95 / 95
クリスマス 終 ✦side冬磨✦
「メリークリスマス、冬磨」
泣いた直後の真っ赤な目で、天音が大きなプレゼントを胸に抱えて差し出した。
少しだけ緊張した顔が見え隠れしたが、すぐにいつもの笑顔を見せる。
ずっしりと重いプレゼントは、ゴールドの包装紙に包まれ、赤いリボンが巻かれている。
「ありがとう、天音。開けるぞ?」
「うん!」
天音はにっこりと笑いながら、目を輝かせて俺を見つめる。
「早く開けて!」と、くりくりした目で見つめる天音。可愛すぎか……!
破らないよう慎重に包装紙をはがし、中から出てきたものは……。
「アルバム……か?」
「うん。まだ半年分しかないけど、写真が結構たまったからアルバムにしてみた。えっと、結婚……したから、家族になって一冊目のアルバムを、冬磨にプレゼントしたかったんだ」
家族になって一冊目の……アルバム。
俺は、ゆっくりと表紙をめくった。
最初のページで、もう胸が熱くなり、涙腺が緩んで喉が小さく鳴った。
大きく印刷された一枚目の写真。俺と天音が、養子縁組の書類を手に最高の笑顔を浮かべ、これ以上ないほど幸せそうに写っている。
その下には『今から夫夫になってきます!』というメッセージが添えられていた。
天音が俺のために、このプレゼントを用意してくれた意味が痛いほど伝わってくる。俺にとっての家族という重みを、天音はちゃんと理解してくれている。
涙が堪えきれず、頬を伝った。
本当に……天音という奇跡の存在に出会えたことが、俺の人生の全てを変えた。
孤独を埋めてくれるのは時間でも他人でもなく、天音というたった一つの光だった。
感謝してもしきれないその存在が、今ここで俺の隣にいる。
それが何よりの奇跡だ。
「天音……ありがと……」
手で目元を覆い、熱い喉から声を発した。
天音がそっと俺に寄り添い、その優しい腕に包まれる。そして、天音は静かに話し始めた。
「あのね。一枚目の写真はね、キャンプのと悩んだんだ。でも、家族になって一冊目のアルバムだから、やっぱりこれかなって」
「……ああ、そうだな」
「ね、次もめくって?」
俺の涙に気づいているはずなのに、天音はあえて指摘しない。どんな俺でも丸ごと受け止めてくれる。
天音の前では肩の力を抜いて、いつでもそのままの俺でいられる。
涙を拭って、俺はアルバムのページをめくった。
家の中で撮った何気ない写真に、初めてのデートで行ったキャンプの写真。その一枚一枚に思い出が詰まり、胸の中で温かさが広がる。
初めてのデートでソフトクリームを食べる天音の写真に、キラキラ光った音符が飾られていて、思わず笑ってしまった。俺が『音符が見える』と言ったからか。
羊を見ている俺の写真の横に吹き出しが付けられ、『この羊が夜の肉になるんだな』と書かれている。
俺、そんなこと言ったか? と首をかしげるが、ああ、言ったな、と思い出して、照れくさくて苦笑いがこぼれる。
スマホのナイトモードで撮った星空の写真には、『満天の星空、一生の思い出!』というメッセージが添えられ、その周りには星型に切り抜かれたカラフルな色紙が、まるで星屑のように散りばめられていた。
このアルバムを作りながら、俺の大好きな日だまりの笑顔で、色紙を切り抜き、メッセージを考えて書き込む天音が目に浮かぶ。
所々に添えられたメッセージが温かくて、俺は何度も目頭が熱くなった。
アルバムをめくる俺の顔を天音が見つめる。その瞳があまりにも優しくて、愛おしさに胸がいっぱいになった。
アルバムのページも残り数枚。
次をめくると『思い出の場所ランキング』という大きなタイトルが出てきた。
「俺の独断でごめんね」
天音が申し訳なさそうに笑う。
「いや。天音のランキングでいいよ。てか、これいいな。二冊目以降もやろうぜ」
ぱぁっと天音が笑顔になった。
「うん!」
この日だまりの笑顔に毎日包まれる俺は、本当に幸せだ。
「じゃあ、まず第三位!」
俺のページめくりに合わせ「じゃん!」と効果音を出す天音が可愛すぎた。
第三位は、この家で撮った写真が並んでいた。
「三位は家?」
「うん、ここには思い出がいっぱい。切ない思い出も、幸せな思い出も、楽しい思い出も、全部詰まってる」
「ああ、そうだな」
セフレの頃の切ない思い出は、もう忘れてほしいけどな。そう思いながら、天音が選んだ写真を眺める。
二人で撮った自撮り写真や、ご飯を食べてる俺。それから、撮られた記憶のない俺の写真。
「俺の写真ばっかじゃん」
「えへへ。どれも、俺の宝物なんだ。今回は特別に印刷しました」
「よし。あとで俺の宝物も入れるか」
「え……どんな写真?」
「楽しみに待っとけ」
「えー……いいよこれだけで」
「だめだ」
「えー……」
いったい、どんな写真を想像してるんだよ。
不安げな顔で眉を下げる天音に、俺は笑った。
「じゃあ、次は第二位!」
気を取り直して仕切り直す天音の言葉にページをめくる。
「じゃん!」
第二位は、キャンプの写真だ。
「あれ? キャンプが一位じゃねぇんだな」
「うん。冬磨のプロポーズは一生の思い出だから悩んだけど、キャンプは二位にしたんだ」
「じゃあ、一位はどこだ?」
「さあ、どこでしょう〜」
天音がドラムロールの音を口真似する。
天音の家で昔のアルバムを見た時のお義父さんと同じ事をするから、思わず吹き出した。
ページをめくると……。
「じゃじゃん!」
そのページは、第一位の文字だけで写真がない。
「天音、写真は?」
「実はね、一位は決まってるんだけど、写真が一枚もなかったの。だから、今度一緒に撮りに行こう?」
「いいけど、どこの写真?」
「えっとね。一位はバーです!」
「は……」
バー……?
