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それは初めてです SS ※

「……んっ、ぁ……とぉま……っ……」 「天音、気持ちい? お前、ここ……好きだろ?」 「す……き、ン……っぁ、きも……ちぃ、……ぁっ……」 「愛してるよ、天音。愛してる」 「とぉ……ま、と……ま……っ、あ、あい……ンっ、あいしてっ……るっ」  冬磨の硬くて熱いもので優しく俺の中をなぞられ、愛をささやかれ、脳も身体も溶けていく。  冬磨が愛おしくて、幸せで、そして……気持ちいい。 「あぁ……っ、とぉま……っ!」    イク瞬間冬磨にしがみつくと、それに負けないくらいの力で抱きしめられた。 「天音」 「ン……、と……ま……」  優しい手が俺の頭を撫で、優しいキスが降ってくる。  俺の中の冬磨はまだ硬さを保ってる。まだ終わらない。嬉しい。ずっと冬磨と繋がっていたい……。  冬磨は繋がったまま俺の身体を起こし、愛おしそうにぎゅっと抱きしめるとそのまま後ろに倒れて横になった。俺が冬磨の上になる。 「と……とぉま?」 「天音、身体平気になったら動いて?」 「え……っ」  俺が上になって動くなんて、今まで一度もしたことがない。  まだセフレだった頃、抱いてくれない冬磨に不安で焦り、自分から上になってやろうとしたことはあるけれど、それは未遂に終わった。  俺が動くの……?  冬磨の……上で……?  あの時はやらなくちゃと必死だったから分からなかった。自分で動くなんて死ぬほど恥ずかしい。どうしよう……恥ずかしくて顔が上げられない。冬磨の顔が見られない。 「天音? どした?」  冬磨が耳にちゅっとキスをして、そのまま耳にささやき俺の脳をくすぐる。 「もしかして、恥ずかしい?」  ゾクゾクと身体が震え、羞恥で熱くなる。 「は……はず、か……しい……」 「ふはっ。可愛い」  正直に答えたら笑われた。 「恥ずかしがってる天音、見たい。見せて?」 「ン……」  耳に直接伝えられた『見せて』が、後ろにずくんと響く。 「……やべ……きもちい。なに天音、感じちゃった? お前言葉攻めも弱い?」 「や……っ、耳……だめ……っ……」  言葉攻めが弱いのか、耳が弱いのか、分かんないけどもう頭がおかしくなりそう。  冬磨はクスクス笑いながら耳孔に舌を入れて舐めだして、俺の身体はビクビクと震えた。 「なぁ、もう動ける? 繋がってるだけでやばい……俺」  冬磨が切なげに懇願する。俺の中の冬磨がビクビクしてる。  本当に俺が動くの……?  どうしよう……恥ずかしい……っ。  こんなことなら、ビッチ天音のときにやっておけばよかった。あの頃は色々必死だったから、今よりはもうちょっと平気だったはず。  でも、いつも冬磨にしてもらってばかりだから頑張りたい。  恥ずかしいけど頑張ろう。  俺がゆっくりと身体を起こすと、冬磨がふはっと笑った。 「すげぇ顔真っ赤。かわい」  俺を見て破顔する冬磨も可愛い。すごく可愛い。……かっこいい。  スルスルと足を撫でられ『動ける?』と目で問いかけられる。  俺は一度深く息をついてから、ゆっくりと腰を上げて静かに沈み込んだ。 「ん……っ、ぁ……」  あまりにも恥ずかしくて視線を合わせることができない。  抱いてもらうのでさえ未だに恥ずかしいのに、冬磨の上で自分が動く。羞恥で顔が上げられない。 「ぁ、ぁ……っ……」  動くたびにビリビリと快感が走る。いつもの与えられる快楽とは違い、自分の動きで得る快楽はやっぱり死ぬほど恥ずかしい。 「天音、こっち見て」 「……や、……ぁ……」 「すげぇ可愛いからちゃんと見たい。な、見せて?」  本当は俺だって冬磨の顔が見たい。でも……。 「あーまね?」  可愛く名前を呼ばれスルスルと足を撫でられる。 「や……だ、見な……ぃで……っ」 「やだ、見たい」 「だめ……ンッ、ぁ……っ」  俺がいつまでも顔を上げないでいると、冬磨が身体を起こして優しい手で俺の頬を包んだ。  少しずつ視線が合わさる。冬磨の瞳にふれると、心臓が早鐘のように鳴り響く。