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第1話

 初恋は実らない。っていうジンクスは、本当だと思う。  そう思っている自分をより納得させようとその理由を幾つも探してみたが、結局は恋愛経験が浅くて相手との距離の詰め方が解らなかったり、逆に詰め過ぎたり……。ネットではそんな答えが多かった。 「……そういう事じゃねぇ~んだよなぁ……」  ボソリと呟いた俺、安藤奏汰は溜め息を吐き出しながらスマホの画面を暗くする。  俺とアイツの理由はもっと単純なようで複雑だ。  それはアイツ、宮本冬悟がαで俺がβだから。 「その理由で……って答えは、どこにも無い……か」  いくらネットで調べてみても、バース性でのそういう恋愛事に関して出てくるのは、αとΩに対してのみ。やれ、運命の番がどうのこうのとか、魂の番がどうのとか……。都市伝説的なαとΩのそれらをロマンティックに煽る文言だけがピックアップされていて、所詮βはいつも弾き出されてしまう。  この世界には男女性の他にバース性と言われる特殊な性が存在する。それはα、β、Ωと言われる性で、その中で一番数が多くノーマルなβに俺は属している。  αとΩにはそれぞれ特徴があり、お互いに体内からフェロモンが放出され番相手を探す事だ。番とはαとΩにしか無い特別な事柄。お互いから出るフェロモンに反応してαがΩの項を噛むと、その二人は番関係になる。それはノーマルのβに置き換えれば婚姻関係によく似た行為だが、一度でも番関係になったαとΩは離婚みたいな事が出来なくなり一生を添い遂げる。  まぁ、詳しく言ってしまえば一生を添い遂げ無い事もあるが……。中には犯罪行為で誤って番ってしまった場合や、αからの申し出で番関係を解消してしまうって事も少なからずあるからだ。けれどそうなってしまった場合、負担が大きいのはΩ。  一度番ってしまったΩは相手にしか発情しない特性を持つ。Ωには三ヶ月に一度一週間程度の発情期と呼ばれる期間があり、番関係が解消されたとしても一度番ったαに対してのみ発情する。なので他のαとは一生番え無いってワケ。解消されたαを想って、もて余す熱を自分で処理するしか無くなる。他のαが体に触れても嫌悪感から嘔吐したり、精神的に衰弱してしまうとか……。αは番を解消しても他のΩとまた新たに番関係を築けてしまうのに……。  けれど俺はそれでも凄く羨ましいって思ってしまう。犯罪行為で無ければ、βの婚姻関係よりも強固に好きな人とずっと一緒にいれると保証されてるみたいなものだ。 「……俺がΩだったら……」  なんにも気にせず冬悟と番えたかもしれない。 「まぁ……無理なんだけどさ……」  重く長い溜め息を吐き出しながらボソリと呟く。 「何お前、溜め息なんか吐いて」  突然ガバリと肩に腕を回され、俺は飛び上がらんばかりにビクリと体を揺らす。声のした方へと顔を向ければ山内洋介がニヤついた表情で俺を見ている。 「なんだ、洋介か……」 「なんだってなんだよ、失礼な奴だな。宮本じゃ無くて残念だったか?」 「ちょっ、と黙れよッ」  今は昼休み。ボーっと一人大学のテラスでスマホをいじっていた俺に声をかけてきたのは、見た目αなΩの洋介だ。  洋介との関係は俺が大学に入学してしばらく経った頃、誰彼構わず遊びまくっているΩがいるという噂を耳にして、俺から洋介に声をかけた事で始まる。それは冬悟に対して長年積もっていたクソデカな感情と欲を誰でも良いから解消して欲しかったという気持ちからだ。好都合な事に洋介はΩだがタチで、昔から抱かれたいと思っていた俺には好都合な相手だった。  ………ケドまぁ、結局のところ洋介とはそんな関係にはなっていない。  俺から声をかけて、ホテルには行った。それは本当だ。交代でシャワーを浴びて準備も万端だった俺だが、いざしようとする体になって、俺が怖くて出来なくて……泣いてしまったのだ。  