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クリスマス 4

 お母さんのレシピで作ったというローストチキンは、ほっぺたが落ちるくらい美味しかった。一緒に焼いたじゃがいもや人参、玉ねぎにも味が染み込んで最高だった。  クラムチャウダーも、初めて作ったとは思えないほどクリーミーで、今日のご馳走は、まるでレストランの料理みたいだった。  俺が作ったケーキを切るのを嫌がる冬磨をなだめるのは大変だったけれど、その姿がまるで子供みたいで、本当に可愛かった。   「ふぅ……お腹いっぱい」  大きなツリーの横で、美味しい料理とケーキ、そしてシャンパンで心もお腹も満たされた。  二人でソファに身体を預けてお腹をさすって笑う。  最高のクリスマスイブが終わっていく。 「食ったなぁ。ケーキまじ美味かった!」 「冬磨が喜んでくれてよかった」 「天音、ありがとな」 「冬磨も、ありがとう。いつも美味しい料理、ありがとね。俺も、もっと色々作れるように頑張るね」  冬磨の頬にちゅっとキスをすると、冬磨がふわっと微笑んで唇にキスを返してくれた。ゆっくりと唇が離れて、俺を優しく腕の中に閉じ込める。 「ほんと、こんな幸せでいいのかな」 「俺も……幸せすぎて時々怖くなる」  お互いの指輪を確認するようにそっと撫でる。いつもの癖。冬磨と目を合わせて二人ではにかんだ。 「天音、ちょっと待ってろよ」  そう言って立ち上がった冬磨が寝室へと消えていく。  よし、この隙に……!  俺は用意したプレゼントをソファの下から取り出し、クッションで隠した。  手提げの紙袋を持って戻ってきた冬磨は、俺の方を向いて横向きにソファに座る。 「あー……のさ」 「うん?」 「えーっと……」 「冬磨……?」 「あー……俺さ。よく考えたら、親以外にプレゼントなんて渡したことねぇんだよ。なんか……恥ずいな、これ」  耳まで真っ赤にして、冬磨が指で頬をかく。  あれ? でも、冬磨にもらったもの、色々あるよ?  パジャマも、マグカップも、服も買ってもらったし、この間も一緒に靴を見に行って買ってもらった。  そっか……俺はプレゼントだと思ってお礼を言ったけど、あれは冬磨にとってはプレゼントじゃないんだな。  冬磨はプレゼントもスマートにカッコ良く渡すんだな、と思ってた。まさかプレゼントだと思ってなかったなんて。  冬磨からのプレゼント。それだけでも特別なのに、冬磨にとって初めてのプレゼントだと知って、もう胸がいっぱいになる。  冬磨が紙袋の中から、クリスマスカラーの赤と緑でラッピングされたプレゼントを取り出した。 「メリークリスマス、天音」  照れくさそうにはにかんで手渡されたプレゼント。受け取るだけで感動で胸が熱くなった。 「ありがとう、冬磨」 「ん」  赤い顔で、また指で頬をかく。  冬磨、可愛い……!  カッコイイ冬磨も大好きだけど、可愛い冬磨は俺にしか見せない、俺だけのもの。  俺だけの、宝物。 「開けてもいい?」 「もちろん」  冬磨がドキドキしているのが伝わってきて、俺もドキドキしてくる。  リボンを解いて袋からそっと取り出した。その瞬間、心臓がぎゅっと締めつけられた。  冬磨のプレゼントは、まるで星空を閉じ込めたようなスマホケースだった。  深い夜空を思わせる漆黒の背景に散りばめられた無数の星々、小さなラメが光を受けて柔らかく輝いている。夏のキャンプで見た、あの天の川を思い起こさせた。   「すごい……すごいねこれ……! 思い出の天の川だ……!」 「だろ? あの日見た天の川を再現したくてさ。でもなかなか上手くいかなくて、すげぇ時間かかってさ……」 「……え?」  いま、再現したくて、上手くいかなくて……って言った?  まさか今の言い方って……。 「も……もしかしてこれ、冬磨が作ったの……?」 「うん、まぁ、俺が作った」  冬磨は赤くなった顔を逸らしながら、少し照れくさそうにそう言った。  その言葉が信じられなくて、思わずケースを見つめ直す。  細かく散りばめられた星々、流れるような天の川。それが、冬磨の手で作られたものだと理解したとき、胸が一気に熱くなった。言葉では言い表せられないほど、感動で胸が張り裂けそうになった。 「もぶえに教えてもらって作ったんだよ。本当はもっと早くできるはずだったんだけどな? どうしても、あの天の川を再現したくてさ。何度も作り直してたらギリギリになっちまった。まじで間に合わないかと思ったよ」  もしかして……ずっと残業で遅かったのは、これを作るためだったの……? 「あ……その、残業ってのは嘘だったんだよ。お前、毎日心配してくれてたのに……ずっと嘘ついてて、ごめんな?」  もう胸がいっぱいで言葉が出なくて、俺は何度も首を横に振る。  胸に込み上げる感動を抑えきれず、あふれた涙で視界がどんどんぼやけて、ぽろっと涙がこぼれ落ちた。 「え、天音っ? わ、悪かったよ! 嘘ついてごめんって。そんなに心配させるつもりじゃなかったんだ。俺こういうのまじで不器用でさ……! 泣かないでくれよ、天音……ほんと、ごめんな?」  冬磨が勘違いをして必死で謝るから、俺は何度も首を横に振り続けた。 「……がう……」  喉が熱くて声が出ない。でも頑張って言葉にしなきゃ……。 「ん? なに?」 「ちが……う……」 「違う?」 「……う、嬉しくて……っ。冬磨のプレゼント……すごい、すごい……嬉しい……っ」 「あ、天音……」  震える声で必死に伝えて、ケースを胸にぎゅっと抱きしめた。  世界に一つだけの天の川。  俺のために冬磨が作ってくれた、俺だけの天の川。 「ありがとう、冬磨……っ。こんな素敵なプレゼント、初めてもらった……! 本当にありがとう……冬磨……っ」  涙の止まらない俺を、冬磨は優しく引き寄せて抱きしめた。 「なんだよ……俺まで泣いちゃうだろ……。お前が喜んでくれて、ほんとよかった。ありがとな?」 「と……ま……ありがとう……っ」 「も……ほんと、可愛すぎるよ、お前」  冬磨に苦しいくらいにぎゅうぎゅう抱きしめられた。    なんとか泣き止んだ俺に、冬磨が渡してくれた紙袋。  中にはたくさんの星空のスマホケースが入っていた。   「え……こんなに……?!」 「いや、失敗作なんだけどさ。捨てんのももったいなくてな?」 「全然失敗作じゃないよ! どれもすごい綺麗! これ全部もらっていいの?!」 「もちろん。全部天音のものだよ」 「……これ、冬磨のスマホにも使えればよかったね……」 「あ、俺のも作ったぞ? まぁ、練習用にな?」  紙袋の中を漁って取り出した俺のケースよりも一回り大きいケース。  冬磨は自分のスマホにその星空のケースをはめた。 「ほらな?」 「わ、おそろいだっ、嬉しい……!」  冬磨とおそろいの、天の川のスマホケース。  俺のは、日替わりで付け替えられるくらいありそう。  でも、同じ星空は一個もない。  どれも全部、俺だけの天の川。  冬磨がくれたこの星空は、俺の心の中でずっとずっと輝き続ける――……    

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