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32.
江藤の言葉を皮切りに、皆は笑うのを止めて、一斉にこちらを見た。
物珍しげに見られて、どう反応をしたらいいのか、というよりも、今自分が笑ったと言っていなかったか。
「えっ、見てみたかった! さぞや美しいのでしょうね〜」
「面白かったと思って頂けて、大変光栄に思います」
「⋯⋯ウケますよね。タヌキがタヌキそばを食べるって⋯⋯」
返事をする前に、安野達で盛り上がってしまい、入る隙間がなく、返事するのを諦め、五人のことを見つめていた。
けれども、無意識に表情を緩めているのを、安野達も本人も気づかないのであった。
その日の寝る前、歯磨きをするため、洗面所に向かい、何気なく鏡に映る自分を見た。
安野達が言っていたような笑みなんて、いつからしなくなったのだろう。
自然と表情を変えるにはどうすればいいのか。
頬を撫でていた手をぐっと押してみる。
ただ頬を持ち上げただけで、笑っているとは程遠い。
両頬を引っ張ってみたりもしたが、ただの変顔になってしまった。
あの人達が笑っていると見えたのは、楽しそうにしているからそう見えたのではないかと、無茶苦茶に頬を引っ張っているうちに、その結論に至った。
「⋯⋯」
手を離し、頬が赤らんでいる顔から、自身の腹部に目を映す。
「御月堂様のお子さんは、どう思いましたか?」
丁寧に撫でてあげると、少しの間の後、そわそわとした感覚が返ってきた。
「楽しかったと思えたなら、何より」
ぽんぽんと優しく叩いた姫宮は、それから歯を磨き、部屋へと帰り、ベッドに横になった。
「おやすみ」
一日の業務を終える言葉を掛けて、目を閉じた。
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