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答え合わせをしました 前編

 今日は後ろを使わずイチャイチャして、でもしっかりイかされた後のまどろみの時間。  腕枕をされながら、冬磨の左手の指輪を幸せな気持ちで撫でていると、冬磨がその手で俺の左手を取り、手の甲から恋人繋ぎをしてくれた。まるでお互いの指輪を重ね合わせるように。  本当に幸せ。怖いくらい幸せ。もうずっと一緒って証の指輪が何よりも嬉しい。  顔を上げて微笑むと、冬磨は俺の手をにぎにぎしながら静かに口にした。 「なぁ天音。答え合わせしよっか」 「……? 答え合わせ?」  答え合わせってなんのこと? 「セフレだった時のさ、疑問とか知りたかったこととか、なんかねぇ?」 「え……と?」  セフレだった時の疑問……?  まだ頭も身体もふわふわしていて思考が働かない。なんかあるかな、疑問……。 「じゃあ俺からな?」 「あ、うん」  冬磨の疑問って、知りたいことってなんだろう。 「実はずっとモヤモヤしてんだけどさ」 「え……モヤモヤ……?」  何を聞かれるのか怖くなってきた。  俺の何にモヤモヤしてるんだろう。 「本屋の前で、お前と敦司を見た日さ」  まだセフレだった時、冬磨への気持ちがどんどんあふれて今にもバレそうで、他にもセフレがいるように見せるために敦司の家に通ってた時だ。  あの時、目が合ったのに冬磨が何も言わずに去ってしまって、話を聞かれたかもと怖くなった。 「あん時さ……」 「う、ん?」 「お前……顔真っ赤だったよな……」 「……っ」 「あれ、なんでなんだ? あれで俺、お前が敦司を好きなんだって勘違いしたんだよ」  敦司が本命だと勘違いされて、たぶんあの時だろうなとは思ってた。  もっと早くこの話をするべきだったのに、冬磨と恋人になれて結婚指輪も買って、幸せいっぱいでそんなことも忘れてた。 「……あ、あのね」 「うん」 「あのとき……冬磨の話をしてたんだ……」 「え、俺の話?」 「うん。ケーキ屋さんの前を通ったとき、久しぶりにプリンが食べたいなぁって思って、明日冬磨の家に行くとき買っていこうかなって話してたの。そしたら、敦司に顔が赤いって指摘されて……」  全然赤くなってる自覚がなかったからすごく驚いてね、と説明していると、冬磨の頬がわずかに染まる。 「……お前、ほんと不意打ちばっかだな……」 「え、今のは不意打ちじゃないよね?」 「不意打ちだろ。だってまさか俺の話をしてたなんて思わなかった」 「えっと……あのね、冬磨。俺の顔が赤くなる理由なんて、冬磨以外にないからね? 顔が赤い時は、冬磨のこと考えてる時だけだからね?」  俺が必死で話をすると、ふはっと笑って「あーかわい……」とつぶやく。 「モヤモヤしてた俺、バカみたいだな」  そう言ってはにかむ冬磨が、ピンクの頬で目尻を下げて俺を見つめる。  え……冬磨、可愛い。どうしよう、可愛いっ。写真撮りたいっ。  俺は慌てて身体を起こしてサイドテーブルにあるスマホを手に取り、急いで冬磨の可愛い顔をカシャッと写真におさめた。  すると冬磨が目を瞬いて吹き出す。 「なにやってんだよ天音」 「やったっ。可愛い冬磨撮れたっ」 「……あーもう、ほんとかわい……」  手からサっとスマホが奪われ、冬磨が俺に向けてカシャッとシャッターを切る。 「お、俺のは……いいよ……っ」 「なんでだよ。俺だって可愛い天音の写真ほしいもん。それ、あとで俺に送っといて」 「う……うん」 「でもそれ、完全に事後の写真だけどな」 「……!」  ほんとだ!  裸だってバレバレの写真になっちゃってる!  イチャイチャだけの日も、冬磨が俺を脱がせるから俺も冬磨を脱がせて、結局いつも裸になっちゃうんだ。 「だ、大丈夫。あとで編集して顔だけにするから」  スマホをサイドテーブルに戻すと、冬磨の手が優しく俺を抱き寄せた。 「お前もさ。なんかないか? 聞きたいこと。