一位がバーって……。
「いや……あんま、いい思い出じゃねぇだろ……」
あそこはセフレの思い出ばっかだろ……。マスターには悪いけどさ……。
「ううん。やっぱり一位はバーだよ。だって、バーがなかったら冬磨に出会えなかったもん」
「でも、さ……」
「俺ね。初めて冬磨を見たとき、息をするのも忘れちゃうくらい見惚れちゃったんだ。『目を見ればわかる』って言葉に慌てて目を逸らして、『本気のヤツは相手にしない』って言葉に切なくなって。でも、そのあと冬磨に選んでもらえた……。俺の平凡な世界に冬磨が奇跡のように現れた、一生忘れられない大切な思い出の場所なんだ」
「天音……」
セフレだった頃の思い出なんていい思い出とは言えないだろうに、天音はこうして、それをいい思い出に塗り替えようとしてくれる。
本当に、何度天音に救われたかわからない。
最低な始まりだった俺たちのセフレの記憶まで、天音にかかると丸ごと綺麗な思い出となってしまう。
ほんと……天音には適わない。たぶん天音は最強だ。
「マスターに連絡入れとくよ」
「ほんと? いいの?」
「また日曜に三人で飲もう。んで、写真いっぱい撮ってこよう」
「うんっ。やったっ。ありがとう、冬磨!」
ぎゅっと抱きつく天音を抱きしめて「ありがとな」と伝えた。
もう言い尽くせないほどの感謝でいっぱいだ。
天音の全てに、ありがとう。
「ごめんね、冬磨」
「なにが?」
「アルバム……冬磨へのプレゼントにしちゃったけど、なんか……二人のものになっちゃうよね。でも、どうしてもアルバムをあげたくて……」
「なに言ってんだよ。こんな最高のプレゼント、他にはねぇよ。まじで感動した。どんなプレゼントよりも嬉しいよ。本当にありがとな」
「……ううん。喜んでもらえてよかった」
安堵した顔で天音が柔らかく微笑んだ。
「天音」
「うん?」
もらったアルバムをテーブルに置いて、改めて天音を抱きしめた。
あふれるほどの感謝が胸いっぱいに広がり、言葉が出ない。代わりに天音を強く抱きしめると、気持ちがそのまま伝わった気がした。
「冬磨……」
ゆっくりと見つめ合い、唇を重ねた。感謝と愛情があふれ、言葉では表せない思いが込められた。
天音も優しく応え、その唇から俺への深い愛が伝わってきた。
「と……ま……」
「ん?」
「……お風呂……入ろ?」
最近、たまに天音から誘われる「……しよ?」に毎度やられるが、間接的に誘うこれもクるものがあるな。
返事の代わりに、耳と首にキスをした。
「……ん……っ、……ぁ……っ……」
震える身体に、高くかすれた小さな声。何度聴いても可愛すぎる。
天音の身体を抱き上げて風呂に向かった。
「今日は覚悟しとけよ?」
「……もう、覚悟できてる」
天音は赤くなった顔を隠すように首元に顔をうずめ、俺の鎖骨上あたりにチリッと小さな痛みを走らせる。久しぶりの天音のキスマに、気分が一気に高まった。
だから可愛すぎだっつーの。
「今日は寝かせねぇからな?」
「……ん……嬉しい……」
その返答に、俺はぐっと息を呑む。
やっぱり天音はスナイパーだ……。
終
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
皆さま、どうぞ良いお年をお迎えくださいませꕤ*.゜
ともだちにシェアしよう!

