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この製薬会社で開発された抑制剤を服用したことがあるが、前まで服用していたものよりも効き目が良かった。 ネットでも評判がいいらしく、その上業績を伸ばしている大企業である。跡継ぎがいなければ致命的だろう。 今まで依頼してきた中で、多少事情が違えども、こちらにも責任が伴う。 やや緊張気味に「分かりました」と告げる。 「口約束だけでは信用ならんからな。──松下」 「はい」 御月堂のそばに控えていた松下が、黒いバインダーから一枚の紙を取り出し、それを姫宮の前に置いた。 この場面ではよくある誓約書だ。 ざっと読んでいく中で、ある文が目に止まった。 "仮に代理出産する乙の身に何かあれば、甲に一切の責任を負い、白紙に戻す" 前に一度、流産をしたことがあった。 それも、依頼した人の夫人からの酷い嫌がらせが原因だった。 たしか、今回の御月堂のような家柄ではなく、金持ちに毛が生えたような程度で、さほど子どもに必要性を感じてないと思ったのが、妊娠してしばらくした後のことだった。 子どもに自分の声を聞かせたいからと、よくそばにいることがあったが、大半は姫宮の第二の性に対する心のない言葉たちで、それに対して言い返すことができるはずもなく、ストレスが蓄積していった。 さらには、ずっと座っているのも良くないといって、立ち仕事をさせられたことがあった。 皿洗いならまだしも、次第に重い物を持たせるなど、特にお腹に負担がかかるようなことをされ続け、ある日突然、お腹が痛み出した。 動きすぎたからとのことだった。 そのことを聞いた依頼夫妻は大げさに悲しみ、挙げ句、裁判を起こした。 ほぼないことまで言われ、結果はこちらが多額の慰謝料を払わされることとなった。 慰謝料なんてどうでもいい。どんな形であれ、守ることができなくて、この手で殺めてしまったことに匹敵する罪悪感が大きかった。 そのような経験から今回のような契約書を提示しない依頼人には、断りを入れていた。 今回は負い目を感じないであろうと、意を示すサインを入れた。

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