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「おはようございます、姫宮様」 安野が扉を開け、その後ろにいた、相変わらずのにこやかな笑みをくれる松下と、 「失礼する」 一歩足を踏み入れた瞬間、場の空気を緊張へと変えさせた、氷のように冷たい表情を見せる──。 「⋯⋯御月堂、様⋯⋯?」 瞳孔が揺れる。 たしかに、安野達が驚きを隠せないのは無理もない。 移植手術をした時以来であったが、こちらも相変わらずの威圧感を覚える。 それにしても何故、このような所に彼が。 「事前に安野さんにメールでお伝えをしたのですが、仕事の合間にでもいいから、自分の子となるお腹の子に会いに行ったらどうですかと、私が言いましてね。それで来たのですが⋯⋯」 周りのただならぬ雰囲気を感じ取った様子の松下が、一人ずつ見るように辺りをじっくりと見渡し、最後は額からだらだらと汗を流す安野を見た。 「⋯⋯安野さん。もしかして、見てないと言わないでしょうね?」 「そ、そんなことがあるはずがないでしょう!」 誤魔化していることがありありと分かる高笑いの中、「そういうことね⋯⋯」と誰かの呆れた声が混じっていた。 「何はともあれ、御月堂様。お腹の子と話してみたらいかがでしょう」 「ああ、そうだな」 短く返事をした御月堂が、姫宮の前にやってきた。 眉ひとつも動かさない彼が見下ろしてきて、一気に緊張感が高まる。 「⋯⋯」 しかし、待てど暮らせど一向に話しかける様子がなかった。 「あの⋯⋯?」 口を引き結んで、ただそこに立っている彼に耐えきれず、緊張した面持ちで尋ねると、「すまない」と言われた。 「松下にこういうことを話したらいいと言われたが、どうも形になってないと話しているようには思えなくてな。話そうにも話せん」 真面目くさりきった表情で、顎をさする。

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