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12.
「御月堂様、姫宮様がお見えです」
ある一室の前に立ち止まると、数回扉を叩いて、透き通るような声でそう言う。
「入れ」
やや遅れて聞こえてきた淡々な声に、ピリっと緊張し始めた。
何度このような場面に遭遇しても、慣れない。
そんな様子の姫宮に気づくことなく、扉が開かれた。
「失礼します」
綺麗なお辞儀をした後、一歩横にずれた松下の後に続いて、姫宮も一歩中へと入る。
見渡してしまいそうな広さに、手前には来客用のソファとローテーブル、奥には外の景色が見渡せる壁一面ガラス張りの前、エグゼクティブチェアに座る者がいた。
染めたことのない髪をきっちりと撫でつけ、一瞬の隙を見せない冷淡そうな雰囲気を纏わせている。
彼の元々の性質もあるだろうが、アルファという威圧が嫌悪感となり、姫宮の頬をピリつかせた。
「ここまでご足労だった。ここの製薬会社の代表取締役を務める御月堂慶だ」
こちらに歩み寄ってきた御月堂がこちらに手を差し出す。
「姫宮、愛賀です」
震えている手を悟られないだろうか。
そう思いながら、その手を握った。
ほぼ垂直に見上げないと拝めない顔は、松下とは違い、にこりともしてなかった。
しかし、そのようなことは今までもあっただろうと己を叱咤し、どうにか愛想笑いを浮かべる。
「ここで立ち話もなんだ、そこに掛けてくれ」
「はい」
自身の後ろにある来客用の椅子を姫宮に見えるように体の向きを変え、指し示す。
そして、そのまま御月堂が座ったのを、反対側に座った。
直後、それぞれに粗茶を置いた松下に軽く会釈する。
「さて、先日送った手紙に目を通したと思うが、第二の性である特性上、妻との間に跡継ぎの子どもが身篭らなく、将来が危ぶまれていた。そんなところに貴殿の話を耳にし、是非ともと依頼をしたわけだが、先日仕事をしたと聞く。急は要さないが、悠長もせぬように」
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