24 / 106

24.

「ご懐妊、おめでとうございますー!!!」 玄関を安野に出迎えられ、「少々用があるのですが、よろしいですか」と言われるがまま、ダイニングへと向かうと、四人が揃ってそう言ってくる。 クラッカーの煙が漂い、紙片が散らばった。 煙が普段より敏感に感じたのであろう、控えめに咳をすると、「大丈夫ですか、姫宮様」「やっぱりダメだったじゃない」「⋯⋯煙たい」など様々な言葉が飛び交った。 「⋯⋯いえ、ごほ。つわりが少々あるみたいで、いつもなら気にならない臭いまで気になってしまうのです。ですから、気になさならないでください」 「それこそダメですよ。私達は、姫宮様が快適に過ごして頂くためにいるのですから、当の本人が遠慮するところではございませんよ」 「はい、すみませ──」 江藤が不意に、何かを口に入れてきた。 サクッとした食感と同時に、酸味とホクホクとしたじゃがいもらしい味が舌に乗った。 驚きのまま咀嚼し、喉に通してしまう。 「⋯⋯これは」 「クラッカーの上にサワークリームとジャガイモを混ぜた物です。美味しいですか?」 「はい⋯⋯」 「それは良かったです」 「姫宮様、朝食はほぼ食べていらっしゃらなかったので、もっと食べやすい物を作ったんですよ」 「パーティ仕様っていう意味もあるのですけど」と上山(うえやま)が続けて言った。 「食欲が湧かないのもつわりの症状だと聞きました。ですから、無理して食べようとはせず、なんなら雰囲気を楽しんで頂けましたら、幸いです」 部屋を見せつけるように手を指し示す流れで、辺りを見回した。 壁に沿って、輪っかにし、連なった飾り付け、天井に丸い物、ハート型、星型など様々な形と色が浮かんでおり、普段食事しているテーブルには、先ほど口に含んだ物の他に、サラダや果物など、妊婦の姫宮のことを考えた料理が華やかに、かつ、賑やかな雰囲気を持たせている。 病院にいたのは、ほんの数時間だったはずだ。そんな短時間の中でも、ここまで用意をしてくれるだなんて。

ともだちにシェアしよう!