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「ええ。はっきりというわけではありませんが、どことなく雰囲気、と申しましょうか。私が強く言ったせいもあり、言いにくい状況を作ってしまったのかもしれませんが」 「はっきり言われても仕方ありません。⋯⋯私はそのような人間ですから」 「そんなことはございませんよ」 すぐにはっきりとそう返され、さ迷わせていた視線をつい安野に向けると、微笑んだ。 「今日初めて会った人間が何を分かっているのかと、秀でた才能があるアルファでも、定期的に訪れる発情期(はつじょうき)に悩まされ、それでも懸命に生活を送ろうとする勇ましさがあるオメガでもない、何もかも平凡なベータから申し上げますと、その性を受け入れている節があります。私が思っている以上の苦労をなさったかと思いますが、他人(ひと)様のお子さんを自分の子のように可愛がるのは、私も産める体とはいえ、到底出来るものではございません」 これは、一般的な仕事に就けず、何よりもあの頃の幸せを感じたいからという理由でやり始めたもの、と言おうとしたが、言葉が詰まった。 他の性で、しかも女性であるから確率的に産める体である者から、そのようなことを言われるとは思わなかった。 自分の意思とは裏腹に発情してしまい、本能に抗えず、誰でも構わず体を求めてしまう卑しい性だと、罵られ続けたというのに。 初めて言われる言葉に、戸惑いを覚えている姫宮に気づいている様子の安野が、慈愛に満ちた表情を見せた。 「今まで我慢していた分、私に甘えてください。出来る限り、全力で甘やかしてあげますよ!」 握り拳を作って、声高らかにそう告げる彼女に、少し緊張していた糸が緩んだのか、込み上げるものがあった。 「⋯⋯ありがとうございます」 今はそう言うのが精一杯であった。

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