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まさか、御月堂だけとは思わなく、普段話したことも、それに前のこともあって、気まずさを覚えていることに加え、話題がなく、姫宮は二人きりになった途端、口を閉じてしまっていた。 それは、御月堂も同じらしく、一言も話さず、ただひたすらに歩いているだけだった。 このことさえも気まずい。 そもそも、彼は歩くのが速く、姫宮の一歩が彼にとっては二歩程度と差があり、追いつくのさえ必死だった。 最近は、内蔵が圧迫され、歩くことさえ息苦しいというのに、常に小走りは辛い。 さすがに言った方がいいと口にしようとした。 「あ、あの⋯⋯っ、御月堂、さ──っ!」 御月堂が急に立ち止まったようだ。彼の大きな背中に直撃する形になってしまった。 「申し訳ございません、御月堂様」 「いや⋯⋯、それよりもお前の方が大丈夫か。今の当たった衝撃で子どもが危険な状態になると松下から聞いた。大丈夫なのか」 「ええ、はい。転びはしなかったので、大丈夫かと思います」 「そうか」 そう言ったきり、また前を向いて歩き出してしまった御月堂を、再び追いかける形を取らされてしまうのであった。 またしばらく会話をせず、ひたすら歩き、汗がどっと出た時、御月堂があるホテルの前に立ち止まった。 見上げてしまいそうなほどにうずたかい建物を、躊躇することなく入っていく御月堂の後を追った。 入った瞬間、心地よい冷気が姫宮をまとい、思わず小さく息を吐いていると、御月堂らの前に一人のホテルマンがやってきて、深々とお辞儀をする。 「御月堂様。暑い中、ご足労をおかけしました。こちらへどうぞ」 ホテルマンが差し出した先には、全面ガラス張りの窓に照らされた、二十席ほどある、オープンな喫茶室らしいスペースだった。 何故、ホテルにと不思議に思ったが、ここに来る目的のためなのかと、共に赴いた。 どっしりとした肘掛けの一人用ソファは、座ると思っていたよりも沈み込み、「わっ⋯⋯」と悲鳴を上げてしまった。

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