洋介も泣きじゃくる相手に手を出そうとは思えなかったのか、それから友達として付き合いが始まった。 「昴君は?」 「もう少しで来るけど」 「そか」  この見た目αな洋介には、運命の番がいる。それは本郷昴君。二人はこの大学で出会い、最近付き合う事を決めたらしい。詳しい事は知らないが、ここ最近洋介の奴がパタリと遊ぶ事を止めてから取り巻きだった連中がブーブー文句を言っていたのは知っている。そして昴君も突然、今まで野暮ったい感じだったのをイメチェンして、α然としているところを見ると、二人の間で色々とあったんだなと……。それにいつの間にか洋介の取り巻き連中があんなに文句を言っていたのに、一切洋介に絡まなくなったから……。  どういう理由でそうなったのか知りたい反面、怖くて聞けない。  俺は周りから洋介と体の関係があるのに今でも仲良くしている唯一のβだと思われているみたいだけど、本当の事を知っているのは俺と洋介位だし、当人同士が余りその噂に興味が無いから気にせずに、今まで通りの付き合いを継続中だ。 「いい加減お前、宮本に告ったら?」  呆れた溜め息を吐き出しながら、俺の目の前に座った洋介が呟く。  洋介には俺の想い人が誰なのかは知られている。それは、最初のラブホで泣いて出来なかった時に俺の心の内を洋介に吐露したからだ。流石に冬悟だとその時名前までは言った事は無かったが、洋介が昴君とまとまってから数日後洋介に俺の想い人が冬悟だと告白した。  なんでそのタイミングだったかと言えば、昴君と冬悟が仲が良かったから。  お互いにα同士でそのバース性にしか解らない事もあるだろうし、同じ講義を取ってる事も多かった。昴君が洋介とまとまるまでは、もしかしたら冬悟と昴君がくっ付く可能性だって無きにしもあらずなワケで……。  そりゃぁ、昴君は洋介の運命の番なんだから、冬悟とどうこうなるって確率は限り無く低いって解ってはいたケド……、何がどう転ぶかなんて誰にも解らないだろ?  洋介は俺の想い人を知って、何故か凄く嬉しそうに毎回「早く告白してくっつけよ」なんて軽く言うようになっていて……。  それが出来たら俺だってこんなに悩んでね~よッ!!  俺は正面に座った洋介の台詞にジロリと奴を睨み付け 「そんなに簡単なモンじゃね~から」  唇を突き出して文句を言うみたいに呟いた俺は、洋介のはるか後ろから昴君と冬悟が一緒に近付いて来ているのを目視するとガタッと席を立って 「俺、もぅ行くわ。昴君に宜しく言っといてな!」  と、洋介に片手を上げる。俺の行動に洋介は一度俺の視線を追って後ろを振り返り 「別に行かなくても良いだろ? 一緒に昼飯食おうぜ?」  俺の顔を見ながらニヤニヤと口元が歪んでいる奴に、俺は小声で「うるせー」と呟いてその場から離れた。  スタスタと歩いている自分の後ろからタッタッタッと小走りに近付いてくる足音に、俺の口は微かにニンマリと持ち上がる。と 「奏汰、一緒に昼飯食べよう」  ポンと肩を叩かれ俺の歩調に合わせるように並んだ体躯が、顔を覗き込むように少し屈み俺と視線を合わせてくるので、俺もそちらに視線を泳がせ 「冬悟……、洋介達と約束してたんじゃないのか?」  幼馴染みの顔を見詰めながら答えた俺に、冬悟はハニカミながら 「あの二人の邪魔をするのは野暮だろ?」  と、答えが返ってくる。  まぁ、最近上手くまとまった奴等と一緒に飯を食うのもアレか……。と納得して 「学食行こうぜ」  そう答えた俺に冬悟はニコリと笑って、一緒の歩調で歩き出す。  大学には学食とカフェがあるのだが、カフェは女子の比率が多く、またΩも多くいる。出来る限り、Ωと冬悟が接触しないようにってワケでも無いが……、冬悟と一緒にいる時は極力学食の方へと足が向いてしまう。  学食に着いて食券を購入してから配膳の列に並ぶ。と、途端に視線とコソコソと囁く声が聞こえてきて……。 『ヤバ~……宮本君なんだけど……』 『学食来ててラッキー』 『格好良い~……』  折角カフェを回避してもこの始末だ。  