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「兎にも角にも、ひとまずは朝食を済ませてください。その後は散歩ですので」 「分かりました」 早口気味でそう告げると、先に部屋から出て行ってしまった。 依頼人の主人から丁重に扱うようにとでも言われたのか、本人がいなくとも、嫌々ながらも、ベッドから下りる時のように手を貸してくれて、歩くのを手伝ってくれたが、姫宮が口答えしたのがよっぽど腹が立ったのだろう。 今回が初めてのことではないのだから、手を貸してくれなくても大丈夫だろう。 「⋯⋯寝ている時から、怖い思いをさせてごめんね」 順調に育ってくれた自身の腹を撫でると、遅れてポコっと蹴ったのを感じた。 少し目を見開いたものの、やがて小さく笑った。 「ありがとう。君はきっと優しい子に育つね。あともう少しでパパとママに会えるから、楽しみにしてて」 本当の両親に会える時、それは同時に産みの親である姫宮との別れの時。 血が全く繋がってないとはいえ、本当の自分の子のように愛し、大事に大事にこのお腹の中で育て、無事に産んできた。 二度と会わないことが多い子達をここまで愛せるのは、オメガ特有の母性的なものもあるかもしれないが、それよりも特別なことを一度味わったからだ。 それはもう二度と与えられない幸せだとも。 「もたもたしているとまた怒られてしまいますね。君のために今日もがんばるね」 用意されていた朝食の席に着き、黙々と食べる。 姫宮の他にさっきのお世話する人しかいなく、その人とは一緒に食べないため、一人で食べるのが常だ。 その慣れてしまった沈黙を遮るのは、依頼人の奥さんが胎教にと、リクエストしてきたクラシックが流れている。 先ほどの喧騒を心安らかにしてくれるし、何よりお腹の子にも良いことだ。 時おり腹を撫で、食事をしたりと優雅なひとときを過ごした。

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