顔が熱い。もう湯気が出そう……。 「やっと見れた」 「やだ……って、言ったのに……」 「ほんと、なんでお前そんな可愛いんだよ」 「ん……っ、ふぁ……」  唇を優しくふさがれ「動いて」とささやかれる。  腕は冬磨の首に回された。  俺は冬磨にしがみつき、再びゆっくりと身体を上下する。冬磨の瞳に見つめられながら、舌を絡め合いながら。 「んン……っ、ぁ……っ」  恥ずかしい……。  恥ずかしくて……気持ちい。  すごく……気持ちい。  頭……溶けそう。  俺の動きに合わせて冬磨の表情がわずかにゆがみ、キスをしながら言葉をこぼす。 「はぁ……きもちい」  その言葉にゾクゾクと快感が走った。 「んん……っ」 「うぁ……っ、や……ば……」  腰を動かすたび、冬磨は切なげな吐息を漏らす。  もっと聞きたい。もっと見たい。気持ちよさそうな冬磨を……。 「ぁ……っ、ンっ、と……ま……」 「天音……」  ちゅっとリップ音で唇が離れていった。 「天音、もっと腰落として」 「も……っと?」 「ずっと浮いてるだろ。もっとちゃんと下まで落として」 「うん……」  言われた通りに下までぐっと沈み込んだ。 「あぁ……っ、ふか……ふかぃ……っ」 「どう? きもちい?」 「ぁ……む、むり……これ、むり……っ」 「大丈夫だよ。大丈夫。ここ、お前の好きなとこ」  冬磨がさらにぐっと中を突き上げる。 「あぁ……っ!」 「天音……すげぇ可愛い。はぁ……やばい」 「ぁ……っ、とぉま……」 「続けて、天音。ちゃんと下まで腰落としてな?」 「や……むり、も……むり……」 「できるできる。大丈夫」  ちゅっちゅっとキスをして「動いて」と優しく微笑むから、俺は泣きそうになりながらまた身体を上下した。 「あぁ……っ、あっ、ん……っ」  ぎゅっと冬磨に抱きついて、たぶんろくに腰は動いていない。  それでも優しく「可愛い」「気持ちいよ」と冬磨は何度も繰り返す。  本当に涙が出るくらい幸せ。 「と……ま……っ、あい……してる……」 「俺も愛してるよ、天音」 「ぁっ、あぁ……っ!」  温かい腕に包まれ耳元にささやかれる『愛してる』の言葉に、一気に快感がつらぬきビクビクと震え、俺は果てた。  でも、冬磨はまだ硬いまま、俺の中にいた。  耳に熱い吐息がかかり「可愛い」の言葉とキスが落ちる。 「ごめ……ん、……とぉま……」  「なに、どした?」 「う……うまくできなくて……ごめん……なさい」 「え?」 「……へたくそで……ごめんなさい」    もっと冬磨を気持ちよくさせてあげたかった。恥ずかしがってばかりで、怖がってばかりで、全然ちゃんとできなかった。  脱力した身体を冬磨に預け、顔を首元にうずめてぐすっと鼻を鳴らす。 「もー……ほんとかわい……」    はぁやばい、と力いっぱい抱きしめられる。   「へたくそでいいんだよ。だからいいんじゃん」 「……え?」    へたくそだからいいって……なんで?   「俺さ。今でも時々思い出すんだ。お前に、俺以外にもセフレがいるって思ってたときの、嫉妬で苦しかった気持ち」 「え……っ」 「だから、色々慣れてないお前にホッとしてんの。天音は本当に俺だけなんだって、幸せ噛みしめてんの」 「とぉ……ま……」  情けなくてあふれたはずの涙が、幸せの涙に変わる。  いつでも冬磨は俺を幸せにしてくれる。だめな俺も丸ごと優しく包んでくれる。  大好き、冬磨。  本当に本当に……愛してる……。 「ずっとそのままでいて、天音。あ、違うな。少しづつ慣れてく天音も楽しみ」    後半はわざと耳にささやくように伝えられた。  そんなこと言われたら、慣れるのも恥かしくなる……。  何も言えなくて、俺は顔を押し付けるように抱きついた。   「天音」 「う……ん?」 「ごめん、俺……ちょっと限界」 「あ……」    パッと顔を上げて瞳が合わさると、冬磨は眉を下げて、またごめんと言うから俺は首を横に振る。   「天音、前と後ろ、どっちがいい?」    そんなこと、久しぶりに聞かれて驚いた。  