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「お腹の中にいても、こちらの声は聞こえていると言いますしね。聞かせてあげるのはよろしいと思います。なかなか外に出るのは難しいですし、退屈になるでしょう。気晴らしにいいかもしれませんね。⋯⋯急に歌われるのは驚きますので、出来れば声を控えめにしていただければと思います。重ね重ねこのような立場の者がお願いをするのは、大変おこがましいですが」 「そんなことは⋯⋯」 きっと影響の受けないベータなのだろう彼女より下の、オメガにそもそもかしこまるだなんて、こちらこそおこがましい。 と、言うわけにもいかず、曖昧な返事をする。 「それに、偶然にも聞いてしまいましたが、姫宮様の歌声、素敵でしたし」 えっ、と心の中で言った。 仕事として歌う程度で、自分自身で上手いかどうかなんて思ったこともなかった。 すると、安野はくすりと笑った。 「自覚してないという顔をされてますね。今までのお仕事でも歌われたことがあったのではないのですか?」 「私自身はなかったかと。ご依頼人の奥様が歌ってあげたり、今回のように、食事中にクラシックを流すことはありましたけど」 「そうなのですか。なんともったいない!」 力説するように力強く言う彼女に、やや引く。 「ご依頼の方の希望に沿ってなので仕方ないですが、お見受けしたところ、今回はご自身で歌ってもよろしいのですね」 「はい。御月堂様のご希望で」 「でしたら、歌ってくださいませ。お腹の子が喜ばれます」 「ええ、そうして頂きます」 「先ほど言いましたように、控えめにしていただければ、別に構いませんので」と念を押されたが、深いことは考えないようにしようと思う。 「玄関先でも言いましたが、至らないことがありましたら、本当に遠慮なく仰ってくださいね。姫宮様、どこか我慢なさるような節がお見受けしますので」 「私が?」 というより、そんな顔さえ出てないと思っていたが。

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