冬悟はモテる。αとか幼馴染みとしての欲目を差し引いても目立つ部類に入る奴だ。身長は外国人かと思うほど高く俺よりも十五センチも高い百八十五あるし、顔も切れ長の奥二重にシュッとした鼻梁でバランス良く整った唇。デカい体躯から伸びた手足はモデルか? って位に長いし、昔から護身の為にやっているキックボクシングで無駄の無い筋肉が綺麗にのっている。好きなブランドは無いらしいケド、自分の兄から定期的に貰っていると言っていた服はセンスの良い物ばかりで、冬悟に良く似合っているし、髪型も美容師の兄に強引にやられると言っていても、毎回冬悟の魅力を引き出すのに申し分無い仕上がりで……。それにプラスアルファ、αという数少ないバース性が加わってみろ、Ωじゃ無くても誰だって冬悟に惹かれるだろ?  で、その隣にいるのが、何の変哲も無い普通のβの俺。  身長は百七十で平均位だが、顔面はモロ平凡。二重の目は小さ過ぎないが大きいワケじゃ無し、鼻も平均的な高さなのか? でも少し団子っ鼻っぽいのはコンプレックスだ。口も薄くは無いけど少し小さいと思う。服装は当たり障りなくファストファッションでまとめて、髪も美容院では無く近所の散髪屋。馴染みのおっちゃんにいつもお任せで切られてるから、大体いつも同じ感じで……。  実家は自営業で、普通からしたら裕福の部類に入るんだろうけど、如何せんβの俺に服や髪型を着飾っても……と思ってしまう自分がいる。  周りからしたらザ・平凡の俺がハイスペックなα様の隣にいつもいるっていうのは、不思議でしょうがないはずだ。  ホラ、現に今も…… 『隣……またいるよ……』 『洋介のセフレでしょ?』 『今度は宮本君狙いって事?』 『タチ悪~……』  聞こえてます。ハイ、聞こえるように言ってるんですよね?  洋介のセフレっていうのは本当は違うが周りからすればそれは事実……。体の関係なんて無いんですって言ったところで、誰も信じてはくれないだろうから今更何も言わないが、冬悟狙いって……。  俺は昔、冬悟からの告白断ってんだぞッ!! って言ってやりたいよ。  配膳のお盆におばちゃんが次々におかずやらご飯やらを乗せてくれて、俺は無言のまま列から解放されると、スタスタと空いている席を探す。奥の窓際の席が空いているのを見付けて、そちらに足を向けると 「宮本君、一緒にお昼どう?」 「ここ、席空いてるよ?」  なんて、後ろから次々に声をかけられている冬悟がいる。俺はいつも通りそんな冬悟を無視していると 「悪いな、奏汰と食べるから」  笑顔で断っていると解る声音が聞こえ、俺は唇に力を入れてしまう。力を抜いてしまうと絶対ニヤけた顔になってしまう自信があるからだ。  俺が席に着くとすぐに正面に冬悟が座るので 「良かったのか?」  他の人と食べなくて。とまでは言わない俺に、一瞬冬悟は嫌そうな顔を向けると 「毎回聞かなくても、解るだろう?」  と、俺と同じで決まった会話のやり取りをする。  そうやって冬悟からの言葉を聞いて、俺はいつも安心して箸に手を付けるのだ。  いつものようにお互い無言で飯を食っていると 「今日もお前の家、行くからな」  あらかた飯を食べ終わり水を飲み干した冬悟からそう言われ視線を上げれば、優しい眼差しで俺を見詰めている表情があり、俺はパッと視線を外すと 「……、何か最近来るの多くね?」  ボソボソと呟く俺に、冬悟は苦笑いを浮かべながら 「だったら、ちゃんとまともな食事しろよ」  と言ってくるから、俺は口を尖らせ 「料理が破壊的に出来ないの知ってるだろ?」  拗ねるように言った俺に対して、冬悟は何か思い出したように可笑しそうにプッと吹き出すと 「まぁお前、昔卵をレンジに入れて爆発させてたしな」  俺の黒歴史をサラリと言われ、俺は自分の顔が赤くなるのを感じながら眉間に皺を寄せ 「お前ッ! まだその話引っ張るのかよッ」 「何気にアレは目の前にいた俺がトラウマになったからな……だから飯食わせてやってんだろ?」  