
そんな話は一言もっ!
頭の固い両親の話や堅物の兄弟の話しかっ!
そんな話聞いたら、カミングアウトもできない環境だと思うだろっ!
「じゃあ今言いましたからいいですよね? 買いに行きましょう。それから、友樹さんはすぐここに越して来てくださいね?」
「はっ? ちょっと待てよ、俺まだ結婚指輪に了承してねぇだろっ」
「だってさっき、友樹さんは無理でしたかと言ったら、そうじゃなくてお前が、と言いましたよね? それは友樹さんは無理じゃないという意味でしょう?」
「そっ……」
誠治となら結婚もいいなと、あの二人の話を聞いて確かに思った。
でも、絶対に無理だと思っていたし、そもそも俺のキャラじゃねぇんだよ、結婚なんてっ。
「友樹さん、可愛いですね。全部顔に出てますよ?」
「な、なに、出てるってなにがっ」
「嬉しいって、言ってます」
「いやいやいやっ、言ってねぇだろっ!」
「仕草と瞳でわかっちゃうんですよ。私に嘘は難しいですよ? そろそろ覚えてくださいね?」
「嘘なんて……ンぅっ、んっ」
俺の言い訳を、誠治は唇でふさいだ。
マジでか。今日さんざん二人に早すぎだとか言ってあきれた顔をしてきたばかりなのに。マジでかっ。
今日はもう脳内処理できないことばかり起こって思考がまわらない。
「友樹さん、愛してますよ」
「……俺も……愛してるよ」
「来週は指輪ですからね」
「…………ん」
「引越しはすぐです」
「…………ん」
もう脳が疲労でクタクタだ……。
でも、なんだかんだ俺は、誠治とはもう一生一緒でもいいと思ってたんだ。
……また冬磨に感謝しなきゃだな。
これ以上借りは作りたくなかったのにな。
「なぁ、誠治さ」
「なんですか?」
「俺のニコチンパッチになってくれよ」
「……ええと、もう少し分かりやすく説明してくれますか?」
真面目な顔で返されて、俺はたまらなく吹き出した。
終
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