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侘しさを抱えた目で、依頼人 夫婦が助産師から赤子を、慣れない手つきで受け取った瞬間、嬉しそうに涙を流す様を見つめていた。
「本当にありがとうございます。今がとても幸せだわ」と。
それは何より。そういう手助けをするのが自分の仕事ですから。
しかし、 出産の疲れもあり、「⋯⋯何よりでございます」と言うので精一杯だった。
今回も無事に産まれてきてくれて本当に良かった。
四之宮夫婦に大切に育ててもらって幸せになることを祈りつつ、助産師からの労りの言葉に何とか返そうとした。
「あっ、姫宮さんも抱いてもらってもいいですか?」
幸せが滲み出ている夫人からの申し出に、ほんの少しの迷いを見せた後、ゆっくりと首を横に振った。
「⋯⋯私が抱いてしまって、情が映りかねないですから」
「そうでしたの。ごめんなさいね。あまりにも嬉しくて、お礼も兼ねてで⋯⋯」
「いえ⋯⋯」
力なく笑う姫宮に、それでも笑顔を絶やさない夫人は主人と共に分娩室から先に出ていくのを続けて出て行こうとした。
『愛賀 。お前のことが必要なくなった』
冷たく言い放つ声が聞こえてくる。
あの声だ。
『お前はここまでだ。子どもももらっていく』
いやだ。どうして連れて行くの。
「姫宮様⋯⋯?」
付き添っていた助産師が異変に気づいていたが、姫宮は答えていられず、呼吸が浅くなっていき、パニックに陥っていく。
どうして、あなたとの大切な子どもなのに、私から奪うの。
「姫宮様っ!」
私を愛してくれていたんじゃないの。
呼吸が上手く出来なくなっていく最中、"あの人"の声がガンガンと頭の中で鳴り響く。
私がオメガだから?
ふっと、暗闇に突き落とされた。
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