中学の時に俺の実家で冬悟と二人きりの時、腹が減ってた俺は簡単なものでも作ろうと一人キッチンに立っていた。冬悟はリビングでスマホを弄っていて、パパッと何か作ろうとした俺の行動を見ていなかった。暫くして何気にスマホから視線を上げた冬悟から 『何作ってる?』  と、問われたので 『茹で卵』  と、返した俺にしばしの沈黙。  キッチンではレンジの音だけ鳴っていて、お湯を沸かすガスや鍋の中のお湯が沸騰する音がしなかった為に、ガタッと焦ったように立ち上がった冬悟が近付いてレンジを覗き込んだ瞬間にバンッ! と卵が破裂した。  その後で延々冬悟からの説教。  そりゃぁ目の前で卵が破裂したのがトラウマになるのは解るけど、俺だってその後の説教はトラウマだ。  冬悟的には食パンをチンしていると思ってたらしい。  俺はその失敗から怖くてあんまりキッチンに立つ事をしなくなった。だから大学で一人暮らしを始めても自分で料理を作った事は全く無いし、しようとも思わない。まぁ、冬悟が作りに来てくれる時は隣に立って野菜をむしったりはしているが……。  反対に冬悟は、元々なんでも器用にこなしてしまう事もあって料理の腕も半端無い。 「けどさ、冬悟だって色々予定あるだろ? こんな頻繁に来なくても、コンビニとか外食とか……俺、大丈夫だけど……」 「何言ってんだ、お前今からそんな食生活じゃ将来早死にするぞ?」 「早死にって……」  縁起でも無い事言うなよ……。と口の中でモゴモゴと喋る俺に 「お前に拒否権はねぇからな」  クイっと顎で言われてしまえば、もう言い返す事も出来ない。冬悟はこうと決めたら絶対に曲げない頑固なところがあるから。  破壊的に料理が出来ない俺を心配して、冬悟は頻繁に飯を作りに来る。大学に入学してそれぞれ一人暮らしを始めたタイミングからそれは変わらない。  俺は、はぁ~。と溜め息を吐き出して今日は一緒に帰るのか、後から冬悟が一人で俺の家に来るのか確認を取ろうとして息を吸い込んだが 「宮本君、今ちょっと良いかな?」  俺達が飯を食っているテーブルに、何人かの女子が集まって冬悟に声をかけてくる。その雰囲気から、声をかけてきた子が冬悟に告白でもするんじゃ無いかって安易に予想できてしまい、俺は気不味さに上げていた顔を下に向け吸い込んだ息を細く吐き出した。 「今は無理って、状況見て解らないかな?」  そう静かに返した冬悟をチラリと前髪の間から盗み見ると、口角は上がっているのに声と目は笑っていない表情が見えて、俺はギクリとする。  ヤバイ、この顔は怒ってる。  俺は冬悟から女子達へと視線を移すと、女子達もまた冬悟が怒ってると感じ取っているらしく、チラチラと俺の方へと助けを求めるように視線を投げ掛けてくるから……、俺は自分のトレーを持ちガタリと席を立つ。 「奏汰?」  席を立った俺に、冬悟は何をしているんだ? という顔を俺に向けてくる。だから俺はニカリと笑って 「ちょっと呼ばれてたの思い出したから、先に行くな。お前はユックリすればいいから」  と、冬悟に一言言って俺はその場から離れる。 「ちょっ、奏汰っ!」  背中に冬悟の声が当たるが、俺は振り返らずに学食を後にする。暫く歩いて大学の中庭へと出ると、近くにあるベンチに腰掛け溜め息を吐き出す。  さっきも言ったけど、俺は昔冬悟に告白されている。あれは、俺達が高校を卒業する少し前だ。  俺も冬悟の事が昔から好きだった。だから告白された時は夢かと思うくらい嬉しかったのを覚えている。だけど俺は冬悟からの告白を断った。  それは、アイツがαで俺がβだからだ。  バース性がハッキリするまではお互いに相手しかいないっていう位好き合っていたように思う。  俺達は家が近所で、いつもお互いの家に行き来するくらい一緒にいた。俺の家も冬悟くらいじゃ無いケド父親が自営業をしていて、事業は順調。そのかいあってか裕福で、親同士も仲が良かったと思う。