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江藤の言葉を皮切りに、皆は笑うのを止めて、一斉にこちらを見た。 物珍しげに見られて、どう反応をしたらいいのか、というよりも、今自分が笑ったと言っていなかったか。 「えっ、見てみたかった! さぞや美しいのでしょうね〜」 「面白かったと思って頂けて、大変光栄に思います」 「⋯⋯ウケますよね。タヌキがタヌキそばを食べるって⋯⋯」 返事をする前に、安野達で盛り上がってしまい、入る隙間がなく、返事するのを諦め、五人のことを見つめていた。 けれども、無意識に表情を緩めているのを、安野達も本人も気づかないのであった。 その日の寝る前、歯磨きをするため、洗面所に向かい、何気なく鏡に映る自分を見た。 安野達が言っていたような笑みなんて、いつからしなくなったのだろう。 自然と表情を変えるにはどうすればいいのか。 頬を撫でていた手をぐっと押してみる。 ただ頬を持ち上げただけで、笑っているとは程遠い。 両頬を引っ張ってみたりもしたが、ただの変顔になってしまった。 あの人達が笑っていると見えたのは、楽しそうにしているからそう見えたのではないかと、無茶苦茶に頬を引っ張っているうちに、その結論に至った。 「⋯⋯」 手を離し、頬が赤らんでいる顔から、自身の腹部に目を映す。 「御月堂様のお子さんは、どう思いましたか?」 丁寧に撫でてあげると、少しの間の後、そわそわとした感覚が返ってきた。 「楽しかったと思えたなら、何より」 ぽんぽんと優しく叩いた姫宮は、それから歯を磨き、部屋へと帰り、ベッドに横になった。 「おやすみ」 一日の業務を終える言葉を掛けて、目を閉じた。

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