だってもうずっと後ろからはやってない。目を合わせながら、キスをしながら繋がりたいから、もうずっと前からしかやってない。  冬磨は久しぶりに後ろがいいのかな……。   「なぁ、どっちがいい?」    あ、違う。冬磨にいたずらっ子のような瞳を向けられて分かった。これはただ俺に言わせたいだけだ。『少しづつ慣れてく天音も楽しみ』なんて言ったから思いついたんだろう。  ……冬磨のいじわる。 「まえ……がいい」  俺の答えに冬磨が破顔した。  以前は答えられなかった。でも今はちゃんと言えるもん。  ……顔は熱いけど。  翌朝、俺は冬磨の顔をまともに見られなかった。  昨夜を思い出して恥ずかしくて死にそうで……。 「あーまね? なんでこっち見ねぇの?」 「……」 「おーい」 「……は、早く起きよ?」 「キスは?」 「……」 「おーい?」 「……」 「なぁ、もしかして、昨日のまだ恥ずかしいのか?」 「……っ」  冬磨から逃げるように起こした身体を、引き寄せられて抱き込まれる。 「え、まじで? ほんと可愛すぎるんだけど。……なぁ、今日休んじゃおっか」 「えっ? な、なんで?」 「可愛い天音、ずっと見てたい」 「……じ、冗談言ってないで起きなきゃ」 「まじで言ってんだけど」 「だっ、だめだよっ、そんなのっ」 「だって初めての騎乗位で恥ずかしがる天音は今日だけじゃん? な? 今日だけ休も?」 「そんな理由で会社休む人いないよっ」 「ここにいる」  あ、だめかも。冬磨本気で言ってるのかも。  どうしよう、このままじゃ本当に休まされるかも。  考えろ、考えろっ。どうしたらいい?  そこでふと思いつく。  ――――そうだ、ビッチ天音になればいい!  ……久しぶりで緊張する。  深呼吸をして目を閉じて、俺は自分に言い聞かせるように繰り返した。  俺はビッチ天音、ビッチ天音、ビッチ天音……。 「冬磨」 「うん?」 「キス、してやろうか?」 「………………えっ?」  たっぷりと間が空いてから冬磨が驚く声を上げ、俺を抱きしめていた腕の力がゆるむ。 「ちゃんと仕事行くっつーんなら、今キスしてやるよ」 「あ……天音?」 「行くのかよ、行かねぇのかよ」 「……い、行きます」  冬磨の返事に、欠勤回避できたっ、よかったっ! とホッと息をつく。  でも、キスしなきゃ……だ。冬磨に顔を見せなきゃ……だ。  俺は覚悟を決め、ゆっくりと振り返った。  目を見開き驚く顔の冬磨と瞳が合わさったその瞬間、目を瞬いて吹き出された。 「なんだよ、ビッチ天音なのに顔真っ赤じゃん」 「う、うっさいっ」 「ふはっ。もー……ほんと可愛い」  だって、もうあの頃の必死さなんてないから役になりきれない。なれるわけない。  いつまでも笑ってる冬磨のうなじを引き寄せて、俺はちゅっと合わせるだけのキスをする。 「え、終わり? そんなんじゃ仕事行けねぇな」 「……っ」  もう一度、今度はもう少し長いキスをする。  離れようと思ったら「舌も」と言われ、ドキドキしながら舌を入れて絡めた。 「ん……、ぁ……」  俺からしたキスなのに、最後はすっかり主導権を奪われて息が上がる。  これじゃあいつまでも終わらない。グッと冬磨の胸を押して「お、終わりっ」と言うと「えー」と不満そうに口をとがらす。  冬磨は時々、本当に子供みたいに甘えてくる。  ……可愛い。 「はい、約束だから起きるよっ」  冬磨の手を引っ張ってベッドから降り、洗面所に向かって歩いた。 「なぁ、あれたまにやって? ビッチ天音。すげぇ可愛いまじで」  ビッチ天音を封印した本人がやってと言う。  怒られると思ったら喜ばれた。  冬磨、封印したこと忘れてそうだな。  ……たしかに俺も、ちょっと楽しかった。 「もうしない」 「えーやってよ、な?」 「やだ」 「えー……」  そう言っといて、またどっかでやろうかな。  冬磨を驚かすの、ちょっと楽しいかも。  なんて思って口元がゆるんだ。  終  

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