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34.
「おはようございます、姫宮様」
安野が扉を開け、その後ろにいた、相変わらずのにこやかな笑みをくれる松下と、
「失礼する」
一歩足を踏み入れた瞬間、場の空気を緊張へと変えさせた、氷のように冷たい表情を見せる──。
「⋯⋯御月堂、様⋯⋯?」
瞳孔が揺れる。
たしかに、安野達が驚きを隠せないのは無理もない。
移植手術をした時以来であったが、こちらも相変わらずの威圧感を覚える。
それにしても何故、このような所に彼が。
「事前に安野さんにメールでお伝えをしたのですが、仕事の合間にでもいいから、自分の子となるお腹の子に会いに行ったらどうですかと、私が言いましてね。それで来たのですが⋯⋯」
周りのただならぬ雰囲気を感じ取った様子の松下が、一人ずつ見るように辺りをじっくりと見渡し、最後は額からだらだらと汗を流す安野を見た。
「⋯⋯安野さん。もしかして、見てないと言わないでしょうね?」
「そ、そんなことがあるはずがないでしょう!」
誤魔化していることがありありと分かる高笑いの中、「そういうことね⋯⋯」と誰かの呆れた声が混じっていた。
「何はともあれ、御月堂様。お腹の子と話してみたらいかがでしょう」
「ああ、そうだな」
短く返事をした御月堂が、姫宮の前にやってきた。
眉ひとつも動かさない彼が見下ろしてきて、一気に緊張感が高まる。
「⋯⋯」
しかし、待てど暮らせど一向に話しかける様子がなかった。
「あの⋯⋯?」
口を引き結んで、ただそこに立っている彼に耐えきれず、緊張した面持ちで尋ねると、「すまない」と言われた。
「松下にこういうことを話したらいいと言われたが、どうも形になってないと話しているようには思えなくてな。話そうにも話せん」
真面目くさりきった表情で、顎をさする。
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