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気を取り直してというように、玄関に近い右手側の部屋から順に安野が丁寧に説明していく。 「こちらが今日から姫宮様のお部屋となります」 安野がそう言って、ドアを開けた。 十二畳程度だろうか、一人部屋にしてはかなり広い空間に、ツインベッドが備え付けられ、大きな窓が柱で二箇所区切られており、開放的な部屋だと思わせた。 「姫宮様のお荷物はこちらに置かせていただきますね」 「はい」 ドアの隣の収納スペース前に置かれた。 「お気に召したでしょうか」 「ええ······。私にはもったいないほどのものです」 恐る恐ると足を踏み入れ、ゆっくりと見回す姫宮に「そんなことはございませんよ」と安野が言った。 「ゆったりとした空間で心身共に穏やかに過ごせますので」 「······そう、ですよね」 いつまでも食い下がっていても仕方ない。 曖昧な返事をしつつ、窓の外から見える景色を眺めた。 二十階建ての最上階であり、そこそこ見晴らしがいい。 事前に松下が、「高い場所は平気ですか?」と訊いてきたのはこのことだったのだろうと頭の隅に置きながら、そもそも高かろうか低かろうか興味ない姫宮は、すぐに安野の方に視線を戻した。 「あまり高いとお腹の子に影響あるかもしれないと、しかし、会社が近く、セキリュティが高い所ではないと思い、なるべく低い所にしたようですが、姫宮様は高い所は大丈夫でしょうか」 「はい、大丈夫です」 「あ、それよりもそうですよね! 事前に言われているものですよね。私達も姫宮様のお世話をさせていただく条件にあったのですよ。都内はどこも高いですから──」 「ゴホン」 スーツケースを持ってきてくれた人がわざとらしく咳払いをすると、「あ、お喋りが過ぎましたね」と自身の口を塞いで誤魔化し笑いをした。 「十二時の昼食の時間になりましたら、呼びに参ります。その間に何かありましたら、廊下に出て、左奥にいますので、仰ってください」 「はい」 ドアを開け、「失礼します」とこちらに一礼すると二人は部屋から出て行った。

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