なんでも聞けよ」 「……う、ん」  頭のふわふわがおさまってくると、聞きたいことがいっぱい出てくる。でもまずはあれが聞きたい。ずっと気になっていたこと。 「冬磨は……いつから、俺だけだったの?」  もうずっと天音だけだった、そう言っていたけど、ずっとっていつからなんだろう。いつまで他のセフレを抱いていたのかな……。  自分から聞いておいて怖くなって、冬磨の胸に顔を押し付けてぎゅっと目をつぶると、冬磨のあたたかい手が俺の頭を撫でた。 「本当に、ずっとだよ。天音を抱いてからは、もうずっと天音だけだった。他のセフレは抱いてないよ」  信じられない言葉に思わず固まる。  セフレが何人いるかも分からなかった冬磨が……?  俺を抱いてからはずっと……俺だけ? 「……うそ……」  そんなことありえない……という気持ちで声が漏れた。  冬磨を信じてないわけじゃない。でも、そんな夢みたいな話あるわけない……と思ってしまった。  ゆっくりと冬磨を見上げると、眉を下げて寂しそうな表情で俺を見つめる。 「まぁ、信じてもらえないのは自業自得だよな」 「……あ、ちがっ……」  冬磨を信じてないというよりも、どうして俺なんかが……という気持ちが大きくて、にわかには信じることができない……。 「ご……ごめん、冬磨。でも……だって……なんで? 理由がわかんない……」 「理由かぁ。んー……俺さ、特定の一人とは頻繁に会わないってマイルールがあったんだ」 「え……」  頻繁に会わないって……どれくらい……?  だって俺は毎週会ってた……。  俺の疑問がまるでお見通しというように冬磨が続ける。 「だいたいみんな、忘れた頃に会うくらい」 「忘れた頃……」 「でも、天音にはすぐに会いたくてさ。ルール破ってでも毎週会いたくて。週二は引かれるかなって怖気付いて、我慢して週一にしてたくらい」  他のセフレは忘れた頃なのに、俺だけすぐに会いたかった……? 「ほんとに、最初から天音だけが特別だったんだ。お前の前でだけ自然に笑えて、お前だけが明るく色付いて見えて、一緒にいるだけで癒された」 「と……ま……」 「それでも、大事な存在はいらないし作るつもりはなかったから、俺は天音に本気じゃないってずっと思ってた。……いや、たぶん自分にそう言い聞かせてた」  そうゆっくりと話していた冬磨が「でも、ごめん……」と謝る。 「な……に……?」 「他のセフレを抱くつもりでホテルまでは行ったんだ。だから、ごめん……。でも行っただけで、抱いてないよ。ほんとに、天音と出会ってからはお前だけだったから」 「……ホテルに行ったのに……どうして抱かなかったの?」 「抱けなかったんだ」 「なん……で?」 「……頭ん中、天音のことばっかりでさ。他のセフレを抱く気になれなかった。あの日に、俺はもう天音だけでいいって思ったんだ」 「……と……とぉま」  本当にずっと俺だけだったの……?  冬磨に抱かれながら、他のセフレにずっとずっと嫉妬してたのに……本当に俺だけだったの?  そんな嘘みたいな話が……本当にあるんだ。 「とぉ……ま……っ」  ぎゅっと抱きついて涙がこぼれる。  冬磨の気持ちが俺に向いてくれたのは、少しづつだと思ってた。まさか最初から特別だったなんて。最初から俺だけだったなんて。  こんなの……幸せすぎておかしくなりそう……。 「んで、とどめはキスマークな。あれのおかげで、もうとっくに本気だったんだって気付かされたんだ」 「……ぅ゙……とぉま……」  キスマーク……頑張って付けてよかった……っ。     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇   スピンオフ『マスターの日常 短編集』を単独でupしました。 友樹×誠治のリバカップルのお話です。 もしよろしければそちらも読んでいただけたら嬉しいですꕤ︎︎  

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