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23.
起床し、着替えた時から違和感を覚えていた。
服に擦れた時、胸が敏感となっていたようで、いつもより反応したり、安野達が通った時、普段はさほど気にしなかった柔軟剤が嫌に鼻について仕方なかった。
これは、もしかして。
「姫宮様、どうされました? お口に合いませんでしたか?」
一口入れたほどで、ナイフとフォークを食器に置いた時、安野の心配そうな声で言われる。
食欲が湧かない感覚もある。やはり、これはきっと。
「確かめたいことがあるのですが」
「ご懐妊おめでとうございます」
エコー検査をした後、にこりとした顔で医師からそう告げられる。
やはり、そうだった。
「ありがとうございます」
映像で観た御月堂の子 を浮かべながら、お腹を触った。
御月堂の製薬会社の取り引き先である総合病院の人気のない待合室で、姫宮は自身の手に持っている物を見つめていた。
『御月堂雅』と書かれた母子手帳。
その時になって、この名前の人が、御月堂の妻の名前なのかと知った。
御月堂と代理出産の契約をしてから今日 まで、その相手らしい人と会ったことがなかった。
今までは、揃って顔を合わせていたものだから、それが当たり前に思っていたのだが、そうではないこともあるのか。
それとも、それほどまでに夫婦仲は冷めきっていて、それでも後継ぎを産まないといけないから、仕方なしに御月堂が内密にしていることなのだろうか。
いや、と姫宮は思った。
自分があれこれ考えていても、現実が変わるわけではない。自分はただ"仕事"をしていればいい。
そう結論づけた姫宮に、「お車の用意が出来ました」と運転手に声を掛けられ、姫宮は立ち上がった。
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