けれどその環境が変わったのが俺のバース性がハッキリしてからだ。  冬悟は中学二年のバース性検査で俺達の中の誰よりも早くα性である事が解った。まぁ、両親共にαである冬悟がα以外になるなんて誰も思って無かったから、当たり前っちゃぁ、当たり前だったのだけど……。  で、俺のバース性がハッキリ出たのは冬悟から一年遅れの中学三年の時。俺の両親は共にβだったけど、親族の中にはΩがいたから俺も淡い期待はしていた。だが、出たバース性はβで……。  冬悟とは番え無い現実に打ちのめされたっけ。  その時には冬悟も俺も高校から大学までエスカレーター式の学校に行ける事が推薦で決まっていて、同じ高校の違う学科にいく事になっていた。その時の俺はそれさえも苦痛だったけどさ……。  好きな相手と同じ高校から大学に行けると、バース性が解る前までは凄く楽しみで、冬悟とも大学に入ったらルームシェアしちゃうか? なんて冗談めかして言ったりしていたのだが、俺のバース性が解ってからはそれらが全て変わったから……。  冬悟は俺がβでも変わらず一緒にいようと言ってくれていた。大学に行っても約束してた通りにルームシェアをしようとも……。  けど俺からその問いに首を縦に振る事は無くて……。だってどう足掻いたってこの先冬悟と俺が一緒になれる事はもう無い。βの俺では、いつか現れるであろう冬悟のΩに奪われてしまうのだから……。  だから高校卒業間近の時に、冬悟から告白されても俺は断わったのだ。だって最終的にもっと苦痛になる事が解っているのなら、最初から無かった事にすればいい。  それに、俺のバース性が解ってから冬悟の母親に度々嫌な顔をされていた事実もある。 「まぁ……気持ちは解るけどね……」  冬悟の家はα同士の婚姻で冬悟が生まれた。だが、上の兄二人は父親が囲っているΩから生まれた腹違いの兄達だ。長男は今父親の会社を手伝っていて、次男は美容室を何店舗も経営する美容師だ。  α同士の婚姻では必ずαが生まれるが、着床率が低く大体はお互いが囲っているΩにα性を産ませる事が多い。当然、冬悟の家も冬悟が生まれる確率が低かった為、Ωにαを生ませた経緯がある。  冬悟の母親は遅く出来た我が子を溺愛していて、将来的にはαかΩと婚姻させたいと昔から言っていた。だから俺のバース性が解るまでは俺に幾度となくΩであったなら冬悟と一緒になって欲しいと言われていた。それは、冬悟が俺を気に入ってくれていたからだ。だけど結局俺はβ性だった為に、それが解ってからは俺と一緒にいる事をよく思わなくなった。  冬悟の家に行く度に険しい表情で俺を見詰め、何か言いたげにいつも唇に力を入れていた姿を思い出す。  ある日喉が乾いて冬悟の部屋からキッチンへと下りると、長年お手伝いをしている清美さんと冬悟の母親が俺について話をしているところを聞いてしまった。 『βと解った時点で冬悟を想うなら離れるべき』や『何人かのΩを早急に冬悟へあてがわなければ、あの子に何をされるか解らない』等。まるで俺が冬悟にとって害悪とでも言わんばかりの言い方に、俺は打ちのめされた。  それを聞いてから冬悟の家には行かなくなったし、あまり冬悟とも一緒にいる事が無くなった。  冬悟は相変わらず俺に近付いて来ていたが、俺があからさまに避けるようになったのだ。  告白を断って、大学では洋介との噂も否定しない俺に、変わらない態度で接してくる冬悟。   諦めようと距離を空けたり、冬悟に他の人の事を敢えて良い風にアピールしているのに変わらず来られると俺も踏ん切りがつかない……。  どうしたもんか……。と顔を上に向けて晴れ渡っている空を見上げていると、スマホがラインを告げて俺はパンツのポケットから取り出し画面を確認すれば 『十八時に行くからな!』  少し怒っているような冬悟からの文面に俺は返信を返し、午後の講義を受ける為ベンチから立ち上がる。

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